見出し画像

堤中納言物語

"この姫君の、の給ふ事、『人々の、花や蝶やと愛づること、はかなくあやしけれ。人は、実あり、本地尋ねたるこそ、心ばへをかしけれ』とて、万の虫の、恐ろしげなるを取りあつめて、『これが、成らむさまを見む』とて、さまざまなる籠箱どもに入れさせ給ふ"本書は平安期唯一残る短編集。⁣

個人的にはメタバース芸大RESTのサブテキスト、また平安時代の文学をあまり読めていない事から本書を手にとりました。⁣

さて、そんな本書は編者は不詳、収録された10編の物語の中のいずれにも「堤中納言」という人物は登場せず、この表題が何に由来するものなのかは不明という不思議な、それでいて散逸しやすい短編たちが平安時代に唯一残った作品。それを初めて読む方の入門書として『現代語訳』『原文』『寸評』の順に収録してくれているわけですが。⁣

中ではやはり、宮崎駿『風の谷のナウシカ』のモデルになったとも言われる『虫愛づる姫君』化粧せず、お歯黒を付けず、ゲジゲジ眉毛のまま、引眉せず、平仮名を書かず、可憐なものを愛さず毛虫を愛する風変わりな姫君の話が、同時代における特異さ、しかし筋が通っていて強く印象に残りました。⁣

一方で「冬ごもる……」という書き出しで始まる、数行程度の断片、物語の冒頭部分で終わる『冬の恋の行く末は』まで、各作品が四季の移り変わりの順番で収録されている本書。貴族中心とはいえ『源氏物語』以外にも、こんなにバラエティ豊かな物語が誕生していた事を知って驚き、何だか嬉しくなりました。⁣

平安時代の短編集として、また『風の谷のナウシカ』好きな方にもオススメ。

いいなと思ったら応援しよう!