キノコ狩りの夜
「おい、コウザ!ドローンは3つとも位置についたか?」
俺は端末で位置を確認して頷く。
「今日の曲はなんだろうな?」
親方は、選曲をいつも楽しみにしているが多分最低だと思う。3方向、10キロ先のドローンが爆音でワルキューレの行進を夜の丹沢に響かせる。火曜日のドロオペ選曲センスはいつも悪い──顔も見たこともないけど色々きっと最低なやつだ。
「コウザ、どうだ?」
俺は防胞子マスクの電源を落とす。秋の雨で冷え切った空気が入り込んでくる。その空気に混じって、遠ざかっていくキノコの腐臭がする。
「キノコ共は、ドローンに向って一直線っす」
「いつもどおりブナシメジ?」
「そうですね、いつもどうりっす」
「ならいい──ドローンからの情報は逐一俺に伝えろ、4班作業開始する」
俺達の仕事は電線の保守だ。キノコ共は電気が好物、おかげで電線は胞子で駄目になる。だから定期的に保守、交換する必要がある。だけど、キノコ共は知性がないが音に反応して集まり、ヒトを襲う。だから、こうして作業中は常に音を鳴らし続ける必要がある。
「じゃあ行くか──」
俺達が鉄塔に取りついた瞬間だった。
「親方!なんか来る!」
臭いに気づき叫んだとき、それは、親方めがけて降ってきた。
「うおっっ!!」
親方は間一髪それを避けたが、バランスを崩して落ち、マスクが吹き飛ばされ顔が露出している。降って来たのやはり──キノコだ。臭いは直前まで気づかなかった。無から現れたそいつは、いつものシメジじゃない、松茸だ。カサは異様に発達していて、まるで触手のようにウネウネと動かしながら親方に向かっている。
「やけに鼻が効くとは思っていたが……豚とはな」
キノコが喋った……?いやそんなわけはない、キノコはしゃべったりしない。でも確かに今こいつは喋った。
「想定外だ、豚?いや人なのか?」
その声は間違いなく人間のものだ。
「知らない事だらけだな、殺して調べるとするか」
【続く】
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