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ティーンエイジャーの耳

この頃、気圧の変化や天気の悪い朝など、気候によって耳鳴りがするようになった。高い金属音でパリパリパリ………みたいなリズミカルな音なので変だなと思っている。
そして地下鉄の発車メロディーが時々耐え難いデカい音に聞こえるようになってきた。こういう公共のものは一定のボリュームだと思うので、これはまずいかも?と思いつつ放置していたのだが、風邪をこじらせたのをきっかけに耳鼻科へ通うことになり、親切に見てくれる先生を見つけたので思い切って相談してみることにした。

先生は「それはいけません」といって、耳の中をスコープで見始めた。そして「おお、これは・・・」と写真を撮り始めた。なにかとんでもないものが見つかったのではとおびえていると「耳の中がつるつるになっています!」と言って見せてくれた。
パラパラとした耳垢のようなものが見えたので、うわ!汚いですね、とつぶやくと「ほんとうはもっと大量にあるのが普通です、おそらく取りすぎてしまっています。耳の中の毛がほとんどなくなってしまってます。」
そして「耳掃除をしすぎているか、耳の中の湿疹を治療したことで毛がなくなってしまったのではないでしょうか?」と言った。
確かに、自分はアトピーのせいなのか、外耳道のかゆみと共に、大量のべたべたするものが発生することがある。これのせいでイヤホンが汚れてしまうため、成分が軽めのリンデロンを塗るなどしていたのだが、どうもこれが良くなかったらしい。
さらに聴力を調べるため、別室へ。
日頃受けている聴力検査よりも細かい検査を受けた。
ヘッドフォンをすると、音がリズミカルに近くから聞こえてくる。やがて音がだんだん遠ざかるので、聞こえている間はずっとボタンを押すという検査だ。音程は6段階ほどだったと思う。
遠くに行くと音階が少し下がって聞こえるけど、これは気にしなくていいんだろうか?とか思いつつボタンを押していた。
左耳は音によって変化することはなく、満遍なく聞こえたように感じたが、右耳は、この音は聞こえなくなるのが早いな、というものが現れた。めっちゃ動揺した。

検査が終わって、紙に書き起こされたグラフを見ながら先生が説明してくれた。左耳は蜘蛛の巣のようにグラフの数値が並んでいるが、右耳はある部分だけ、ガクッと内側に凹んでいる。
これは聞こえる音を現わしていて、凹んでいるところは聞こえる音の奥行が狭くなっているので余力がなくなり、大きすぎる音量となって感じているのだそう。
私が「やっぱり年齢によって衰えて、こういう症状がでるんでしょうか?」と聞くと、先生は「いいえ、年齢は関係ありません。耳に差し込むタイプのイヤホンを長時間使っていたからでしょう」と言った。
身に覚えがありすぎる。

先生は「この下がっている音域は4キロヘルツで、人の声や楽器の音などに多く含まれてます。音が急にうるさくなったり、聞こえすぎると感じて不便に思うことがかなりあったのではないでしょうか?」と言った。
困っていることを先に言ってくれる医者に久しぶりに会えたのでうれしくなり、私は「そうです!!!!!」と前のめりになった。
以前からスタジオ練習の時、サックスやギターの音だけが妙に大きく聞こえるようになってしまい、本当に困っていたのだ。しかも、その日や体調によって変わる。特定の音がいきなり大きくなり、我慢がならないくらいのボリュームで聞こえる理由がようやくわかったのでほっとした。

対処法は、耳の中に入れるタイプのイヤホンを使う時間を減らすしかないそうだ。減った聴力を戻すのは非常に難しいとのこと。
自分は管楽器をやっているが、この頃はその他の楽器のモニターをうるさく感じて、イヤホンをして演奏するようになった。そうすると、身体の内側で聞こえている音と、実際に外部で鳴らしている音に乖離が出てしまう。イヤモニは使わないのでまだ良いものの、音色の違いが気になってずっと悩んでいたのだ。
耳を包むような形のヘッドフォンであれば負担が少ないとのことなので、さっそく試してみようと思う。原因がわかって本当によかった。

そして先生は「あなたの耳は4キロヘルツのところが下がっていますが、基本的には非常によく聞こえています。ティーンエイジャーの耳とほぼ同じです。」と言った。
私は、ほう、ティーンエイジャーの耳ですか………と言いながら脳内ではニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」を思い浮かべていた。
よく聞こえることは、良いことばかりじゃない気がするが、まあなにしろティーンエイジャーの耳だから、と謎に気をよくしています。



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