金沢へ一週間、仕事しながらひとり旅
梅雨になる前の暑くなってきた頃、わたしは一週間、金沢にいた。4月にほぼリモートの仕事に転職して、仕事をしながらいろんな場所にいくことを、叶えたいと思っていた。なにをするかは決めていなくて、宿だけ取って、新幹線に飛び乗った。
最初に降りたのは、近江町市場。金沢でも有名な市場で、外国人観光客もたくさんいた。ふらふらと歩いて、どじょうと赤魚の串焼きを食べた。どじょうは全然クセがなくって、他の魚だと言われても判別できないと思う。
そのあとは、金沢おでんを食べる。とても大きな丸いお麩、車麩が入っていたり、赤巻と呼ばれる赤と白の渦巻き模様のかまぼこ、バイ貝が入っている。車麩は噛むと出汁の味がじゅわっと染み出した。
なんといってもすばらしいのは、おでんの出汁割りをしてもらえるところ。出汁割り、こんなにおいしいなんて知らなかった。
宿は、近江町市場がすぐのところ。キッチンが広々としていてきれいで、自炊をしたいわたしにはぴったりだった。
市場で野菜や魚を買い、ほとんど毎日自炊をしていた。
近江町市場は、土日は観光客で賑わっているものの、平日は地元の人が多くなる。みたことのない魚がたくさんあり、スーパーとは比べ物にならない。市場というだけあって、15時頃には店終いがはじまるので、お昼の間に魚や野菜を見繕った。
キッチンでは同じように長期滞在の人がいて、毎日会っていた年上のお姉様と、刺身を交換したりした。
合間には、有名なパン屋さん「ひらみパン」にも行った。
自転車でふらふら街を巡っていると、古着屋さんに出会う。ヴィンテージが大好きなので、ふらりと入って感動する。コーチやロエベのヴィンテージがずらりと並んでおり、色々な国のワンピースが大量に!こんなお店、関西でもみたことがない。どうやら有名なお店らしい。試着をさせてもらって、悩みに悩んで、2着ワンピースを買った。
お宿のおすすめに載っていた、地元の居酒屋さんにいく。隣に座った常連らしきおじさんに、ここのどじょうの唐揚げは美味しいとすすめられて、どじょうの唐揚げを食べてみた。見た目は正直微妙だけど、カリッとしていた。
あとは大量の甘エビをもらう。金沢だからなのか、時期的なものなのか、市場にもたくさん甘エビが安く売っていた。
ここの店主は、朝方自分で釣りに行って、お店で出すこともあるらしい。常連のおじさんは、地域の会合が今からあるとかで、早々に去っていった。
ずっと行ってみたかった21世紀美術館にいってみたけど、ちょうど改装中だったのか、見れるものが多くはなかった。
代わりに、ヨシタケシンスケかもしれない展がやっており、せっかくなので入ってみることにした。ヨシタケシンスケ、大好きなんだよなあ。
ヨシタケシンスケの世界に浸った。小さな原画が壁いっぱいに載っていたり、本の構想が載っていたり、会場にはいろんな仕掛けがあった。
21世紀美術館では「あなたをどこかに連れていってくれる機械」が好きだった。
作品に手をかざすとチケットが出てきて、それが世界のどこかを表す座標らしい。わたしが連れて行かれたのは、グリーンランドの聞いたこともない場所だった。
同じ部屋にあった資料庫が、入室自由で美術系の本がたくさん置いてあり、静かな空気で、とても好きだった。時間があれば、一日中こもって本をパラパラしているのもいいなと思った。
絶対に行きたかったところ、石川県立図書館。バスに揺られて20分ほど。入った途端、宇宙のような内装に驚く。
本は表紙が見えるように潤沢にスペースを使っており、手にとってみたくなる。椅子があちこちに置いてあり、手にとった本をその場で読むことができる。コンセントのスペースも大量にあり、仕事や自習ができる。平日は人も多くなかった。午前中は仕事をして、結局一日過ごしていた。
でも、ふらっと入ったカフェでは、地元の人は、近くの図書館の方が落ち着くと話していた。そういうものなのかもしれない。
回らないお寿司も食べた。80歳を超えるらしい大将と女将さんがやっているところだった。お昼で4500円くらいのコースを頼んだ。
目の前で握ってくれて、全部違うネタが順番に、合計26貫も出てくる。手で食べるスタイル。26貫も食べられるわけないと思っていたけれど、シャリが軽くて、ペロリと食べてしまった。はあ、とっても美味しかった。
金沢はコンパクトで、自転車で主要なところを巡ることができる。仕事をしながら、合間に行きたいところへ足を伸ばすのがちょうどよかった。
一番感動したのは、海鮮の豊富さ。程よいコンパクトさと便利さの上に、海鮮のおいしさを知って、金沢に住みたいと思うくらいだった。
普段スーパーには鮭やブリや、限られた魚しか売っていないから、魚より肉を食べることが多い。金沢では魚ばかり食べていた。市場でいろんな種類があって、新鮮で美味しい魚があると、魚を食べたいと思うことは発見だった。
観光もしながらだけれど、ほとんど自炊をして、暮らすように過ごしていた。こういう旅をしたかったのだ、わたしは。
前の旅はやっと息ができた感覚だったけれど、今回はそうでもなくて、非日常のはずが日常のようだった。前は世界が不安にまみれていたからだろうか。今回は、すっと溶け込んでいくような旅だった。
冬になると雪が積もるのだろう。とっても寒いのだろう。違った魚や野菜が、市場に並ぶのだろう。冬の金沢も見てみたいと思った。