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ふつうに憧れて~日本で生きづらさを感じている女の子に寄り添いたい
国際NGOプラン・インターナショナルが実施している「女の子のための居場所・相談」プロジェクト*で日々女の子の相談に乗っている臨床心理士の橋本です。
新学期を迎えて1カ月、ゴールデンウィークを過ぎたあたりから、新しい生活に馴染もうと懸命に過ごしてきた心の緊張がふっと緩み一気に疲れを感じてしまう人々が多い時期です。
そんな中、新しい環境に溶け込めずにもがいている女の子たちからは、「ふつうになりたい」、「ふつうになるにはどうしたらいいですか?」という悩みが多く寄せられています。
「ふつう」を求める女の子たち
みんなのように「ふつう」に友達がほしい、輪の中に入って「ふつう」におしゃべりしたい、「ふつう」に親に愛されたかったなど、その苦しみは溢れるように出てきます。
本当は「ふつう」なんて存在しないのかもしれません。ただ、多数がうまくやっているようにみえることでしかないのかも…。
しかし、みんなと同じように振る舞ったつもりなのに、自分だけいじめられてしまったり、いきなり先生から自分だけが叱責されたり、輪の中に入っても何をしていいのかわからなかったり、いわゆる「ふつう」がわからず、苦しんで来た人たちは意外に多いものです。努力の方向がわかれば、対処もできますが、何が悪いのかもわからず、途方にくれたまま、孤独を選ばざるを得ないまま時が過ぎていってしまう人も少なからずいます。
そのような悩みを抱えてきた人たちに、今は多様性の時代だから、あなたはあなたでいい、「ふつう」を追わなくてもいいと返答するだけで、果たしてその人たちが納得して、自分を誇らしいと感じ、このままでいいのだと思えるでしょうか。
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「多様性」という言葉が独り歩きする社会のなかで
多様性、インクルージョンが叫ばれて久しいですが、その変化は非常にゆっくりです。
言葉だけが一人歩きし、実態が伴わない現場も多いように感じます。
怒られた記憶はあっても自分の意見を尊重されたり、褒められた経験はほとんどない、「出る杭は打たれる」ことを体感して成長した子どもたちは特に自分の将来に展望を持てず苦しんでいます。
そんな経験をしてきた子たちがいきなり、何も変えなくていい、あなたはあなたと言われてもなかなか納得できないのも理解できます。
今の状況が変えられないことは苦しいまま生き続けることを意味するからです。
苦しみの声にじっくり耳を傾ける
その子たちが、人と違うことでどんな差別を受けてきたのか、幾度となく言われてきた心無い言葉がどれだけその子たちを傷つけてきたのかを、まずはじっくり聴いていくことが大切だと思っています。その苦しみに共感し、少しでも気持ちが楽になることを考えることが支援の始めの一歩でしょう。より生きやすい環境について一緒に考えていくことは次のステップになります。
そして、変わらなければいけないのは「ふつう」を追い求めて悩んでいる人たちではなく、社会のほうなのではないでしょうか。自分を「ふつう」ではないと思ってしまった背景には、日本独特の同調圧力や空気を読むことが大切とされていることが大きく影響しているように思います。また、コミニュケーション能力が過大視される現代はさらに追い討ちをかけるように生きづらくなっています。
苦しい思いをされてきた人たちの声に謙虚に耳を傾け、経験を聴き、多様性、インクルージョンのリアルな実現に向けて少しずつでも努力していくことが私たちの役割だと考えています。
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*「女の子のための居場所・相談」プロジェクト
プラン・インターナショナルは、途上国だけでなく、日本国内で生きづらさを抱えて生きている女の子たちを支援するために「女の子のための居場所・相談」プロジェクトを実施しています。
貧困や虐待、ドメスティック・バイオレンス(DV)、いじめ、性的搾取など、現代社会が生み出す問題に苦しみ、家庭や学校、社会からの孤立を深め生きづらさを感じている女の子一人ひとりに寄り添い、彼女たちが前向きな
人生を歩めるよう後押しする支援です。