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飯待つ間
"余は昔から朝飯も喰わぬ事にきめて居る故病人ながらも腹がへって昼飯を待ちかねるのは毎日の事である。今日ははや牛砲が鳴ったのにまだ飯が出来ぬ"1985年発刊の本書は全集から発表年月順に抜粋された珠玉の随筆集。
個人的には俳句や短歌はもちろん多方面に日本の近代文学に多大な影響を及ぼした著者の随筆に触れてみたい。と、手にとりました。
さて、そんな本書は全集以外では"一般読者の目に触れることが少なかったと思われるものを進んで取り入れ"発表年順に編集、29篇を収録したものなのですが。
冒頭の著者24歳のときの諧謔心溢れる『刺客蚊公之墓碑銘』から始まり、35歳、死の前年の草稿とも言われる、病の痛みを落語仕立ての一席で退散させようとする『煩悶』まで多種多様な作品があるも(表題作の猫のイラストも可愛い)総じて陽性の笑い、ユーモアが込められて著者の人柄が感じられます。
一方で"こんな犬があって、それが生まれ変わって僕になったのではあるまいか"と自身の足が全く立たない様子を物語の犬に例えた『犬』には、なんとも悔しさのようなものが滲み出ていて印象に残りました。
著者ファンはもちろん、明治期の優れた随筆集としてもオススメ。