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騎手マテオの最後の騎乗
"騎手ジュセッペ・マテオは、もう一度だけ大レースに出て走りたいと願ったのだった。もう一度だけでいいから大レースに出て優勝したい(中略)そう彼は思ったのだった"1985年、著者の遺稿の中から出版された本書は詩的イマジネーション力と深い人間智が伝わってくる活劇小説。
個人的にはメタバースで主宰する読書会で参加者にすすめられて手にとりました。
さて、そんな本書はウィーン生まれ。カフカの親友であるマックス・ブロートに発見されて『プラハ詩人サークル』にも所属するも、ナチスの手を逃れてアメリカ、ハリウッドに亡命中に執筆したもので。ヨーロッパ中に名を馳せたが、老兵化した騎手マテオがオーナーから解約通知を受ける場面から始まり、しかし、その日暮らしをしているうちに人生の生きがいであったレースにもう一度だけ出たい衝動にかられてオーナーに頼み込み、最後のレースに挑む姿が約100ページで描かれているわけですが。
まず、私自身が"老兵"40代のマテオに近い世代ということもあって、どうしても感情移入してしまい【周囲には言わせとけ!若い騎手なんかに負けるな!】とエールを送りながらラストまで楽しませていただきました。
また本書は(後書きから拝借すると)ハリウッド映画にそのまま出来そうな『軽み』と、ウィーン的な『ポエジー』があって。物語的には明快そのものでありつつ、登場人物それぞれの描写には【あえて語られない深みがあって】心地良かった。
老兵の復活劇に感情移入したい方、優れた短編小説としてオススメ。