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ガブガブパニック


クマに遭遇したらもう諦めて死ぬしかないと思っている。
最期はひとかけらでも祈る余裕があるといい。愛する人たちのこれからの健やかな未来と、なるたけ痛みが少なく喰われることを切に願う。
それでも逃げられない苦痛については、私の今生の業の深さだと己を受け入れ反省しよう。
きっと実際はビャンビャン泣いておしっこを漏らして痛みに悶え叫ぶだろうが、せめて想像のなかでは穏やかでありたい。


今年の春から市民農園をレンタルして野菜を育てている。
市が格安で畑を貸してくれるという制度があること自体は知っていたけれど、具体的に知ろうとしないとその物事は本当に自分には関係ないことである。
自分が歳を重ねるにつれてあらゆる想像力がついたりつかなくなったりする。先入観、とまでは言わなくてもフワッと「どうせこんなもんやろ」と勝手に想像だけしている。
畑をやってみたい、という気持ちももちろんあったがそれともう一つ、市民農園とはどういったものなのか“自分のなかの想像と現実のギャップ”を目の当たりにしたさがあった。

私の住んでいる土地の場合、市民農園はいくつかあるが場所が違うだけで大体の広さや値段は一緒だった。
期間は4月〜11月までの半年間。それ以降は雪が降るので畑は一斉に閉じるのだそうだ。
家から15分以内の場所で二箇所に絞り、私は自分の好きな雑貨屋の近くにある農園を選んだ。


実際に畑に出るようになってはや二ヶ月が経つ。
畑仕事は想像の2倍ほど地味で3倍ほど身体への負担がすごい。地味な作業ほどしんどい。
収穫の喜びよりも最近は「採れすぎてどうしよう」になり始めた。
最近採れまくっているのはラディッシュとほうれん草で、ばかみたいに種を蒔いたらばかみたいな量ができたのだ。
周りのベテランたちの畑を見るとジャガイモの花が咲いている。そうか、すげえ育つからみんな日持ちする芋類にしてるのかと納得する。私はまだまだ何もわかっていない。う〜ん考えて実践して学ぶこの感覚が実に気持ちいい。

畑の土の匂いは日々違う。
雨が降る前の夕方の土の匂いはこっくりしていて少し木のように感じる。
カラッカラに晴れた日は何故か洗濯物の生乾きの匂いがする。
曲げた腰を伸ばして空を仰ぐと煙草の煙が鼻をかすめる。
市民農園は全面禁煙だが、結構みんな普通に煙草を吸う。
畑で嗅ぐ煙草の匂いはとっても魅力的だ。禁煙してもう4年になるが煙草吸いたいな、と思わされる。


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