「バリュー」とは何か? 福岡陽さんに聞いてみた(2.実践編)
「バリュー」をテーマに、2回にわたりお届けしている対談。スタートアップ企業では「プロダクトのバリュー」など、身近な会話の中で出てくるキーワードですが、そもそもバリューとは何でしょうか? 日本語にすれば「価値」と訳せるそのキーワードを、大手企業のブランディングを手掛けてきた株式会社エフアイシーシーの福岡 陽さんとともに掘り下げました。後編は、いくつかの企業の実例を取り上げながら、より理解を深めていきます。
(前編はこちら)
福岡 陽さん
デジタルマーケティングエージェンシーFICC inc.所属、ブランドエクスペリエンスクリエイティブ事業部 事業部長、クリエイティブディレクター。ブランドビジョンの構築から効果的なブランドエクイティの形成、マーケティング施策提案まで、ブランドの長期的な成長を目指したコンサルティングを行う。
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― いかに「実感」させられるか
福岡
バリューの話に戻りましょう。繰り返しますが、バリューは受け取られ方が重要。サービスであれば、利用者の解釈が無い限り成立しないということ。バリューは、人の解釈を経てベネフィットになるという話です。
鈴木
利用者の解釈は、どのように評価するのですか?
福岡
それは聞かないと、分かりません。場合によっては聞いても分からないかも。人間って、実感することが苦手なんですよ。逆に、実感させられれば勝ちということですが。その点では、バルミューダはよく分かっている。サイトを見ると、面白いことが書いてあります。
鈴木
見てみましょうか。
福岡
まず、羽が大きくてジェットエンジンのようなイメージがビジュアルになっています。ジェット機のマークのボタンも付いていて、「それくらい強いんですよ」と、言っている。面白いのはこのページ内の見出しで、「はっきりとわかる作用感」と書いてあります。正味な話、どれくらい空気がきれいになったかなんて誰も分かりませんよね?
鈴木
たしかに(笑)。
福岡
でも、バルミューダは、いかにそれが効いているかを分かりやすく伝えている。そのために吸い込み口にもわざわざライトをつけて、ほこりが吸い込まれていく様子を目に見えるようにしています。わざわざ光らせてまで実感させる。それが重要なんです。
鈴木
今日は「体験価値」についての話もしたいと思っていたのですが、まさにそういうことでしょうか。
福岡
この「実感」というのが、体験価値とも言えるのかもしれないですね。世の中で売れたプロダクトは、「実感」がうまくいっているものが多いです。ダイソンの掃除機もそう。紙パックの掃除機を使っていた日本の家庭に、透明で中身が見えるダイソンが来た。誰も今までの紙パックの中にどれくらいのゴミが入ってたかなんて知っている人はいない。すると、ゴミの実態を見せられただけで「ダイソンすごいんじゃないか」と実感しますよね。いかに解釈しやすくするかということを考えてあげる。もちろん、人を騙すような過剰な表現はよくありません。でも、そこに素晴らしい機能があるなら、それだけの実感を与えてあげるべきだと思います。
鈴木
私たちがプロダクトをつくるときには「こういう価値の提供をしたい」という思いがあり、それを感じてくれた人は「こういう行動をするはずだ」と、行動で定義をしています。
福岡
自分たちのバリューと相手のベネフィットが結びついているか、というのは意外と難しいんですよね。空気清浄器には、空気をきれいにするという機能がある。機能が生み出した結果を、受け手は新鮮な空気だと思うかもしれないし、赤ちゃんに安心だと思うかもしれない。相手が受け取れるように分かりやすく誘導することが重要で、さらにはそれを実感して記憶してもらうことが大切です。「自分の価値が、正しく実感される」というのが、「適切なバリューがある」という状態なのでしょう。それが繰り返され蓄積されていくことで、人々に「こういう価値を提供してくれるブランドなんだ」という認識が生まれていきます。
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― とんかつに知る、「バリュー」の本質
鈴木
実は、福岡さんにバリューの話を聞こうと思った理由がもう一つありました。それは、twitterのカバー画像にある、とんかつのビジュアルとVALUEというキーワードで。
福岡
とんかつ、ちょっと面白いかなと思って(笑)。「もち豚 たいよう」で、検索してみてください。
鈴木
「もち豚とんかつ たいよう」。武蔵小山にあるとんかつ屋ですね。
福岡
写真でロースランチを見ると……、厚みがあってピンク色の肉。ジューシーさと、肉々しさ。私はこれが、人生史上最高のとんかつだなって思うんですよ。これが何と、1200円。1200円でこの厚みが味わえるんです。これが、バリューです。
鈴木
バリューですか!
福岡
ポイントだと思うのは、お味噌汁。ランチにはお味噌汁が付くのですが、お味噌汁の味は普通かなぁと思ったんですね。ある意味ネガティブな要素かもしれないのですが、そのとき逆に納得感が生まれたのです。
鈴木
納得感?
福岡
そうです。このランチは「肉にパラメーター全フリ」してるんだと。人間は、与えられた情報を自分で勝手に解釈するんです。例え、ネガティブな情報でも、受け手によっては逆にポジティブにとらえる可能性がある。その解釈によって、唯一無二の体験が生まれる。これが「バリューの本質」です。とんかつって、千差万別ですよね。ぶ厚い系のとんかつもあれば、薄い系のとんかつもある。衣がざくざくしているものもあれば、卵っぽい優しい衣もある。いろいろなベクトルがあるのです。
鈴木
たしかに、競合にはならなそうです。同じとんかつでも、勝てる可能性があると。
福岡
そうそう、同じカテゴリにあっても、相手の解釈さえ変えれば勝てる。必ずしも分厚いかつが絶対正義じゃない。それを教えてくれるのがとんかつだぞ、ということです。
鈴木
同じカテゴリだからと言って、あきらめちゃいけないというか。それぞれの強みがあるということですね。
福岡
そして、その強みをきちんと伝える。簡単に言えばデートのときに食べてください、日常で食べてくださいとか、そういうことを言う。誰もが情熱をもって何かを作っているわけなので、その情熱がみんなに伝わらなかったら悲しいですよね。道徳観を持って、こういう世界がいいというビジョンを描き、自分のミッションをもとにバリューを生み出す。そして、そのバリューをどのように伝えれば、相手のベネフィットとなるか。さらには実感してもらえるか、ということです。
鈴木
バリューを伝えるための、コミュニケーションを設計していくと。
福岡
慈善的なように聞こえるかもしれませんが、最終的には事業やブランドが勝つための方法です。情熱を現実のものにしたいのであれば、そこまでを考えてやらないともったいないと思います。
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お話を聞いて
人により定義が異なるミッション・ビジョン・バリューですが、会社と事業/製品と構造化し捉え直すことにより、それぞれの階層での役割を明確にしていけるように感じました。
バリューとベネフィットの関係性は、自社でも話題に上がるプロダクトバリューと理想体験の設計に通ずる所があり、両者の関係性について気づきをいただける時間になりました。
福岡さん、ありがとうございました🙏🏻
先日公開された、FICC BX事業部のnoteマガジンでは、今回お話したバリューやビジョンなど、ブランディング戦略をわかりやすくお届けしていく予定のようです。ぜひチェックされてみてください🙂