ユービック
"ノブをまわし、リリース・ボルトをひっぱった。ドアは開こうとしない。そしていう。『五セントいただきます』彼はポケットをさぐった。もう硬貨はない。一枚も。『あした払う』彼はドアにそういって。もう一度ノブを回した。"1969年発表の本書は"電気羊"をおさえてPKD総選挙1位に輝いた傑作長編。
私的には最近、著者の『高い城の男』を原作にした海外ドラマにどっぷりハマっていることもあり、未読のまま積ん読になっていた本書を手にとりました。
さて、そんな本書は1992年のニューヨーク、相手の心を読む予知能力者が普通に存在する世界を舞台にして、ある事をキッカケに起きる時間退行現象をサスペンスフルに描いているのですが。
まず印象的なのは、様々な場面で嫌がらせの様にお金を要求されるシーンの描写でしょうか。全てのモノがインターネットに接続する"Internet of Things『IoT家電』の未来を予見していた?と好意的に捉えたとしても【自分だったらストレスフルな生活環境に苦痛を感じるだろうな】と邪推したり。
一方で、物語としては予知能力者集団と、それを中和する不活性化集団(反予知能力者集団)による異能力バトルに終始していくのかと思いきや【前半の3分の一くらいを過ぎた辺りで】予想を軽く裏切る謎めいた展開、そしてラストはどんでん返しと著者特有の"揺らぎ"が魅力たっぷりに感じられる展開に圧倒され【うん。これは面白い!ぜひこれも映像化してほしい!】と読後に思いました。
著者ファンの方はもちろん、あの世と現世、未来と過去、リアルとバーチャルが複雑に組み合わさったミステリー、サスペンス好きな方にもオススメ。