手作業で紡ぐ、伝統の伊勢型紙。
P.K.G.Tokyoがデザインを手掛け、国内外のパッケージデザイン賞を受賞したKURANDの「UMESHU THE AMBER」。中身の紀州梅酒になぞらえて、伊勢型紙をデザインに使用しています。その際に三重県にある伊勢型紙協同組合様まで取材に行ってきました。今回はその一部を紹介させていただきます。
伊勢型紙とは、友禅、ゆかた、小紋などの柄や文様を着物の生地を染めるのに用いるもので、千有余年の歴史を誇る伝統的工芸品(用具)です。和紙を加工した紙(型地紙)に彫刻刀で、きものの文様や図柄を丹念に彫り抜いたものですが、型紙を作るには高度な技術と根気や忍耐が必要です。昭和58年4月には、通商産業大臣より伝統的工芸品(用具)の指定をうけました。
(伊勢形紙協同組合HPより引用)
現物を見せていただきましたが、手作業で彫り抜いているとは思えない精密さ。梅酒のパッケージに使用するため、梅をモチーフにした柄のご紹介をお願いしたのですが、それだけでも80種類近くもの伊勢型紙がありました。こういった伊勢型紙は四種類の彫り方を組み合わせ、様々な柄を形成しています。
引彫り
左手で定規を押さえ、右手に鋭利な彫刻刀をもって均等の縞を彫っていきます。最高のものでは3cm幅に31本もの縞が彫られています。染める時に縞が動かないように糸入れされます。
突き彫り
彫刻刀の柄を右頬にあてて左手で刃先を調整しながら上下に動かし、7〜8枚の型地紙を穴板の上で突くようにして彫ります。彫り終わったものは型紙を補強するために紗張りされます。
道具彫り
彫刻刀自体が紋様のひとつの単位になっていて、柄尻に親指をあて強く押して型地紙を打ち抜きます。彫刻刀はそれぞれ彫る人が自分で作ります。
錐彫り
江戸小紋を彫る最も古い彫り方で、半円形の細い彫刻刀を左手で回転させて小さい孔をあけていきます。小紋柄の最高のものでは、3cm四方に900個もの孔があけられます。
単純な柄ほど少しのズレやミスがひと目みてわかってしまうため難しいそうです。難しい柄だと一枚の制作に一ヶ月近くかかることもあり、大変な根気と集中力が必要な作業です。職人様それぞれに得意な彫りの技法があり、お互いの技術を組み合わせることで一枚の作品が出来上がります。
柿渋で貼り合わせた型地紙は、伸縮性もなく普通の和紙に比べ耐久性に富みます。しかしあくまで紙のため、永久に使えるわけではありません。先人たちが築いた様々な柄の彫り方を、現代の職人様方が引き継ぎ、そして日々改良を重ねています。そうして磨かれた技術でまた新たな図柄が生まれ、引き継がれていきます。
私たちパッケージデザイナーは多種多様なクライアントの要望に応えるため、その都度考え方や制作方法を考えます。同じパッケージといっても、完成に至るまでのプロセスは様々です。同じ作業を繰り返すことはほとんどありません。対して伊勢型紙の職人様方はひとつの彫り方を極め、日々の仕事のほとんどをその技術の向上と改良に集中しています。そこから生み出される作品は緻密で手作業でありながら手作業による隙を感じさせず、しかし人の手で作ったからこそ生まれる味わいが共存しています。縞彫りのストライプひとつとっても、整然としているのにどこか温かみを感じます。パソコンでデータをただ均等に配列しただけでは作り得ない佇まいだと思います。
現在、伊勢型紙の需要は減りつつあります。職人様の数も随分減ってしまったそうです。理由は昔と比べ着物の需要が減ったこと、また他の安価な染色の技術が発達したことにあると思います。しかし伊勢型紙の伝統は他にはない素晴らしい技術として受け継がれるべき文化です。
今回はそんな伊勢型紙の図案を紀州梅酒のパッケージデザインに使用させていただきました。初めはただその美しさに惹かれてデザインに使用させていただきましたが、取材を経て新しい需要の形を作って伝統を繋ぐための一端を担えればと思っています。ベクトルは違いますが同じくモノを作る物同士、お互いの技術を組み合わせることで新しい切り口で伊勢型紙を世に出すことができたと感じています。「売れるため」「目立つため」のための綺麗さに止まらず、こうしたバックグラウンド含めデザインの価値になればと思います。
P.K.G.Tokyo : 白井絢奈
参照 : 伊勢形紙協同組合
http://isekatagami.or.jp/
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