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一方通行の弾き語り…

「ちょっと今日お時間ありますか?もし時間があるなら〇〇さんのお部屋で歌を歌ってもらえませんか?」

って声をかけられた。

「送迎に被らなければいつでもいいよ。送迎が終ったら声をかけるね」

ともちろん二つ返事。

送迎が終ってフロアに訪ねていくと〇〇さんのお部屋に案内してくれた。〇〇さん、小さくなっちゃってたけど職員の声かけに反応して顔の表情を変えてくれた。

「〇〇さんの好きな歌を、ギター持って新居さんが歌いにきてくれたよ」

と声をかける職員にちょっと反応。

すかさず僕も

「〇〇さん、前に一緒に歌った歌を今日も一緒に歌いましょうね。聞こえますか?始めるますよ!」

と声をかけて歌い始める。

にこやかな表情に、なんどか笑っているような表情になってくれる。

3曲歌った…
〇〇さんの心に届いたかな?

後で職員に、〇〇さんの状態聞いたらもうそんなに長くないって…

それならと

「〇〇さん、また歌いにくるからね」

とその日は部屋を後にしたんだ。


その日の夕方に訪ねた翌日は、清拭をしてもらったらしくて気持ちよさそうに鼻息を立てて眠っていた。

「また昼間に歌を歌いにくるからね」

とその日は一方通行のお喋りをして部屋を後にした。


そして今日…
どうしても一緒に歌いたくて、スタッフに声をかけると

「一緒にお部屋に行きましょう。歌い始まったら後はよろしくだけど…」

と部屋を訪ねると娘さんとお婿さんが付き添っていた。

「〇〇さんと歌を歌いたいってギターを持ってドライバーがきたんですけどいいですか」

「もちろん、この間も歌って下さったって職員さんに聞きました。よろしくお願いします」

と娘さん。
ほんと感謝しかない…

「はい、Eさんと一緒に歌うときに配った歌詞カードです。よかったら一緒に歌ってください」

とお二人に歌詞カードを手渡す。

「〇〇さん、約束したからちゃんと来ましたよ。また一緒に歌いましょう。一緒に歌った〇〇さんの好きな曲を歌いますね」

と声をかけて歌い始める

最初は、唱歌の故郷…
一緒に歌った日を思い出しながら弾き語りをする。2番の歌詞を歌い始めた時に感極まって言葉に詰まって一瞬歌えなかったんだけど、なんとか持ち直して3番まで歌い切った。

「ごめんね。途中で詰まっちゃって。次は上を向いて歩こうと歌うよ」

と声をかけて歌う。

歌い終って、〇〇さんに声をかけた時にお婿さんが

「一瞬だけど口が動いたよね」

娘さんも

「いい表情している。ありがとうございます」

って…

「では、最後にこれも好きって言ってた愛燦燦を歌いますよ」

「あらっ、そんなに歌っていただけるの?忙しいのにありがとうございます」

「いえ、僕は時間はたっぷりあるので…」

と伝え前奏を弾き始める

歌い終って〇〇さんに

「また歌いにくるからね。約束ね」

と言って部屋を後にしたのに…


午後の送迎から帰ってきたら逝去の知らせ
溢れる涙を抑えることができなかった。


僕の拙いギターと歌に優しい笑顔でいつも口を動かして歌ってくれた。どんな曲を弾いて歌い始めても歌詞を見ることなく口が動く。ほんと歌が好きなんだなぁって思った。

みんなと一緒に、そしてマンツーで二人きりでと歌った思い出が頭を過ぎる。

「〇〇さん、いつかまた一緒に歌いましょう。そして、素敵な時間を共有させてくださりありがとうございました」

とエンセルケアが終わった後に、お別れのご挨拶に行ってきた。そして部屋で二人きり一緒に歌った思い出をお喋りしてお別れしてきた。

そして、その後の出棺のお見送りまでして帰ってきました。

今夜は思い出に浸ります…

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