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9月某日はトラウマの日。結婚式のお仕事


たまには過去の話を。
(長いのでお時間ある時にでも。)

10年ほど前
ウェディングプランナーをしていました。

子育てとウエディングの相性は壊滅的で
今は候補にすら入らないけれど
機会があれば復帰したいと思うほど
好きな仕事だった。


毎週のように感動して
達成感は計り知れないし
お花や料理、衣装など
それぞれのプロがいて
打ち合わせの調整をするだけで
全てを統率している気分だった。

少人数や二次会で予算を抑えたい新郎新婦へは
要望があれば司会もした。

幼い頃から目立ちたがり屋のわたしには
ピッタリの仕事。
スーツを着ているだけで気分が良かった。
ハタチそこそこであの経験が出来たのは
すごくありがたかった。

あの空間でしか味わえない
音楽や拍手や素敵な格好のゲスト、
そして新郎新婦。
何もかもが好きだった。

当時働いていた式場は
コロナの影響を受け無くなってしまったし
時効かな、と思うので書いてみる。


良いことも悪いことも
色々なことがあった。

ある新郎からは挙式が終わって数日後、
「妻は友達がいないので是非友達になってあげてくれ」と電話が来た。
断るのが苦手なわたしは
実際に家へお邪魔したこともあったし、

挙式後に離婚したある新郎の母からは
「もし良かったらあなたどうですか。彼氏はいますか?」と電話が来たり。
それはさすがに断った。
(お母さんがそんなんだから離婚したのではないかと思っている。)


人生の節目には皆さん気が大きくなるのか
そんな普段はないような話がポンポンと起きる。

大金を払っていることも
関係しているような気がする。

当時独身だったわたしに
夫が最近冷たいやら、義父のアルコール中毒で困っている話やら、
1時間でも2時間でも話を聞いた。
みなさん真剣に悩んでいた。
マリッジブルーだったのかもしれない。

友人には言えないようなことを
相談出来るのがプランナーのいいところだ。


たくさんの良い思い出と
素敵なお客さん、
素敵な結婚式があったはずなのに
真っ先に思い出すのは
あるクレーマーの新郎新婦。

元はと言えばわたしのミスからはじまったので
自業自得なのだけど。

わたしがメールで名前を打ち間違えてしまって、
(例えば高と髙みたいな)

あろうことか気付かずに
何回も打ち間違えていたので
その全てを印刷して持ってこられたのがはじまり。

正直、始発から終電まで仕事をして
結婚式以外に宴会の仕切りも務め
現場の担当もしつつ合間に事務所でメールを返信するような日々で
会社自体にも問題があったのだと言いたい気持ちもある。

プリントされたメールを手に
上司を呼んでくれと言われ、
正直わたしも合わないと感じていたので
どうか担当チェンジになってくれと願った。

2人の希望は
わたしが心を入れ替えて変わってくれるのを期待するとのこと。

大切な名前を打ち間違えるなんてもってのほかだけど、
担当を降りたいというわたしの願いは叶わなかった。
この時点でちょっとおかしいなと思っていた。
この先気まずい思いで当日までやれるのか?お互いに。と思った。
名前を打ち間違えるということは、当日なにか間違える可能性のあるわたしだけど、いいの?なぜ?という気持ち。
わたしにお客様チェンジの選択肢はないのか?とも思った。

わたしの上司と、
仲介として登場した
占い師のような風貌の泉ピン子似の新婦の叔母、
新郎新婦、そしてわたし
5人で話し合いの場が開かれた。

叔母がわたしに一言、
「あなたにとってウエディングプランナーとは?」

え?プロフェッショナル?
幻聴でprogressが耳に流れてくる。

現実でこんなこと言う人いるんだ。
残念ながら本当の話だ。

4人がわたしを見つめる前で
なんて答えたのかは覚えていない。
多分、「一生に一度の〜」からはじまる何かを答えたと思う。
担当を変わりたいのに綺麗事を並べても仕方ないので
ひどくしょうもないことを言ったような気がする。

本来は禁止している外部からの持ち込みの数々を許容することを条件に
わたしが引き続き担当することになった。
上司は信じてくださってありがとうございますと何度も言っていた。
2人の見積もりは平均よりもかなり安くなっていた。

引き出物も衣装その他も持ち込んでいるので
わたしが紹介する物もなく、
もはやここで式を挙げる意味はあるのか?くらいの
内容となった。
そして当日。

当時わたしの会社で
要注意のお客様は「ことぶき」と呼ばれた。
全部署がその一言で
クレーマーなのだと分かる魔法の言葉。

カルテに赤字で寿と書いてあっても
なんら不思議はない、便利なネーミングである。

念のためもう一度書くけれど
当時の会社はもう無くなっています。
辞めた人たちが次の会社で流行らせていなければ
【ことぶき】文化自体無くなっている。はず。

さてそんな寿の担当当日。
新郎新婦の親戚の子どもが
歓談中に式場の噴水に落ちてしまったらしい。

噴水といっても
壁づたいに滝のようにちょぼちょぼ水が流れている場所。
深さは2〜3センチだったと思う。
わざわざ登って落ちなければ誰も落ちないような場所。


他のスタッフが対応してくれ
なんとか披露宴は結び、お見送り。

ここさえ乗り切れば!と
愛想笑いで見送ろうとしたその時
新郎新婦はニコニコと笑いながら言った。

「いくつかクレームがあるんですけど〜」

濁さずにクレームという言葉を使って
堂々と言えるのはすごいなと尊敬する。

何故ニコニコしているのか。
心の中では辛いのか、もはや分からない。

担当を変えてもらえなかったのは
わたしが言いやすいからか。

呆気に取られて
思考停止のまま上司を呼んだ。

上司も「やっぱりか」みたいな反応。

演出のスモークがただの煙だったやら
(名前の通りスモークはもちろんただの煙です)
噴水問題、
司会が親戚の名前を間違えてしまったこと

数え切れないくらいの項目を並べた後
「必要ならメールで箇条書きにして送ります。また返金について連絡くださいね〜」とまたニコニコと元気に去っていった。

後日、口コミに
料理と美容は最高!プランニング力はゼロ!
みたいなことを書かれた。

料理と美容の部署のガッツポーズが見える。

匿名の口コミなのに
社員全員がわたしが担当した新郎新婦だと分かるのもまた面白い。

口コミによると親戚の子は
わたしのせいで水恐怖症になったらしい。

親は何してたんだろうなと思わざるを得ないし
わたしが突き落としたわけではない。
子どもが勝手に落ちたのだ。しいていえば会場の設計からのミスじゃないか。
思い出すとなんとも複雑なネガティブな気持ちになる。

その口コミは会社全体でネタにされつつ
回し読みされた。
ネタにしてくれるだけいいのか悪いのか
どうであれいい気持ちではない。

それでもわたしに頑張ったねと言ってくれる人が
大半だった。

あんなにもあからさまに
料理などの他の部署を上げて、わたし個人を落とす口コミが書けるのもまた一周回って尊敬に値した。
わたしは書きたくても書けないタチだ。


今でも朝スマホの日付をみるだけで
今日は担当した日だな。と思う。

それはこの人たちに限らず
その他の素敵な結婚式についてもだけれど、
1年かけてその日付と一緒に
準備をしていくのだから無理もない。

クレームの結婚式があった日は
日付を見るだけで心臓がドキドキする。


これからの人生でずっと思い出すんだろうな。
365日のうち1日がだめになってしまった気持ち。
もうすぐXデーだ。

当日は
ケーキでも食べて元気を出そうと思う。


もしもこれから結婚式を挙げる方が
読んでしまったのなら
こんなプランナーばかりではないので
安心して欲しいと伝えたい。


なんにせよあの経験が
メールを送信する前は確認に次ぐ確認!しつこいくらい確認!そして最後に確認!をクセにしてくれたきっかけと言える。
もうあんなミスはしない。

おかげでその後転職した同じウエディング業界の会社では
なんとなく仕事ができる人の扱いを受けた。

名前の打ち間違いからはじまった大クレーム、
今では少しだけ感謝している。

二度と会うことのない世界で
あの新郎新婦が幸せに、そしてあまりクレーマーにならずに生きていることを願う。

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