嘘と女は許さないわたしが必殺技を磨く
これから書く話はわたしが歴代彼氏に「嘘と女は許さない」と伝えて交際していたことを前提とします。
9年前、22歳。わたしは3年付き合った彼に裏切られた。裏切られゲームの経験値レベルが1から2にアップした。裏切られることに関してまだ赤ちゃんだったわたしは必殺技を2つしか持っていなかった。元々付いている技だ。
①にげる(別れる)
②わすれる(別れない)
そんなゲームあってたまるか。
Q:ゲームのはなしですか?
A:恋愛の話でしょうか、なんのはなしかはわたしにもわかりません
「てきははんせいしている!!」
わたしは①と②どちらを繰り広げるか寝ずに考えた。どうにか未来が見えないものかと。もっといい男が現れるなら①を、現れないのなら②を。ミリオネアのオーディエンスを使いたい気持ちだった。オーディエンスは全力の知らんがなでテキトーにボタンを押すことだろう。みのもんたもそんなことにライフラインを使ったのかと呆れ返っている。
当時働いていた会社の男性社員3人に、男という生き物はなんなのかを聞いて回ったが途中で気づいた。わたしは到底許せないことをなんとか許すために奔走しているのだ。別れたくないのだと。女性に意見を求めなかったのは女性は加害男性に対して厳しい感想を持つからだ。洗い物が全て終わったシンクに後からコップ1つ置かれた愚痴だけで共鳴し合うのだから、下手に相談しないほうがいい。男性同士は互いに甘いような気がする。そう考えて男性に相談している時点で別れる気がなかったのが今なら分かる。女性に相談していたら「別れた方がいい」もしくは「好きにしなよ」と言うに決まっている。
わたしは聞いてもいないのにそれを想像し、【別れた方がいいと言われる関係】に執着しているのかと思うと絶望を感じた。身に起こったことが信じられないため自分では考えられない。せめて他人から見てどうなのかを知ることで答えを導こうとしていた。
当時のわたしは自分がピカチュウで彼がサトシ。(敵じゃないのかい)わたしの人生は彼次第。だから彼のせいで不幸になったと思っていた。ツラツラと挽回のお気持ち表明をする彼にわたし人生初のビンタをお見舞いしようかと思った。しなかった。技にないし。
思うけど急にビンタしようなんて人は怒りに任せたからビンタになったんじゃなくて「いつかその時が来たらビンタしてみたい」と思っていた人だと思う。わたしは不意打ちすぎて出来なかった。(暴力はいけません絶対に)
とにかく「わたしの人生どうしてくれるんだよ」その一言に尽きた。まだ好きだけど別れるか、今後の彼に期待して水に流すかの二択。変わるか変わらないかの彼次第。彼次第だから自分では決められなかった。
それまで能天気に何も考えず生きていたわたしは頭の中が常に考え事で溢れるようになった。恋愛は楽しさや充実感だけでなく脳のアップデートもしてくれるようだ。損得勘定やそれを超えた哲学的なものが思考として溢れてきた。思考しているうちに技③時間が足りないので様子を見るが追加された。
赤ちゃんから幼児くらいに成長したわたしは、付き合いを続けるには許してからでないとだめだと思っていた。わたしが想像する未来はいつも綺麗で単純だった。また元通りの2人になる未来、彼がこれまで以上にいい人になってまた信じることが出来る未来。やり直すならばそんな綺麗な未来しか許されないと思っていた。
でもそれはわたしの技が少なかったから。逃げるという技は単純じゃなくて、もっと細かく枝分かれしていい。条件付きでもいい。気が済むまで一緒にいて、それから逃げても遅くない。良い人にならなくてもいいから、次の人が見つかるまで一緒にいても良いし、1人を楽しめそうだったら1人でいたらいい。
許せるなら許しても良いし、許さないまま一緒にいても良い。本当は許しているのに決して許していません!ってフリをしてもいい。
向き合って一度とことん落ちてもいいし、それが辛ければなかったことにしてもいい。
仲直りのプレゼントを要求してもいいし、最悪そのあとすぐ逃げたっていい。技をド忘れしたっていい。年に1回「次やったら分かってるよな」と釘を刺してもいい。そしてビンタも控えている。(暴力はいけません)
選択肢は、技は、思いつく限り無限にあるものなのだ。
強い技を習得していったからといって自分を嫌な人間だと思う必要はない。ひどいことをされたら鬼みたいに怒ったりいつまでも泣いたりその後強くなっていくのは普通のこと。
ハッキリしない曖昧な技を自分で無限に追加することによりサトシは彼ではなく、世間体でも常識でもなく自分自身となった。わたしの人生がわたし次第になった。
わたしが選択をせまられたのは自分のせいじゃない。自分に非があって彼が裏切ったのではなく、彼の技に①裏切る②裏切らないがあっただけで、
彼はわたしにとっての選択ミスをしただけだ。それを許すか許さないかはわたしの選択。わたしと彼は一心同体ではないし、わたしたちの人生も2人で1つではない、2つの人生がたまたま交わっているだけ。
そうやって技を磨いていると、わたしは可哀想なわたしではなく、とことん自由で、強くてしなやかで、臨機応変なわたしになった。思考することによりレベルは50を超えてきたと思う。
lv50にもなると分かる。わたしは心から彼が好きで、いつだって一緒にいたい。考えるべきことはそれだけで、許してはいないけれど許す日がくるかもしれない。こないかも。それはあまり重要なことではなくなった。
そんなこんなでその彼が今の夫。
この言葉は劇的な大逆転エピソードやドラマみたいに素敵な馴れ初めのオチで使いたかった。けれどもわたしの現実はドラマのように劇的じゃない。
結婚した今だって2つの人生が交わっているだけだと思っている。これは結婚する上で1番大事なことだと思う。絶対幻滅されるけど結婚式の上司からの祝辞でアドバイスとして入れて欲しい。そして幻滅されてほしい。
離婚すると思って結婚しなさいという意味ではなく、それぞれの人生があるのを忘れてはいけないということ。相手の非まで自分が反省していたら人生がもったいない。家族でも時には自分は関係ないと思っていい。
あの頃思い描いていた未来ではなかった。夫も相変わらずだ。でも選択肢は無限にあることを知った。事実だけみれば信じてもらえないかもしれないが、わたしの人生は前よりも明るくなった。わたしは自分のしたいように出来ている。その時々で考え抜いたと胸を張れる。わたしが今思い描く未来は単純でも綺麗でもなくなって、だからといって不安や心配に溢れているわけでもない。冷めてもいないし諦めてもいない。
わたしの未来は夫とどうのではなく、「これからもわたしは自分で考えて決めることが出来るだろうな。」これだけだ。
自分の手持ちの技をたくさん持つことは、自分を認められることであり、どんな状況下でも大丈夫だと安心できる心を持つことに繋がる。これからもわたしの技は増え続けるだろう。
だから、この先何があっても大丈夫。いつだってわたしは心から幸せだ。
わたしからわたしに向けての。
「こうかはばつぐんだ!」