「Xで気軽にご連絡ください」はハードルが高い? 著名VCがあえてPittaを使う理由
2018年にXTech Venturesを創業し、ジェネラルパートナーとしてさまざまなスタートアップに投資をしてきた手嶋さん。実はPittaの投資家であるとともに、さまざまな切り口でPittaを使いこなしているPittaユーザーでもあります。
Pittaで作成した4つの募集には190件を超える応募が殺到。自社メンバーの採用に加えて、新規投資先との接点作りにも繋げられています。
今回はそんな手嶋さんにPittaの活用方法や背景を聞くとともに、実際にPittaでのカジュアル面談をきっかけにXtech Venturesに入社された籠橋さんにもお話を聞きました。
2号ファンドで方針転換、“20代の未経験者”の採用強化へ
- 本日はよろしくお願いします。2018年に始動したXTech Venturesですが、2022年には約120億円規模の2号ファンドの組成も完了し、活動の幅が広がってきていますね。最初にファンドの概要や近況から教えていただけますでしょうか。
手嶋 : まさに2018年に私と西條(代表パートナーの西條晋一氏)の2人で立ち上げたファンドです。1号ファンドの規模が約52億円、2020年に立ち上げた2号ファンドの規模が約120億円になります。
ファンドの戦略としては、創業期からシリーズAくらいまでをメインのターゲットに据えながらも、今後1〜2年で上場を見据えているような“プレIPO”の企業にも投資をしています。
特に前者は自分たちの好みの部分も大きいかもしれない。創業初期の曖昧で混沌としたスタートアップから新しいプロダクトが確立され、会社として大きく成長していく過程を側で支えられるのは、ベンチャーキャピタルの1番の醍醐味だと考えています。
一方で設立当初から「金融業として結果を出し続けること」にもこだわりたかったので、プレIPOへの投資をすることも決めていました。VCとしてリスクをとりながらシード投資に取り組みつつ、早期にリターンが見込める企業にも投資をすることで、LPの方々にとっての安心材料にもなるのではないかなと。
プレIPOのようなフェーズの会社を評価するにあたっては、私や西條の過去の経験を活かせる自信もあったので「自分たちの好みとファンドとして結果を出すこと」の両方を追求した結果、現在の方針に落ち着いたような気がしますね。
- 現在はチームも拡大されていらっしゃいます。組織づくりに関してはどのような方針なのでしょうか。
手嶋 : 実は1号ファンドでは、組織を作るつもりがなかったんです。サポートしてくれるスタッフは必要だとしても、キャピタリストに関しては私と西條の2人だけでも十分ではないかと考えていました。
設立前からお互いがスタートアップへの投資やM&Aに携わっていたこともあり、この業界で仕事をしていれば投資や事業の相談が来るだろうという感覚もあって。その受け皿としてファンドを作ろうという側面もあったので、当初の発想はエンジェルファンドのような位置付けに近かったのかもしれません。
2号ファンドでは方針を転換することになったのですが、立ち上げにあたっては大きく3つの選択肢を検討しました。
1つは1号ファンドを2人でしっかりとやり切って、そこで辞めるという選択肢。2つめが1号ファンドと同様に、50億円規模のファンドを2人で運営し続けるという選択肢。そして3つ目がファンドサイズを拡大して、組織としてベンチャーキャピタルを運営していくという選択肢。
結果的には3つ目の選択肢を選び、約120億円規模の2号ファンドを組成することにしました。ファンドとしては1号の時以上にカバーするべき範囲が広くなったこともあり、新たにキャピタリストを採用しながら、組織づくりを進めているところです。
- 2号ファンドを立ち上げるにあたって、そのような方針転換があったのですね。
現在は「組織を作って引き継ぐ」ことを将来的な目標にしながら活動をしています。そのために力を入れているのが「20代の未経験者」の採用です。
採用するキャピタリストの人数は年に1人か2人ほど。未経験でもいいので20代のメンバーを5〜10年かけて育てながら、次を任せられる人材が出てきたら引き継いでいきたいと考えています。
私も西條も、新卒の段階からベンチャーキャピタリストになることを目指し、キャリアを重ねてきたわけではありません。だからこそ、基本的にはどのような経験を積んだ人であっても、キャリアの途中からキャピタリストを目指せると思っているんです。
もちろん未経験の場合は投資契約の基本など実務的な基礎知識について1から学ばなければならない。でもその部分に関してだけであれば、経験者がスキップできる期間は1〜2年くらいではないのかなと。
むしろ、世の中においては未経験者の数の方が圧倒的に多いわけじゃないですか。経験者であっても未経験者であっても採用できる仕組みがある方が、競争にも巻き込まれないよねという考え方です。
Pittaというクッションで、気軽に応募しやすい空気感を作る
- そのような方針を掲げている中で、Pittaも活用いただいたわけですね。ここからは手嶋さんのPittaの活用方法について伺いたいのですが、新しいユースケースも含めて、幅広い切り口で試されているのが印象的です。
手嶋 : Pittaの投資家だから(実際に使ってみている)という面もあるのですが、Pittaが盛り上がり始めた時に、「採用を目的としたシンプルなカジュアル面談」以外にもいろいろな使い道がありそうだなと感じました。
私自身がサービスの新しいユースケースを生み出すことが好きだったりもするので、まずは自社の採用ではなく、投資先との接点作りに使ってみるのはどうかと試してみたんです。
- それが「シリーズA資金調達前の起業家の方!」の募集ですよね。
手嶋 : そうそう。1ヶ月くらいの期間で、いろいろな人と話をする時間を設けてみたいと考えて募集をしたところ、50人ぐらいの方が応募してくださって。実際に約20人の方とカジュアル面談をさせていただきました。
結果的には、そのカジュアル面談をきっかけに2社へ投資をしています。XTech Venturesの場合はファンド全体での新規の投資件数が1ヶ月に1件ぐらいなので、Pittaでの1本の投稿が2ヶ月分の仕事に結びついたようなかたちです。
その時に「こういう使い方もできるんだな」と、改めて実感しました。
- それ以外だと「VCで働きたい方雑談しましょう」や「ファンド管理について話し合いたい」といった募集も出されていますね。手嶋さんが出された4つの募集には累計で190件以上の応募が集まっていて、かなりの反響です。
手嶋 : 「気軽に雑談しましょう」のようにハードルが低いものには応募が集まった一方で、「ファンド管理について話しましょう」みたいにものすごくピンポイントなものにはなかなか応募が来なかったので、その辺りはPittaとの相性の問題もあるかもしれない。
投資先募集に関しても乱発するものではない気がしていますが、年に1回とかの頻度で今後もやっていければ良いなと考えています。
- 手嶋さんのように著名なキャピタリストの方だと、SNSなどで直接メッセージが届いていそうな気もするのですが、そんなことはないのでしょうか。
手嶋 : たまにXのDMでご連絡いただくこともあるのですが、そこまで多いわけではないです。例えばPittaをきっかけに投資させていただいたtacomsの宮本晴太さんは、カジュアル面談をした当時の年齢が21歳とか22歳でした。
彼のような年代の人からすると、私とは年齢差もありますし、仮に「Xで気軽に連絡ください」とプロフィールに書いていたとしても、身構えちゃうと思うんですよ。カジュアルにDMをして、かえって怒られても嫌だなとか。
だからこそ、あえてPittaのようなクッションを設けることによって、「本当に連絡しても大丈夫なんだ」という空気感が出たんじゃないかなとは思います。
- 実際にPittaで応募されてきた方々も、普段はあまり接点がないような人が多かったのでしょうか。
手嶋 : 多様性がありましたね。知人の紹介経由で起業家と会う場合、共通言語がかなりある人が多いのですが、Pittaの場合は主にXという大海原に対して僕が発信した内容を見て、興味を持ってくれた方なので。
地方でお土産屋をやっていて事業を伸ばしたい経営者の方とか、普段はなかなかお会いする機会がない方もいらっしゃいました。
経営層といきなりカジュアル面談ができる
- 籠橋さんにもお話を伺いたいと思います。前職は三井住友銀行で働かれていたと聞いています。
籠橋 : もともと東海地方の出身で、父がメーカーに勤めていたこともあって、幼少期から日本のものづくりに関心がありました。新卒で銀行を選んだのも、「日本のいいものをどんどん海外に普及させていくような仕事がしたい」という思いが強かったからです。
銀行では大阪で中小企業の経営者の方々への営業(事業法人向けの融資・ソリューション提供)を担当した後、3年目に経済産業省へ出向し、広義の“インフラ輸出”に携わることになりました。
もともとインフラ輸出は日本が強い領域だと思っていたのですが、その時に初めて実態が違っていることを知りました。特にデジタルインフラの領域では東南アジアなどにも先行されている状態で、危機感を覚えるようになったんです。
VCとの接点に関しても、当時の上司の繋がりでキャピタリストの方と交流する機会があり、大まかな業界の構造やプレーヤーについて認識するようになりました。
銀行に戻った後は外資系ファンドの支援業務が中心で、対日投資のサポートなど幅広い業務に携わることになり、やりがいもあったのですが、一方で日本を元気にできるような仕事をしたいという思いも強くなっていったんですね。
ファンド支援業務を通じてファンドビジネス全体への関心も高まっていたので、その2つを掛け合わせた「VCへの転職」を少しずつ考えるようになったんです。
- Pittaを知ったのは検索エンジンがきっかけだったそうですね。手嶋さんの前にも、キャピタリストの方が募集されてるカジュアル面談に応募されていたのだとか。
籠橋 : Googleで「VC 転職 未経験」のようなキーワードで検索したところ、キャピタリストの方が作られたPittaの投稿を発見したんです。そこでPittaを知って、今度はPittaの中で「VC」で検索して募集を探し、数人のキャピタリストの方に面談の機会をいただきました。
ただ、当時はすぐに転職することを前提としていたわけではなかったので、3カ月間ほど空白期間を設けたんですね。それでもチャレンジしたいという気持ちが変わらなかったので、3カ月後に再びPittaを開いたところ、手嶋さんの投稿を見つけました。
これは手嶋さんに限った話ではないですが、銀行に勤めていた自分の感覚からすると、VCのパートナークラスの方と直接やりとりをして、そのままカジュアル面談が実施できてしまうのは、すごい状態だなと。当時は深く考えずに応募ボタンをポチポチ押していたのですが、冷静に振り返るとすごいなと思います。
- 手嶋さんとのカジュアル面談の印象はいかがでしたか。
籠橋 : 手嶋さんは「未経験で転職してきた時に苦しむポイントを教えます」「一度SMBCベンチャーキャピタルに話を聞きに行ってみては?」といったように、ものすごくフラットな視点からアドバイスをしてくださりながら、この仕事の魅力を伝えてくださったのが印象的でした。
銀行員としてのマインドが染み付いていた手前、「この仕事はノーリスクです」と言われると、かえって不安になって踏ん切りがつかなかったかもしれません。その点、メリットもデメリットもフラットに伝えていただいたのが、ありがたかったです。
正直スタートアップ全体への知識に関してはかなり薄かったと思うのですが、自分のバックグラウンドやファンドビジネスへの興味などについても、面白がってくれた印象がありました。
- その後、正式に採用選考を受け、XTech Venturesに入社されました。未経験からの挑戦というお話もありましたが、キャピタリストの仕事はいかがですか。
籠橋 : 手嶋さんが入社前におっしゃっていたことでもあるのですが、基本的に日々の仕事の中で接するのが前向きな起業家の方ばかりなので、その点はキャピタリストの仕事の楽しい部分だと感じています。
自分のバリューという観点では課題も多いのですが、投資先の補助金獲得支援は強みを出せる領域の1つだと思えるようになりました。
政府もスタートアップ5ヵ年計画を推進しており、次々とスタートアップにとって追い風となる支援制度や取り組みが始まっている一方で、依然として情報の非対称性が大きいです。
そこは経産省時代の経験を活かせるところですし、実際に補助金採択が決まった事例も作れてきている。中央省庁出身のキャピタリストが多くないこともあり、投資先に貢献できるポイントだと考えています。
また自分で最初の接点を作り、投資実行に至ったケースも生まれてきているので、そのような事例を安定して作れるようにしていきたいです。