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水泳学習はどこに向かっていけばいいのか?

8月11日の読売新聞の記事で、水泳学習のことが掲載されました。

日本の学校でプールが設置されているのは約9割で、
この割合は世界的にも充実しています。
(韓国の小学校でもプール設置率は2%だそうです)

この背景には、昭和の東京オリンピック開催にさきがけ、
1961年に制定されたスポーツ振興法によるものが大きいそうです。

確かに私が小学校(昭和50年代)には、
自分が通った小中学校にはプールが設置されていて、
7月から夏休み、さらに9月初旬まで水泳学習が行われ、
泳げるのが当たり前だと思っていました。

ところが高校に入って、プールが設置されていない町出身の子は泳げない・・ということを知り、びっくりしたことを思い出します。

ただ、9月まで水泳学習をすると、夏休みにはプールに藻が生え、
汚い中で泳いだ記憶があります。
(今思うと、夏休みには塩素などが切れていたのではないでしょうか・・今では考えられないことですが💦)

そんな状況も平成に入ると、
水泳学習も徐々に減ってきて、
私が子供の頃は夏休みにプール開放が当たり前でしたが、
(しかも10回は入りに来るというノルマもありましたが)
民間や自治体での温水プールが設置されるようになり、
今では地方でもスイミングスクールがあります。

また水質管理など予算も限られる。
(体育主任を何度もやりましたが、液体塩素、固形塩素とすぐに消費されます)
教師やPTAの負担減少。
さらに、令和に入り、
昭和に設置されたプールの老朽化、
毎年報道される、水の出しっぱなしによる教師の弁償問題(つまり、教師の仕事が多忙によることが原因なのですが・・)

こうしたことで、学校での水泳学習は縮小される傾向にあります。

かつてのように学校で強制的に水泳を行うこともなく、
スイミングスクールに通っている子は普通に泳げますが、
スイミングスクールに通ってない子は
年間10時間程度の水泳学習
(着替えもあるため大抵2時間続きの特別日課を組むことがあるので実質その3分の2程度)で、果たして泳げるか?
というと正直疑問が湧いてきます。

では、これから先
水泳学習を通じて子どもたちに何を伝え、教えればいのでしょうか。

1 そもそも水泳って?


そもそも泳ぐという行為は、原始時代からあって、
海産物を捕獲するために、カエルの動きを模した平泳ぎで泳ぐ。
また戦いで負傷した人を担いで泳ぐために背泳ぎのような動きで泳ぎ切るという行為は行わたそうです。

日本では江戸時代後期、武士が自分の命を守るため、
藩校などで水術が行われるようになり、
会津藩や長州藩では日本最古のプールが設置されました。

この動きは明治維新後、旧日本軍の教練の一つとして位置づけされ、
さらに泳力強化として学校教育でも下ろされていきます。

一方で、近代オリンピックでは、
第1回大会から水泳競技は行われました。
ただし第1回では「自由形」と称しながら選手は平泳ぎで泳ぎました。

自由形=クロールが認識されたのは1904年に開催されたセントルイスオリンピックで、この時に自由形=クロール、平泳ぎがそれぞれ別に競技が行われました。

息継ぎをしない背泳ぎは1900年開催のパリオリンピックで採用され、
平泳ぎが変化したバタフライは1928年開催されたアムステルダムオリンピックでドイツ人選手が平泳ぎで出場された際現在のバタフライの泳ぎ方をしたことがきっかけとなりました。

つまり、誰もが知っている平泳ぎ、クロール、背泳ぎ、バタフライのうち、
クロール、バタフライは競技という中で生まれたということです。


2 学習指導要領ではどう示されているのか

こうして泳げる=近代泳法をマスターするという位置づけとなっています。
では、水泳学習について学習指導要領ではどう示されているでしょうか。

小学校低学年(水遊び)
(1) 次の運動遊びの楽しさに触れ,その行い方を知るとともに,その動きを身に付けること。
ア 水の中を移動する運動遊びでは,水につかって歩いたり走ったり すること。
イ もぐる・浮く運動遊びでは,息を止めたり吐いたりしながら,水 にもぐったり浮いたりすること。
(2) 水の中を移動したり,もぐったり浮いたりする簡単な遊び方を工夫 するとともに,考えたことを友達に伝えること。
(3) 運動遊びに進んで取り組み,順番やきまりを守り誰とでも仲よく運 動をしたり,水遊びの心得を守って安全に気を付けたりすること。

小学校中学年(水泳学習)
(1) 次の運動の楽しさや喜びに触れ,その行い方を知るとともに,その 動きを身に付けること。
ア 浮いて進む運動では,け伸びや初歩的な泳ぎをすること。
イ もぐる・浮く運動では,息を止めたり吐いたりしながら,いろい ろなもぐり方や浮き方をすること。
(2) 自己の能力に適した課題を見付け,水の中での動きを身に付けるた めの活動を工夫するとともに,考えたことを友達に伝えること。
(3) 運動に進んで取り組み,きまりを守り誰とでも仲よく運動をした り,友達の考えを認めたり,水泳運動の心得を守って安全に気を付け たりすること。

小学校高学年(水泳学習)
(1) 次の運動の楽しさや喜びを味わい,その行い方を理解するととも に,その技能を身に付けること。
ア クロールでは,手や足の動きに呼吸を合わせて続けて長く泳ぐこ と。 イ 平泳ぎでは,手や足の動きに呼吸を合わせて続けて長く泳ぐこ と。
ウ 安全確保につながる運動では,背浮きや浮き沈みをしながら続け て長く浮くこと
(2) 自己の能力に適した課題の解決の仕方や記録への挑戦の仕方を工夫 するとともに,自己や仲間の考えたことを他者に伝えること。
(3) 運動に積極的に取り組み,約束を守り助け合って運動をしたり,仲 間の考えや取組を認めたり,水泳運動の心得を守って安全に気を配っ たりすること。

中学校(水泳)
(1)次の運動について,記録の向上や競争の楽しさや喜びを味わい,技術の 名称や行い方,体力の高め方,運動観察の方法などを理解するとともに,効 率的に泳ぐこと。  
ア クロールでは,手と足の動き,呼吸のバランスを保ち,安定したペー スで長く泳いだり速く泳いだりすること。
イ 平泳ぎでは,手と足の動き,呼吸のバランスを保ち,安定したペース で長く泳いだり速く泳いだりすること。
ウ 背泳ぎでは,手と足の動き,呼吸のバランスを保ち,安定したペース で泳ぐこと。
エ バタフライでは,手と足の動き,呼吸のバランスを保ち,安定したペ ースで泳ぐこと。
オ 複数の泳法で泳ぐこと,又はリレーをすること。
(2)泳法などの自己や仲間の課題を発見し,合理的な解決に向けて運動の取 り組み方を工夫するとともに,自己の考えたことを他者に伝えること。
(3)水泳に自主的に取り組むとともに,勝敗などを冷静に受け止め,ルール やマナーを大切にしようとすること,自己の責任を果たそうとすること,一 人一人の違いに応じた課題や挑戦を大切にしようとすることなどや,水泳 の事故防止に関する心得を遵守するなど健康・安全を確保すること。

小中とも(1)の項目は「知識・技能」なので、(1)にだけ注目すれば、
9年間を通じて、先ずはもぐる、浮くことができることから始まり、各泳法の動きと呼吸の組み合わせ、バランス、さらに安定したペースで泳ぐ、長く泳げるようになる。中学3年生までに4つの泳ぎ方をマスターするとなっています。

ただし、前述したように年間10時間程度、
さらに自校にプールが設置されていない、または老朽化で閉鎖したことによって、自治体やスポーツクラブのプールを間借りし、10時間以下で学習した際、果たして中学3年生の段階で4つの泳法をマスターすることは可能かというと疑問符が湧いてきます。一方でスイミングスクールに通っている子は小学校中学年でも4つの泳法をマスターしています。
実際中学年で水泳学習した際も、「先生、俺バタフライしか泳げないのでそれでいいですか」と言ってきた子がいました。

となると、例えば小学生であれば、
「クロールや平泳ぎで25m泳げるようになる」という目標よりも、
「クロールや平泳ぎなどそれぞれの特徴に応じた身体の動かし方を身に付ける。さらに呼吸を上手に組み合わせながら泳ぐことができる」ことが水泳学習のゴールになるのではないかと考えます。

3 素朴な疑問ですが・・

例えば、泳げるようになるとどんなメリットがあるか。
素朴な疑問ですが、もしこの問いに対してあなたはどんな答えを出しますか。
川や海でおぼれた時に、自力で助かることができる」
「川や海での遊びが楽しくなる」

水泳競技をしていない人以外は間違いなくこの答えを出すことが多数でしょう。
「川や海で遊びが楽しくなる」という答えは無理っぽい答えです。
実際、川や海、レジャー施設のプールでガチでクロールや平泳ぎをしている人を見かけることはないでしょう。
となると、泳げる=身を守ることが第一です。

では、泳法をマスターすることで、どんなメリットがあるか。
先ほどの質問と似ていますが、ここでは「泳法をマスターすれば」とよりシャープな質問を投げかけています。
となれば、
「いろいろな泳ぎ方を身に付けることで水泳をすることが楽しくなる」
「それぞれ違った体の使い方を身に付けることができる」
「公営プールで水中ウォーキングをするよりも泳いだ方がカロリーを消費できる」

という答えが出るかと思います。
つまり、泳げるのは身の安全だけでなく、よりよいスポーツライフや自身の心身の健康増進の一つとして水泳を取り入れることが可能ではないでしょうか。

4 果たして水泳学習はどこに向かえばいいのか

小学校学習指導要領体育科の目標は以下のように示されています。

 体育や保健の見方・考え方を働かせ,課題を見付け,その解決に向け た学習過程を通して,心と体を一体として捉え,生涯にわたって心身の 健康を保持増進し豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力を 次のとおり育成することを目指す。
(1) その特性に応じた各種の運動の行い方及び身近な生活における健 康・安全について理解するとともに,基本的な動きや技能を身に付け るようにする。
(2) 運動や健康についての自己の課題を見付け,その解決に向けて思考 し判断するとともに,他者に伝える力を養う。
(3) 運動に親しむとともに健康の保持増進と体力の向上を目指し,楽し く明るい生活を営む態度を養う。

〇水泳学習で言えば水中という特殊な環境の中で対応できる体の動かし方や呼吸の仕方を身に付ける。
〇水泳という運動に興味・関心を抱き、水泳を通じて健康増進を図る「きっかけ」を与えることができる。
〇「〇m泳げた!背泳ぎができるようになった!」など、自分が立てた目標を達成できたという自ら立てた課題を克服できたという成就感を味わえる。

これが水泳学習を目指すことであり、
昭和の時代のような「クロールを25m泳げない奴はダメ」というのは、現在の学校環境では難しいのではないかと考えます。

追記


今回の記事は新聞記事を読んで、
今の取り巻くプール環境で、
しかもスイミングスクールに通っている子とそうでない子と格差が激しい中で、たった数時間で何を身に付けられるの?!
という疑問からこの記事を書きました。

しかし、書いているうちに正直ドツボにはまりました・・

これ本気で書きだしたら大学のゼミレポートレベルにまでなるんではないかと・・この記事を2時間程度で書いたものですので多少粗い、ツッコミどころ満載な内容であることをご容赦ください。

また、こうした状況であれば、まず一番に子どもたちに安全性を重視した泳ぎ方ができればいいんじゃない!とも考え、ならば近代泳法よりも
、日本独自の泳法を身に付けた方が長くかつ安全性にも優れているのではないかとも考えました。

この日本独自の泳法、
私が住んでいる茨城では「水府流」という有名な泳法があります。
このことはまだ十分読み込んでいませんが、今後この動きを模したことも体育水泳学習に取り入れたいなとも思いました。

水府流水術につては以下のサイトをご覧ください↓
水府流水術 - 教育委員会 - 水戸市ホームページ (mito.lg.jp)

また今回は参考文献として以下の文献も参照しました。
学校体育実技指導資料第4集「水泳指導の手引(三訂版)」 表紙~第1章 理論編 (mext.go.jp)

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