「見せかけのキラキラ感じゃなく、地に足つけたビジネスを!」田端信太郎は“ともに働く相手”をどう選ぶのか?
リクルートやライブドアにLINE、ZOZOと有名企業を渡り歩き、インターネット業界はもちろん、多くのビジネスマンから注目される、田端 信太郎氏。
20年間企業の中の第一線で活躍してきた。しかし、2020年1月に独立し、現在は複数の会社と顧問を勤めるなどフリーランスとしての活動を始めている。
インターネット業界の前線で戦い続けてきた彼は、フリーで働く今、どんな観点で参画プロジェクトを選んでいるのだろうか。
今回は、田端氏が顧問を務める1社である株式会社wevnalの磯山代表と共に、二人がパートナーシップを組むに至った経緯に迫った。長年“サラリーマン”としてブランドやスキルを磨き上げてきた田端氏の新しい選択には、キャリアの選択肢が広がり続ける時代に、変化に惑わされないためのヒントが隠されていた。
40代半ばに差し掛かり、“誰と、どう、向き合うか”変えようと決めた。
ー2019年12月末でZOZOを卒業され、今はどこかの企業に所属することなく活動されてますよね。現在は、どのような働き方をしているのでしょうか?
田端氏:wevnalを含めて5,6社のベンチャー企業の顧問をやりながら、オンラインサロンの運営、時々講演の案件を受けています。
顧問契約を結んでいる会社での仕事は、僕の得意分野である情報発信やコミュニケーションの領域が基本にはなっているけど、詳細はさまざま。社長のTwitterの運用の仕方にアドバイスしたり、PR企画のためにYoutube番組を作るように地方にロケに行ったり。本当いろいろですね。
ーZOZOを退職されたタイミングで転職でなく、独立されたのは何か理由があったのでしょうか?
田端氏:僕は今年45になりますが、正直10年前にコンデナスト・デジタル社にいた頃から「サラリーマンとして働くのは、この会社が最後かな」とぼんやり思っていたんです。
でも、結局その後も LINE、ZOZOと会社員として働き続けた。次々に面白い仕事に声を掛けていただけたんですよね。会社員というのは、その会社の一番奥の奥まで見ることができる。それが魅力です。面白い仕事なら、やっぱり一番面白いところでやりたい。
そう思って「これが最後」と思いながらも、会社員を続けてきました。僕は、サラリーマンが好きだし、環境にも恵まれた方だと思います。でも、もう20年やったからね。ZOZOを退職することをきっかけに「もうそろそろいいかな」と。
ー働き方を変えられることで、変化を感じる点はありますか?
田端氏:自由さはありますが、楽じゃないし面倒もあります。これまで請求書の処理もミーティングの日程調整も誰かがやってくれていたことを、全て自分でこなさないといけない。もちろん、あらゆることを全て自分で決断する必要もあります。自由さの反面に、面倒や責任があることは、もちろんありますよね。
ーZOZOを卒業されて、あらゆるところから声がかかったと思います。現在、参画されているプロジェクトはどんな観点で選ばれたんでしょうか?
田端氏:そうだな…。誰とやる仕事なのか、プロとしての報酬金額、その仕事で自分は何を得られるのか。そのあたりでしょうか。
あと、40代半ばになって決めたんですよ。なるべく年下の人と時間を過ごそうと。そして、「俺が教えてやる」というスタンスではなく、一緒にやる姿勢でいようと。そうすることで、若くいれるんじゃないかと思うんですよね。僕のメリットになってしまうんですけど(笑)
自分が若かった時は、年長者の持つ経験が学びのタネになっていました。でも、今はもう自分がおっさん。そうなると自分が経験してこなかったことを現在進行形で経験している今の若い世代と一緒に過ごす方が、相対的に新しいインプットが多くなってくるんですよ。
今回取材に同席している磯山さん含め、wevnalの役員陣も僕よりも年下の方々ですしね。
ビジネスは売上が上がってなんぼ。そのリアリティがwevnalにはある
ー確か、wevnalの代表の磯山さんは、田端さんの10歳年下でしょうか。“若さ”の他に参画を決められた具体的な魅力を、wevnalを例にあげて教えていただけますか?
田端氏:渋谷のキラキラしたスタートアップがたくさんある中で、wevnalの磯山さんは、いい意味で地に足がついているんですよ。
成長スピードだけを取り上げたら、もっと急角度で成長している会社はあるかもしれないけど、wevnalは創業から9年、外部資本を入れずに着実に成長している。ちゃんとしているなと。正直、外部のVCからの資金で2、3年夢を見て、結局その間に売上も全然立たずに終焉するスタートアップなんて沢山ありますから。wevnalは、自分たちでリスクをとって自己資本で会社を回せている。
でも、「じゃあこのままでいい」とも思っていないわけです。基盤になる広告代理店事業だけじゃなくて、自社プロダクトを開発して「スタートアップとしてもう一皮、二皮むけていこう」という気概もある、このバランス感が素晴らしい。理想と現実のどっちかだけでもダメ。このちょうどいい具合をうまく言語化できないのですが、自分のビジネスマンとしての経験から「あぁ、分かるなぁ〜」と共感してしまうんですよ。
ー田端さんと磯山さんは、ビジネスマンとしての勘所が合うんですかね。その絶妙なバランス感の根拠は何だと思いますか?
田端氏:ビジネスのリアリティだと思います。結局、ビジネスは売上が立ってなんぼなんです。どんなに新規性があろうが、すごい技術を持っていようが、売上無くして継続はできない。そのリアリティがない会社は多い。
でも、wevnalでは営業力という名の土台が、そのリアリティを作り上げている。これは新規事業となる自社プロダクト、チャットボットプラットフォーム『BOTCHAN(ボッチャン)』にも通じてます。
広告代理業とプロダクト事業は別のものではあるけど、根底には変わらないクライアントのマーケティングに対するニーズがあるんです。違うのは、アプローチの方法。だから、売上というリアリティは揺るがないし、納得感がある。
私は既存事業と新規事業の距離感を飛び石に例えるんですけど、飛び石は遠すぎても近すぎても良くないでしょ。
ー磯山さんの目線でも、このバランス感覚について伺いたいです。事業選定の際にこの距離感は意識されたんでしょうか?
磯山氏:そうですね。同じ広告代理事業を主戦場としながら、全く違う事業を新規事業として立ち上げられて成功された会社もありますが。ただ、それは我々の得意な戦略ではない。
やっぱりクライアント起点で考え、マーケティング支援の領域で戦うことが我々の強みを最大化できると感じました。チャットボットプラットフォーム『BOTCHAN』は、広告代理業とは手法は違っても、既存のクライアントが持つ、CVR向上やユーザー離脱率改善などのマーケティング課題を機能的に解決できます。
さらに、マーケットに視点を向けると、今後はWEB上でのユーザー接客が一般的になることが見えています。自分の得意な領域を拡張して、市場の動きの半歩先に手を打つのが、私たちらしい戦略だと思っていますね。
田端氏:『BOTCHAN』は最先端ワード好きな人間からすると「AIとかBotとか言いながら、結局LPの延長線上のベタなことしてる」と思われるかもしれないし、良くも悪くも単純にも見える。でも、それこそクライアントニーズに裏打ちされたリアリティ。僕はむしろ誇るべきじゃないのって。
どんなにキラキラ見える会社も、いいことばかりじゃない。「自分がどうありたいか」軸を持つことが大切。
ーそのwevnal社の魅力は、企業研究をしたり、代表や社員の方と対話することで見えてくる気がします。ただ、分かりやすく派手さのあるものが魅力的に見えてしまうこともあるもの……。新しく職場や仕事を探す人が、分かりやすい魅力に惑わされないためにはどうすれば良いのでしょう?
田端氏:結局、自分がどの山を登りたいか、結局どうありたいか、自分自身の指針がないといけないですよね。それがないと目移りばかりしてしまう。
今はキャリアに関するWEB記事も多いし、良くも悪くもSNSで人のキャリアについての情報が目に入ってきますよね。「あの会社の誰々がやったプロジェクトがすごい」とかあるけど、どんなに注目されてキラキラして見える会社も仕事も、何から何までバラ色なんてことはない。中に入ったら、どこでも問題なんてありますから。真に受けちゃいけないですよ。だから、そんなの読んで、焦らなくていいんです。
ー田端さん自身が自分が参画するプロジェクトを選ぶときには、どのようなプロセスを踏んでいるんですか?
田端氏:僕は、WEBの記事を読んだりして面白そうな会社を見つけたら、TwitterやFacebookをフォローしますね。社長のSNSをフォローして継続的に観察します。同じ情報でも、瞬間的に見るのではなくて、継続してウォッチすると、文脈から本当に伝えたいことが理解できる。
観察しているうちに自分の関心に触れることがあったらレスをしてみると、そこから話が盛り上がることもあるし、実際に会って話すようになるかもしれないない。それが人生を変えるきっかけになる可能性も全然ありますよ。
僕としては、エージェントに紹介されて1週間後に転職の面接を組まれるような進め方でなく、自然な間合いの中で徐々に関係性を深めていく方法を支持したいですね。
僕自身がwevnalの顧問になったきっかけも、元々は僕のオンラインサロン『田端大学』のスタートアップ社長向けプランに、磯山さんが申し込んだから。このきっかけは、お互いにとってすごく良い自然なウォーミングアップになったと思います。
WEBマーケティングの厳しい現実の最前線から、業界を変革していきたい
ー顧問を始めて2ヶ月。実際に田端さんがジョインされて、お二人ともに手応えはいかがでしょうか?
磯山氏:田端さんにはあらゆる形で力になっていただいています。ライブドアやLINEでの広告事業に関するノウハウや、ZOZOでの対ユーザーのご経験を持っていらっしゃるので、壁打ち相手としてはもちろん、事業成長に繋がるプラスワンのアイディアをいただけることもあります。数ヶ月以内にリリースできるものもあるので、今から楽しみですね。 あとは、今までの我が社の弱みであり、田端さんに声をかけた一番の理由でもある広報・PR領域も、今後強化できるだろうと見立てが立っています。
『BOTCHAN』が柱の一つとなるサービスへと成長してきたので、ここで援護射撃となるマーケティングやブランディングの部門を田端さんと作り込んで行けるのは、心強いですね。現在のwevnalの武器である営業力に、広報PRの戦略が加わることで、事業成長のスピードアップはもちろん中長期的に見ても会社が成長できると確信しています。
田端氏:マーケティングとセールスは連携していないと、効果を最大化することはできないんですよね。セールス部隊を援護射撃するはずのCM広告やオウンドメディアでの事例紹介といったマーケティング施策も、セールス現場のテンポが理解できていないと、いまいち惜しい結果になってしまう。
セールスが地上戦、マーケティングが空中戦だとしたら、空中から爆撃したとしても、地上戦の戦い方がわかっていないと誤爆してしまったり、相乗効果も生まれない的外れな空爆になってしまうでしょ。
そういう意味では、僕はセールスの経験もある。マーケティングとセールスの連携、または新規顧客の獲得と既存顧客の維持拡大の両立という、両輪をうまく回すところで力になれればと思っています。
ーよりパワーアップされた今後のwevnalの展望が気になりますね。最後に、新しいwevnalで成し遂げたいことがあれば、お聞かせください。
田端氏:今のWEB広告業界には、CPAやKPIばかりを気にして、特定のメディアで、とり切ってしまうまで広告を打ち続ける、いわば焼畑農業な手法があります。理想的ではないけど、それが良くも悪くも現実。wevnalは、その中でビジネスをしているわけですが、だからこそ、業界を変革することへの強い意思を感じます。
僕が経営陣の3人と話して、とても印象的だった言葉があるんです。
「そうした現実の最前線にいて、やり尽くした自負があります。だからこそ、クライアントもユーザーも疲弊しないマーケティングを探りたい。」と。
現実がわかっていない人が変革を起こそうと言ったところで、上滑りになります。でも、彼らは今のWEB広告業界の構造やクライアントの目標数字とか、目の前の厳しい現実を自分たちで体感している。だから、その変革の意思にリアリティがある。
短期的な焼畑農業的思考のマーケティングからの脱却というのは、マーケティング業界全体にとって本質的で付加価値のあるテーマです。現実を肌で感じている彼らにこそ、挑戦して欲しいと思います。
磯山氏:田端さんには「もう少しクライアントとユーザーが、みんな本質的に疲弊しないビジネスがあるんじゃないというの。それができたら社会的な価値がある」とずっと言っていただいています。
正直今の環境だけでいうと、それはビジネスとして成立させるのがとても難しいです。でも、そこをどうにか変えていきたい。ここはぜひ直接現場の社員に聞いてもらえるといいかと思います。
文=萩原 愛梨 撮影=八島 朱里