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スピノザの診察室

"『たとえ病が治らなくても、仮に残された時間が短くても、人は幸せに過ごすことができる。できるはずだ、というのが私なりの哲学でね。そのために自分ができることは何かと、私はずっと考え続けているんだ』"2023年発刊の本書は京都で働く内科医が主人公の医療小説、映画化決定作品。⁣

個人的には京都を舞台にした小説が読みたくなったので本書を手にとりました。⁣

さて、そんな本書は医師としても20年間勤務するかたわら、2009年に『神様のカルテ』でデビューした著者による一冊で。かつては大学病院で数々の難手術を成功させて将来を嘱望された凄腕医師だったにも関わらず、最愛の妹の早すぎる死がきっかけで、今は京都の地域病院で働く内科医をしている雄町哲郎。哲学者のスピノザに『(希望のない宿命論を提示しながら)人間の努力というものを肯定している』と興味を示す哲郎の患者たちとの別れ、かっての同僚たちとの絡みを京都の行事や風景と共に描いているのですが。⁣

やはり、京都に縁ある私にとっては(その方が効率がいい)と、高級車を乗り回す同僚医師とは別に、街中を自転車で駆け回る哲郎の姿が情景と共に浮かんできて、大の甘党という設定とともに紹介されるお菓子も含めて写実的に楽しめました。⁣

また、かっての大学病院では患者の『名前も覚えてなかった』と告白する哲郎が、地域病院では治ることもなく、最期を迎えていく患者たちの名前を一人一人覚えて、向き合って言葉をかけていく姿には、難病を治療する医師とも違う在り方みたいなものを問いかけているように思いました。⁣

京都市内を舞台にした、また医療現場に興味ある方にオススメ。

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