新年度、投資を始めるなら。PBR 1倍割れ。”人的資本” #月次レポート研究所のポッドキャスト テキスト版
こちらのポッドキャストのテキスト版です。
renny:月次レポート研究所のポットキャスト2023年4月号です。新年度ということで、新卒で社会人になられた方はおそらく初任給の頃なのかなと(収録日は4月25日)。吉田さん、何か初任給の思い出はありますか?
吉田:うーん。昔すぎて思い出せないなぁ。
renny:吉田さんは大学生の頃から投資を始められてたので、初任給を機に資産形成を、という形ではないですよね。
吉田:そうですね。すでに投資始めて1年ぐらい経った頃が初任給だったと思うので。
renny:僕は初任給の思い出というと、初任給が出たら会社の先輩にお菓子を配る、ということがあったような記憶はあります。でも初任給で何をしたかは、もう相当昔なんで覚えてないですね。
吉田:私はもしかしたら母親に何かしたかも。母の誕生日が近いので。
renny:なるほど。母の日も近いですしね。最近の新入社員の方はどうなのかは何とも分からないですが、初任給を機に資産形成を考えられる方もいらっしゃるのではないかと思います。今回はこれから資産形成、投資をしようという人向けのお話から始めます。吉田さんならどんなアドバイスを送られますか?
これから資産形成、投資をはじめようとする方へ
吉田:多くの方はアドバイスを求められると、全世界のインデックスファンドに積み立てしておきなさい、というところで終わっちゃうじゃないですか。あれが好きじゃなくて。
renny:たとえばNISA口座を作って始めなさいということですよね。
吉田:はい。 NISAやiDeCoでインデックスファンドの積立投資をすれば、大きく失敗はしないだろうから、それはそれで良いんでしょうけど…。漫然と全世界に投資しているだけだと、投資をきっかけに何かを学ぼうという方向に行かないような気がしていて、それでいいのか?って疑問なんですよ。
renny:なるほどね。失敗と今おっしゃいましたけど、できることなら失敗したくないというか、とくに投資や資産運用に関しては、失敗イコール損するといいますか、要は資産が減ってしまうということが起こり得るわけで。それはちょっとしんどいというような、損失に対する恐れもあると思います。そのあたりの失敗したくないという想いがどうしても強いと、そちらの方向に流れてしまうのかなと思いますけどね。
吉田:しょうがないのかな。自分はもう最初からいきなり失敗したおかげで、その後の人生がうまくいったタイプなので、なんとももったいない気がするんです。
renny:そういうことですね。失敗から学べることがあるから、失敗しないように失敗しないようにしていくと、学ぶというか、それをきっかけにこれはやっちゃいけないよね、というようなことを知らずにその先に進んじゃうっていうような感じなんですかね。
吉田:そうですね。世界全体へのインデックス投資だと成功したのか失敗したのかよくわからないまま、何となく資産が増えていくっていうような感じなのかなと。
renny:そうですよね。ここ数年間で投資をはじめて、毎月同じ金額をコツコツコツコツ買っていった人は、そんなに損失・評価損を経験されることが、ほとんどなかったんじゃないかなと思います。だから今、吉田さんが言われたように、じわじわ増えてって評価益という状態のときに、株価が大きく下落して、2割3割減ったりしたときに冷静でいられるかというか、それでも続けられるか、という心配はありますね。そういう意味でさっきおっしゃったように、愚直に買い続けていればいいやと思ってしまうと、学ぶというか、それ以上のことが起きないのかな、という気がしますね。
吉田:そうですね。そこから先に関心が広がることはないだろうな。
renny:だから他のことに関心を持つ機会は、なかなか生まれないのかな。生まれるとしたら、パッシブファンドを積み立てていて、パフォーマンスというか利回りが物足りないと思ったら、キャッシュのインカム、配当の出る株式を買いましょう、みたいな意見を見たりもします。でも、それだったら変えない方がいいんじゃないかな。そのあたりのスケベ心が出やすいのかなと思ったりするんですけどね。
吉田:なんだかもったいない感じですよね。自分がうまくいったから、他人に押し付けるみたいで変ですが、正直、株式投資自体で稼いだ額よりも、もしかしたら投資を学んだことがきっかけに稼いだお金の方が大きいかもしれないっていうのもあったりするので。
renny:株式投資をすることによって、単純に自分の投資している資産から生み出したリターンよりも、それを持ってることによって、それをきっかけにいろいろ調べたり、学んだりしたことで生み出した資産のリターンはもっと違うものが生まれてくるっていうところなんですよね。
吉田:そうですね。私の場合、結婚まで投資の延長線上にありましたし。
renny:そういうご縁の話も過去のポッドキャストでもお話してきましたけど、やっぱり投資している会社のことを知ることで、思わぬ方向にアンテナが伸びていって、思いがけないものをキャッチするというようなことが、あったりするってことですよね。
吉田:そうですね。投資を通じて自分の世界が広がるところが一番楽しいんですよ。
renny:でもやっぱり資産を増やしたいという動機が強いと、そういう楽しさっていうのがイメージつきません、と言われることもあるんですけど、今年から投資を始めようとしている人に、こういうことがあるよ、みたいな具体例は何かありませんか?
吉田:最近ネットで読んでおもしろいなと思った話があります。マネックス代表の松本大さんが、中学生からおすすめの投資法を尋ねられて、投資信託は100円から買えるから、5,000円で50種類のいろんな投資信託をまず買ってみなさい、っていうアドバイスをしたんですよ。アメリカの投信とか中国とか国ごとの投信を買ったり、金融やエネルギーとかセクター別の投信を買ってみたりして、自分なりの世界の箱庭を作って値動きを観察しなさいと。なんかこの投信、最近、値段が上がったぞ、って感じたら、その背景にあるのは何なのか、自分なりに調べていくと、世の中のことがだんだんわかっていくよ、っていうアドバイスをしたらしいんですよ。そういうのいいなと。
renny:なるほど。個別の会社に100円で投資というのは現実的じゃないですけど、投資信託だったら100円から買えるから選びやすい。でもみんなパッシブファンド選んじゃったりするんじゃないですか。
吉田:セクターのパッシブファンドなら勉強するかな。たとえばエネルギー関係のパッシブファンドでも、その値動きの裏では原油価格が動いていて、もしかしたらその先には中東情勢に繋がっているかもしれない。このアドバイスはお金を増やすっていうより、投資を通じて世の中を学ぶことができるよ、ってことなんですよね。
renny:お聞きしてて思ったのは、アクティブファンドだと投資先の入れ替えが結構ありますが、セクターインデックスに連動するようなパッシブファンドがもしあるのなら、投資先の入れ替えが少ないでしょうから、頻繁に売買するのが投資だというイメージを持たなくていいのかなと思いました。だから僕はパッシブでセクター別の方が面白いかな。たとえば、どうしてこの会社がここの分類に入ってるのか、この分類の中にこんな会社が入ってるのか、と考えてみるのは面白いのかもしれないですね。
吉田:自分が勤めている業界のセクターを買ってみて、上位の会社を調べてみるとかっていうのもいいかもしれないし。
renny:全世界に投資していると、自分が何に投資をしているのかっていうようなのが、上位10社ぐらいはわかるのかもしれないけど、そこから下にはこんな会社にも投資していたのか、およそ気づかないような会社いっぱいあると思います。それが別に悪いことでもないですが、せっかく投資をしているのなら、自分が投資している会社はどういうところなのかをわかる範囲で関わってみるのは一つのやり方かもしれないですね。そうしているうちに個々の会社に関心が出てくると、セクターの値動きの中で、どの会社がすごく貢献したかというか、上にも下にもあると思うんですけども、その理由が何だったのかと調べようと思ったら、IR、決算関連の資料にも目が向いたりするのかな。
PBR1倍割れ問題
renny:今IRについてお話ししましたが、最近話題になっているのはPBRの1倍割れ。前々からよろしくないと声高に言われていて、それを是正するための道筋を投資家に説明しなさい、というようなことを東証が言っているそうです。このあたりのPBRのお話について、吉田さんはどんなふうにお感じになってますか?
吉田:PBR1倍割れしていたら上場の意味ないよね、っていうのはもちろん、上場してたら買収されちゃうんじゃないの?という話もあったりしますよね。たとえば、これは危ないなと思うのは、経済産業省が2020年にグローバルニッチトップ企業100選っていうのを公表して、海外にも発信しているリストがあるんですよ。
吉田:上場企業だけではなく、中小企業も混ざってはいますが、世界の市場規模が100億から1000億円ぐらいの分野で世界シェアトップの日本企業を100社選んでいるんです。この中の上場企業で、PBR1倍割れしてる企業どれぐらいあるのかな?と調べてみたら、20社ぐらいあったりして。これはもう買収されてもおかしくないよねと。
renny:買収してください、お買い得ですリストというか、スーパーの安売りチラシみたいなものですよね。
吉田:国を挙げて安売りチラシを発信してしまった状況になので、これはどうにかしないとマズイ。
renny:もちろん会社にもよると思いますが、PBRを上げようと思うと、基本的には余剰資産がたくさんあるということなので、株主還元を増やして純資産を減らせばいいじゃないか、みたいな話も聞いたりしますがケースバイケースだと思うんで、株主還元に力を入れるのもちょっと違うような気がするんですよね。
吉田:調べてみると結構わかりにくい事業内容の会社が多いので、株主還元と言うよりも、そもそもIRが足りてなかったりするんじゃないのかな。
renny:だから、まずIRを見直して、投資家に理解を深めてもらわないといけないのかな。
吉田:あとは英語の情報も増やして、海外の投資家にも投資してもらうっていうような流れを作らないと。
renny:それはそれで買収のリスクっていうのが高まるようなところもありますが、長い時間軸でコミットしてくれるような海外の機関投資家の人たちにアクセスするために、事業内容に対する理解を深めるような発信は必要なのかもしれないですね。
人的資本に関する情報開示
renny: IR関連で今年の3月期決算から、有価証券報告書に人的資本の関係の開示することが義務化されることを知りました。このあたりもPBR1倍割れの話と同じで、会社のことをより深く理解してもらうという意味では、そういう開示が増えることはポジティブなのかなと。
吉田:どんなものが出てくるのか、まだ理解できていないです。
renny:たとえば一部先行して開示されているのは、有価証券報告書ではなく統合報告書とかになるのかもしれないですが、オムロンさんが先行事例だ、というニュースをネットで見たような気がします。たぶん当初は横並びになりがちなのかなと思いますがね。例えば吉田さんがご自身の投資先とか投資先を探す上で、人材のあたりの情報に注意されたりしていますか。
吉田:比較可能な情報を得る手段があまりなくて、唯一できるのは、就職活動の学生向けの四季報をチラッと見たりするぐらいかな。社員の年収、年齢構成、勤続年数や有休取得状況などなど、IR資料を探せばあるんでしょうけど、一覧でいろんな会社を比較できたりするのは、これぐらいしか思い付かないです。
renny:今の学生さんが就職活動する時に、参考にしてるんですかね。
吉田:本屋の就職活動コーナーには必ず置いてますからおそらく。
renny:学生さんたちの就職人気ランキングとか出てくるじゃないですか。そういう本を読んで研究した結果が、あのランキングなのか?と考えると、どうも怪しい気がするんですよね。
吉田:あれはなんとなく、20年後ダメになりそうな企業ランキングに見えてしまったり…
renny:そうですよね。だからこういう開示とかをすることで変わってきたら面白いなと。そういえば、この間、鎌倉投信さんの運用報告会で、九州地区限定の就職希望のランキングで、投資先のアイ・ケイ・ケイという九州でウェディング事業をされている会社が1位であることが紹介されていました。これは全国版の就職ランキングでは考えづらいような現象で、それはたぶん事業内容がある程度知れ渡っているから、そういうことになっているのかなと。だからそういう意味でPBRも然りですが、人的資本経営のからみでIRが変わってくるのかなと期待しています。投資家の行動にインパクトを与えるまでには時間がかかるかもしれませんが。
吉田:そういえばエーザイの統合報告書に結構面白い情報が載っていたのを思い出しました。人材投資をいくらすると何年後に時価総額がいくら増えます、というような、投資と連動するような研究をしていたように思います。
renny:サンプルが増えるようになったら、そういう研究も進んで、どういうファクターが投資家の評価を惹きつけるのか、というところに繋がってくるのかもしれないですね。今後のIRに注目していきたいですね。
後編につづく