裏浅草通信/「映え」が破壊するカフェ文化。
「映え」はカフェ文化を壊さないか?最近、思うことである。
そもそもカフェ文化的なものがあるのかどうか、ということはあるが…素敵なカフェは増えている。浅草でも、川向こうの墨田でも快適で素敵で美味しいカフェがふえている。自分自身は、カフェで思考することが多い。
さて、浅草で話題になっているのが、annorum cafe。浅草の隠れ家的な古民家の二階にあって、一階はアンティーク家具と衣食住の雑貨を扱う「annorum」で、5年前に営業をはじめた。その頃から気になっていた。前を通ることが良くあって、入ろうかなと思いながらも、自転車に乗っていることもあり、敷居の高いお洒落感もあって入りきれなかった。
この六月に二階のカフェがオープンした。訪れたのは九月頃…だった。二組のカップルが居て、さらに一組が上がってきた。坐るなり(女子同士…)店の販売用に置いて合った大きなバスケットを傍に持ってきて、アクスタを配置し写真を撮りはじめた。きゃっきゃっしている。店主が暫くしてオーダーをとりにきた。「あ、まだなんです、ごめんなさーい」と言って、またぺちゃくちゃ喋りながら、撮影を始めた。5分ほどして再び一階から、店主が上がってきて、注文を聞くと、同じく「ごめんなさーい、まだ決まってないんです…。」(メニューを開いてもいない)店主が今度は動かないので、二人は、そそくさと、適当に、オーダーをすませ…また、撮影にとりかかった。紅茶とケーキのセットが来るとアクスタを並べてまた撮影。一口も手をつけていないまま、窓際のカーテンの向こうに置いてまたぱちり。
他の二組も程度は違うが、インスタ映えカップルで、しきりに撮影をしている。一番大きな窓のところにいたカップルが帰っていくと、店主が片づけに上がってきた。するとすかさず、「そこに移ってもいいですか。すみませんねぇ」と言って、もう立ち上がって移動しはじめた。動かしたバスケットもそのまま。一口も手を付けられていない飲み物と、ケーキを店主は黙々と移動していた。(平気なんだろうか…それともこういうお客が結構好きなのか…分からない)新しい場所で一頻り撮影すると、一口だけ飲み物に口をつけてすたすたと、階段を降りていった。もちろん周辺も同族だから、何か断るつもりはないだろうけど、とにかく一つ動くたびに、すみませんねぇ、ごめんなさい…と独り言の様に云う。迷惑をかけている人たちの方を決して見ようとしない。云うだけましなんだろうけど、その「すみませんねぇ」が免罪符になると思っているようだ。(思っている…)
とにかく風景的には良いものではない。映え目的の客が来ると基本喫茶店の状態ではなくなる…どこでもそうだけれど。この人たちは、出されたものの中身には興味がない。ないけれどインスタを見れば、美味しかったとか、有名な浅草のお店のケーキが…とか書いてある。
アンノルムカフェで出されている珈琲は、『蕪木』のブレンド、紅茶は、僕も一目置いている『ホウジョウ』の紅茶、ケーキは浅草一はけるのが早い、そして美味しい『粉花』とのコラボ。浅草の本格美味しいところを揃えた凄いカフェ。僕がアンノルムカフェに来たのはそれが理由だった。
6月オープンで9月にはもう映え客が殺到している。こうした店が人気になるのは、インフルエンサーや喫茶店紹介を仕事にしている方たちの貢献である。この人たちも、良さそうな店ができると、すぐに集まってきて紹介していく。一度来たか、初見でいきなり取材に入る。
たとえば、https://www.enjoytokyo.jp/article/201564/ 出している飲み物食べ物のクオリティについても取材しているし、内容は120点なんだけど…。この人はアンノルムカフェ通ってはいないよな…と感じる。つまり出されている飲み物を取材してはいるけれど、味わってはいない。日々のできの違いを慈しんだりはしていない。(おそらく)超美味しいものは、日々の変化を受ける。珈琲もケーキも紅茶も…パフェも。喫茶店の空気も。そうしたもの総てを含んでの取材だと思う。(書いてそれを仕事にするならね…)早い者勝ちのこうしたネット上の記事や、インスタ映えが絡み合って一瞬にしてバズっていく。
いったんそうなったら、喫茶やカフェではなくなる。良いものを出していても、味も雰囲気も落ちていく。味というのは、良いお客によって鍛えられて美味しくなるのであって、蕪木のブレンドを淹れたら必ず美味しいカフェになるものではないし、そんなに甘いものではない。逆に、へぇー蕪木の珈琲ってこんなものなの?と、結果、蕪木の足を引っぱることにもなりかねない。だから喫茶のレポートも映え流行りの一端を担って、喫茶文化の破壊に一役を買うことになる。逆説的だが、良いレポートをすればするほど、映え客を引いてしまうことになる。
僕たちが仕事をしていた、本の業界でも、ブックオフに始まった書籍の流れが、いろいろな負の連鎖…たとえば万引商品も買い取る→万引きが増える→書店の経営を圧迫する(万引きが書店の経営をどれだけ追いつめたか…)とか、ネットで最安値が提示されるので、古書店の経営が苦しくなるとか…。電子書籍よりも、そうした人が雪崩れる動きの方が、流通とかこれまでの文化とかを壊しやすい。なおかつブックオフも本で栄えることはなくなった。
「映え」客が喫茶文化を崩壊させるかもしれないと、僕は危惧する。そこにさまざまなネットの機能(喫茶レポートを含めて)が寄与しているからだ。みなが喫茶を褒めながら、実は自分のレポートに酔っているだけなのである。
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