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詩集 風の見たもの 1

【00. 序】

今は昔の平安朝、人気は既に二百年。
当代一の音楽を、人々は呼ぶ、今様(いまよう)と。

和歌を嗜む宮廷人。今様歌う一般人。
雅に対して世俗ネタ。なんでもありの流行歌。

時代は昭和十五年。今様、なおも生きていて
叙事詩の邦訳する時に、七五2つで一行を

作った晩翠(ばんすい)、名調子。
更に経つこと数十年、これに習って詩を作る。

風をお題に今様の、文体で編む七五調。
気の向くままに書き綴り、詩集と称して織り上げた。

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 全編すべて口語体の今様体です。今様というのは平安時代に
大流行した歌謡で基本形は七五4つを一節とする形式です。
今様は、音数はそれほど厳密ではなく、梁塵秘抄などに残る
実際の今様には音数はまちまちで合いの手が入る作品もあるなど
バリエーションが沢山あります。
 そのような今様ですが、これにちなんで七五調の事を今様体と呼ぶ
記事を見かけたので、自分もその呼称を採用しています。
 現代でも事例として見られる歌としては「どんぐりころころ」
や「蛍の光」や「荒城の月」などが有名です。
 本詩集は土井晩翠がホメーロスの邦訳をする時に使った、
七五2つを1行とする詩行を繰り返す、という形式をベースに
日本語定型詩の試みとして書いたものです。終盤になって、今様以外の
定型やレトリックが使えないか、試み始めた事が、長歌や甚句形式の
採用、という形であらわれています。この傾向はのちの拙作
「詩集 マインドトラベラー」でますます顕著になりますが、
ここでは別の話。
 以下、本編から「風の章」がはじまります。

【01. 風】

空気が動けば風になる。空気まれば凪という。
誰知る事無く吹き過ぎて、誰知る事無く消えてゆく。

時には派手に吹き荒れて、暴風などと呼ばれるが、
やんちゃなやつはごく僅か。余り恐れる事は無い。

多くは静かな生涯を、時の狭間で過ごすだけ。


【02. 風の精】

長い時間を駆け抜けて魂宿す奴もいる。
そうして生まれた風の精、仲間を捜して飛び回る。

声にならない声上げて、興味の向くままそよそよと、
辺りを漂い続けては、窪みに降りてひと休み。

止まる訳にはいかないが、風の衣を身に纏い
ゆらゆら揺れて佇めば、周りは清気で満たされる。


【03. 噂】

とある街での出来事が風の間で伝えられ、
たちまち蠢く好奇心。整え始める旅支度。

期待はいやでも膨らんで門出の時を待ちわびる。
行ったら最後、いつかまた戻るかどうかもわからない。

気ままな旅を楽しめば、いつしか旅の目的を
忘れかねない呑気さは、風の特性故なのか。

【04. 人】

長い時間が過ぎ去って、ふと気がつけばそれはいた。
いつからいたのかつゆ知らず、何処から来かも分からない。

自己中、傲慢、それでいて他者の視線も気に掛かり、
恰好つけては恥をかく。げにあさましい、人の性。

奴等はやたら群れたがる。独りじゃ何も出来ないが、
寄り集まれば災禍なす、無視の出来ない有り様に、

流石の風も困り果て、ままよと全て吹き飛ばす。
同じ思いの雷と雨も大地も力添え。

天変地異と人は云う。天変地異はおまえらじゃ!!

掃除する事幾度か、それでも人は生えてくる。
何度やっても心根はそれほど変わる訳もない。

最後は決まって大騒動。毎度の事だがいい加減、
風の精たち慣れてきて、頃合い計るまでになる。

何度やっても変わらない。人が生まれて滅ぶまで、
多少の長短あるものの、おおよそ一万八百年。

【05. 鳥】

風の近くにいつもいて無心に生きる偉いやつ。
3歩歩けば物忘れ。けれどめげない凄いやつ。

空駆けるやつ、泳ぐやつ。大地を走るやつもいる。
そこはかとなくせわしなく、いつもそわそわ動いてる。

【06. 暗香】

辺り一面真っ白に塗り尽くされた雪の日に、
何処で咲くのか梅の花。風が香りを連れてくる。

厳しい冬の終わり頃、姿無くともほんのりと
漂う香りが春を告げ、命の躍動呼び起こす。

【07. 旅行】

風はたいてい旅好きで、遠くを目指すやつもいる。
途中で力尽きぬよう、今日も鍛錬欠かさない。

旅の土産は四方山話。語り上手は人気者。
方向音痴なやつもいて帰って来ない事もある。

いなくなっても大丈夫。いつの間にやら戻るから。
風の旅路は気まぐれ三昧。どこに行くかは風次第。

【08. 天藾】

風も時には音楽家。無性に騒ぎたくなって、
思わず天籟奏でれば、たちまち拡がる別世界。

幻想的なハーモニー、この世の物とは思えない。
調べは響く、美しく、心和ませしみわたる。

【09. 東風(とうふう)】

暗香運ぶ東風の、到来喜ぶ人がいる。
東風自身は無関心。いつも通りに目覚めたら、
いつも通りの道筋を軽く通って戻るだけ。
飽きたら薫風呼びに行き自分は家で休むのみ。

【10. 薫風(くんぷう)】

若葉緑に燃える頃、瑞気を運ぶ薫風に、
夏の到来気づく人、喜色にじませ空仰ぐ。
薫風もまた無関心。馴染みの緑樹、草花と、
挨拶交わせば後はただ、家に戻って休むのみ。

【11. 涼風(りょうふう)】

夏の終わりに吹き過ぎる、ちょと冷たいそよ風は、
天地の熱をさましつつ、秋の兆しを思わせる。
長年の友、草木も、枝葉で共に唄い出す。
人の中には風の音(ね)に、驚かされる奴もいる。

【12. 寒風(かんぷう)】

陽光弱まる冬の日に、辺り一帯凍てつかせ、
ここぞとばかり吹きすさぶ、一陣の風、今日もゆく。
冬の厳しさ助長して、恐れられてる寒風は、
実は気弱でシャイなやつ。荒れ気味なのはテレ隠し。

【13. 風魔法】

人の中にも変な奴、たまに見かける事がある。
本人曰く精霊や、自然の力借り受けて、
魔法を行使するという。だけど風たち知っている。
力を貸したことなんか、誰にもとんと覚えが無い。

見れば自力で風起こし、ある程度まで制御して
悦に入ってるだけのよう。風はそれでも気にしない。
黙って様子を見ているが、ちょっかいかける奴もいて、
巨大暴風繰り出せば、上を下への大騒ぎ。

面白がって見ていると、火や雷もやってきて、
とんでもない風起こしたら、術者はその場で腰抜かし、
野次馬声も出ないまま、その場に呆然立ち尽くす。
この人その後はもう2度と、魔法に関わらなくなった。

【14. 風評】

風評被害というけれど、風はなんにもしちゃいない。
すべては人の悪だくみ。ぜーんぶ風のせいにして、
罪なき人を陥れ、楽しそーうにほくそ笑む。
風はそんなの知らん顔、相手選ばず吹き過ぎる。

根も葉もないのは当たり前。だってそれは風だから。
ところがそれを真に受けて、人を傷つけまくる奴、
はた迷惑に騒ぐ奴、マスコミなんかもその一種。

人はなんてつまらない生き物なのかと思います。
ほら、あなた。あなたのことです。わかります?

【15. 吹きだまり】

どんな街にも、大抵は少し淀んだ場所がある。
そこに集まる人々は心に闇を持っていて、
明るい場所を避けながら何くれとなく足掻いてる。

どんなに狭い隙間にも入って行ける風でさえ、
そういう場所は避けてゆく。たまに吹き込むはぐれ風、
沈んだ空気をかきまわし、暫く遊んでみたものの、
誰も反応しないので、ほどなく厭きて去ってゆく。

けれど時には目を見張る、キラリと光る奴もいる。
そーんな奴を見つけると何故だか嬉しい風だけど、
何かをしてやる訳じゃなく黙って様子を見てるだけ。

中には風を感じ取り、縁起をかつぐ奴もいて、
節目が来ると風を待ち、風と一緒に動き出す。
風は全く無頓着。それでも何故かツキを得て、
確かに万事うまくいき、当の本人得意顔。

飛び出す奴はごくわずか。風を味方につけたから。
多くはそこでくすぶってあえなく一生終わるだけ。
それでも夢を垣間見て行動起こす奴は、ただ
風が脈打つ躍動に突き動かされ、進んでる。

こうなりゃ誰も止められぬ。行くだけ行って止まるのみ。
ある種風にも似ていると、風は感じているだろう。
まるで後押しする様に、寄り添い波瀾を引き寄せる。
風雲急を告げたとて、構わず前へと進みゆく。

後に残った大多数。淀みの中で蠢いて、
一歩踏み出す勇気無く、それでいいやと本心を
塗り替え何の甲斐もない、時を過ごして朽ち果てる。
風はますます遠ざかる。変わらないのは吹きだまり。

【16. 風流】

風が流れりゃ風流だ。風には訳がわからない。

人の中には日常を少し遠ざけ、独特の
ムードの中で過ごしたい、と考える奴、たまにいる。

自分の優雅な教養は人とは違う、と信じ込み、
世界を作って浸り切り、外にいる者蔑視する。

口では言うさ、綺麗事。中までそうじゃ無い事は、
行動見てれば丸分かり。金かけ手間かけ目一杯、

見栄張り意気がり得意面。滑稽としか思えない。
風の流儀は自然体。飾らず誇らずありのまま。

【17. 風邪】

ふうじゃと書いて「かぜ」と読む。昔の人は、考えた。
呼吸がとても荒れるので、邪悪な風のせいにした。
風に良し悪しないけれど、人の良し悪しどうだろう?
人の仕業で患えば、さしずめ人邪(じんじゃ)というのかな?

【18. 郵便】

風がはじめた郵便事業、意外と人気を博してる。
風の便りは気まぐれだ。まともに出来るはずがない。

いつ頃届くか分からない。誰に届くか分からない。
それでも依頼をする人は、意外性を楽しんで

予想屋までも登場し、同好の士が集まって、
盛り上がってる、最高に。これはこれでもまあいいか。

いつまでもつか危惧された、風の郵便事業だが、
意外と皆に支持されて、倒産する気配はない。

【19. 明日】

明日は明日の風が吹く。なんて嘯く奴もいる。
それはそうかもしれないが、それでいいのか人生は?

今からあれこれ気にしても、せんなき事もあるだろう。
何かをせずにはいられずに、つい先走る事だって、

なくて済む訳ないじゃないか。昨日の明日は今日の風、
吹いて一番追い風か、吹いたら困る向かい風。

色々思案を重ねつつ、より良い風を目指しては、
まだまだ駄目と、やり直す。先は長いが大丈夫。

いつかは会える、カミカゼに。

【20. 勇者】

勇者、勇者とおだてられ、気がつきゃ修羅場に身をさらし、
命をかけて強敵と、戦う定めを負わされる。

割に合うのか合わないのかは、人の価値観次第だが、
チートな奴にもそれなりに、苦労は多くつきまとう。

見ると聞くとじゃ大違い。ヒーロー稼業も楽じゃない。
風の友達持つ奴は、大事な所で支援受け、

無事に帰還を果たせるが、自力じゃとても大変だ。
信頼出来る仲間たち、そうそう見つかる訳じゃない。

実際集まるパーティーは、我が儘、臆病、怠け者。
文句が多く、利にさとく、いざという時、逃げ去って、

ちっとも頼りになりゃしない。それでもぼっちよりはマシ?
理想を言えばキリがない。ひとまずこれで手を打って

先へと進む勇者には、選ぶ権利は無さそうだ。

【21. 勇者の従者】

いつも勇者に寄り添って、勇者を支える地味な奴。
風は時々ねぎらって、微笑み送り元気づけ。

風が送った微笑みは、爽やか微風で薫り良く
心落ち着けゆっくりと、疲れ癒やして吹き過ぎる。

勇者と違って従者には、名をなす機会もないけれど、
従者は思う、この方が、おもろい事を安全に、

見たり聞いたり出来るから、自分としては満足だ。
美男や美女と知り合えるチャンスも多くやってきて、

普通の生活するよりは、得るもの多い人生を
送れる事は確実だ。みすみす逃す手はないぞ。

とはいえ従者に加護はなく、悪い勇者についたなら、
心身削る思いして、得るものわずかの体たらく。

従者使いの荒い奴、避けつつ勇者を選りすぐり、
お人好しの勇者(やつ)につき、楽して旨みにありつくさ。

【22. 勇者のライバル】

常に勇者を意識して、向こうを張って意気がって、
腕を磨いて頑張るが、チートな勇者にゃ敵わない。

一歩も二歩も及ばない、結果に沈む毎日だ。
それでもめげず何度でも、同じ挑戦繰り返す。

時には勇者の危機救い、敵を倒した事もある。
強くなれなきゃ意味がない。力が無ければ意味がない。

固い信念抱きつつ、飽くなき野望の火を燃やし、
目指すは勇者の上を行き、最強の名をモノにする。

人生すべて賭けてでも、これぞ自分の本懐と、
思えばこそのこだわりを、貫く心、誰ぞ知る。

【23. 勤勉】

とかく人の世不公平。一所懸命努力して、
せっかく結果を出したって、妬まれ恨まれ蔑まれ、
悪けりゃ成果を盗まれて、逆に罪を着せられる。
何できついか風当たり。風にとっては意味不明。

【24. 魔族】

ローマの人々こう言った。
人にとっての狼は、何と言っても人である。

人の悪どさ残酷さ、挙げればきりがない位、
異世界行けば魔族とか、いるけど人には及ばない。

風はあくまでマイペース。人にも魔にも組しない。
悪かろうと善かろうと、相手構わず吹きつける。

そういや悪魔と言うけれど、善魔や良魔はいるのかな?
人にも良し悪しある様に、魔族も色々いるだろう。

当たり前だと思うけど、人にはそれがわからない。
だから争い絶え間なく、傷つけ合うのが大好きだ。

それを愚かと決めつけて、嘲笑うのは簡単だ。
けれどもそれで終わりでは、今後も何も変わらない。

討伐ばかり考えず、共存共栄目指しつつ、
互いの長所を活かせれば、世の中もっとマシになる。

人間同士の話です。お間違えのない様に。

【25. 象徴詩 風雨】

いつものように、日曜日。ゆっくり休む、朝寝坊。
天気は荒れる、鬱気分。寝床を一歩も出られない。

雨はどしゃ降り容赦なし。草木は踊る、風歌う。
風雨ますます強まって、日がな一日寝て暮らす。

ようやく鎮まり気がつけば、すでに日替わり月曜日。
心の中は風雨荒れ、やおら仕事に出向く朝。

【26. 金曜日】

今日の仕事はもう終わり。あとはまっすぐ帰るだけ。
仕事はどんなにハードでも、いつも通りの帰り道。

一歩職場を出たならば、仕事のことなど忘れ去る。
心は我が家に向かってる。いつも通りの帰り道。

人が何をしてようと、夜風は街を吹き過ぎる。
今日の我が家はカレーの日。いつも通りの帰り道。

【27. 紅葉(もみじ)】

世の中二十一世紀。けれど紅葉は変わらない。
ハラハラ落ちる木の葉には、そよ吹く風がよく似合う。

風が紅葉を纏うのか、紅葉が風を纏うのか、
彩り豊かに舞い踊り、地面を錦で敷き詰めた。

「さっききれいにしたばかり、
 なのにこんなになっちゃって」
「この時期仕方ないんじゃない?」
「分かってはいるんだけどね」

どこかでそんなやりとりを、していそうな澄んだ朝。

【28. 模倣】

○○風って言うけれど、それって真似って事だよね。
風はモノマネしないのに、何故か風の字使われる。

似ているときも△風、なんて言う事あるけれど、
風が似ているわけじゃない。風本人は恐らくは、

そんな事になってるなんて、あずかり知らぬ事だろう。
そういうのって「かぜ風」と、言えばいいのか、考える。

【29. 振る舞い】

時々見かけることがある。風ではない風吹かす奴。
先輩風に親父風、専門家風、兄貴風。

実力以上に見せたがる、見栄と虚勢で空威張り。
らしくないことやったって、結果が出なきゃ意味がない。

一方吹かれる奴もいた。一番大事という時に、
臆病風というやつに、吹かれてビビって何もかも
台無しにして泣き寝入り。結果が出なきゃ意味がない。

肝心かなめの風たちは、これにもてんで無関心。
どこ吹く風と決め込んで、思い思いによぎるだけ。

【30. 変革】

じりじり続くマンネリに、抗うすべも根性も、
とうの昔に失って、ただただ惰性に身を沈め、

時が経つのを待つだけの、居るだけ無駄な人生に、
転機をもたらすものは風。新風吹けば旧弊を、

壊して消してその次は、新たな秩序をもたらして、
夢と希望を抱かせる。風はいつでも新しい。



【31. 風潮】

なんとなくでも感じれば、その傾向はあるだろう。
自分だけでは不安でも、皆がそうなら大丈夫。

安全圏に身を置いて、人だけ誹り、嘲笑う、
卑怯で野蛮な振る舞いも、誰もがするからみんなする。

この手の事はすぐ流行る。炊きつける奴、煽る奴、
責任持つ気は無いくせに、無意味な事だけやりたがる。

やられる方も問題だ。被害者づらして大声で、
他人を攻撃してるけど、それじゃ私もこうこうと、

言い出す奴も多くいて、結局新たな騒動が、
起きて混迷深めてる。それも含めて世間では

「風潮」なんて言ってるが、いつもの様に、風自身、
誰とも関わり持たないし、煽るにしても物理的。

チカラまかせに吹き飛ばし、後腐れなく去ってゆく。
善きも悪しきも一緒くた、まとめて始末するだけだ。

人の世界は面倒で、理解し難い事ばかり。
そんな事など放っとこう。今日も元気に風が吹く。


【32. 偉い】

偉そうな人が偉いとは限らないのが世の中だ。
悪い奴ほどよく威張る。愚か者ほどよく喋る。

アピールしなきゃ通じないなんて言う人がいる。
しかし、世の中世知辛くアイデアだけを盗まれて、

手柄を横取りされるだけ。正直者は馬鹿を見る。
夢夢忘れることなかれ。


【33. 帰宅】

一日のつとめを終えた帰り道。
 行き交う人はせわしなく、
 無言でわきを行き過ぎる。

風に吹かれて歩く道。
 日々の営みよどみなく、
 流れて消える、営々と。

夜に抱かれ進む道。
 今日も帰りを待っている、
 妻を思って空を見る。

ようやく着いた終わり道。
 妻の笑顔にまた会えて、
 ほっと一息こぼれ出る。

明日も元気でつとめ上げたい。

うつせみの 世を走りゆく労働者。
 癒しは一つ 君の微笑み。
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長歌+反歌形式です。
三行聯の構成で、各聯最初の行は「~道」
を繰り返しています。反歌の「うつせみの」
は枕詞です。

【34. 冬の残業】

帰らねば。思いながらも未だ尚けりがつかない
案件に、想いは巡り、あと五分。頭の中で
くり返し念じながらの残業がまだまだ続く。

今日もまた日付マタギのパターンか。
半ば諦め半分で、一縷の望み繋ぎつつ、
仕上げに挑む仲間たち。
納期に向けてだた進むのみ。

ぬばたまの夜は更けゆく。風凍る。
 あすこそ目指せ 定時退出
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長歌+反歌形式です。
私は現代短歌や現代長歌に興味はないので
反歌の「ぬばたまの」は枕詞です。

【35. 群れ】

群れたがる人ほど実は
自己チューで人の事など
考えず、表面だけを
装って、普通の人を
演じてる。一緒にいれば
騙されて、陥れられ
泣きを見る。建前上手、
口上手。嘘と誤魔化し
二枚舌。見るもあわれな
実(じつ)の無さ。それでも孤独
よりはマシ、なあんて思う
人もいる。ほんとにそうか
さて置いて、身の安全を
確実に保証するなら
とりあえず安易に群れに
入らない様にするしかなさそうだ。
何はともあれ、安全第一。

むらどりの むれを眺めて佇めば、
 空と心をよぎる冬風。
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長歌+反歌形式です。
二行聯形式ではなく、全行連続で書いています。

【36. 自己防衛】

時として常軌を逸する
事をする輩がいるよ。

自覚して直す気もなく、
得意気に識者気取って
お粗末な持論を吹聴。

行動は実(じつ)伴わず
最後には言い訳三昧。

醜態をさらしまくって
しくじれば責任転嫁。

人はみな、そうしたものだ。こんなんじゃ
人の風上にも置けないね。

そのうちのひとりに何か
言われても何も気にすることはない。
相手にせずに軽くいなそう。

【37. 傍観者】

何を見て何を思うか
はたからは知る由も無い。

自分だけ安全確保。
当事者の射程外から

身を隠し勝手気ままに
罵詈雑言放ちまくって

加害者の醜悪ぶりも
被害者の傷つく様も

自らの茶飲み話に
あつらえて面白おかしく

楽しげにわめきたててる。
万が一風向き変わって

矛先が自分に向いたら
泣き叫び被害者ぶって

大騒ぎ。その癖そうは
考えず、人をいたぶり

傷つけて楽しみつづけ
ひたすらに堕ちゆく。

直(じか)に手を出してはいない。
しかし手を差し伸べもせず

外野から、興味本意で好き勝手、
言うも無茶苦茶聞くも無茶苦茶。

さばえなす騒ぐ野次馬、傍観者。
 無視して歩め。気にしたら負け。
----
長歌+反歌形式です。
反歌の「さばえなす(五月蝿なす)」は枕詞です。


【38. 自由】

自由自由と五月蝿い奴は
人の自由を踏みにじる。

はた迷惑もどこ吹く風と
傍若無人に立ち回る。

規律と責任とれない奴の
自由は偽物、暴言だ。
----
甚句形式の一節を3つ続けています。
都々逸とか名古屋節とも言われています。



【39. 仕事納め】

12月、仕事納めだ、暇人も多忙な人も。
いそいそと冷たい風と連れ立って歩み去る。

透き通る空は凍って吐く息を曇らせ
冬色の街は騒いで行く人を苛む。

年内の責務を、果たし迎えるは明るい新年。
来年に課題を、残し迎えるは覚悟の年明け。

それぞれの思いを載せて
ただ時が過ぎ去ってゆく。あっという間に。

新しい年を迎えるその前に
 仕事納めて荷物減らそう。
----
長歌+反歌形式です。




【40. 村八分】

人の世は時に過酷で生きにくい。
余計な事に気を遣い、やおら心をすり減らす。

万一足並み乱したら仲間はずれにされるとか
要らぬ恐怖にとらわれて不条理、理不尽、身に纏う。

人の性だと割り切って耐え忍ぶ事は出来るけど
それでは済まない事もあり、ほとほと嫌になってくる。

そんなものだと知ってても次から次にやって来る
理不尽、暴虐、因習に、愛想が尽きる、尽き果てる。

柵全てを断ち切って真の自由を得たならば
村八分だって構わない。むしろ足りない位だね。

村八分だと残り二分、嫌な縛りが残ってる。
村十分ならスッキリだ。自由と誇りが守られる。

人の噂も何処吹く風と受けて流して前を向く。
そうして初めて得ることが実現する物だってある。

そう。勘違いは禁物だ。がんじがらめの見せかけの
平和は惨めな隷属だ。いばらの孤高の中にこそ

魂が住む場所がある。運が良ければお互いに
認め合える相手を得て共に歩んでいけるはず。

人のさだめは風の様。どちらに向くかわからない。
偽りだらけの絆などあっと言う間に消え去って

ホントは孤独だった事、思い知る日もあるだろう。
それこそ真の魂の安住を得るチャンスになる。

人は所詮は一人きり。一人で生まれ、一人死ぬ。
先ずは自分の足で立ち、確かな一歩を踏み出そう。


【41. 支え】

風に支えは不必要。立つ必要がないからだ。
人も心を風にしてそよそよしてれば楽なのに

誰もそうせず意地になり自分で自分を傷つける。
無理に支えて強風に煽られ倒され怪我をする。

誰でも傷つくのは嫌だ。思っていても傷ついて
しまった人は無意識のうちに人をも傷つける。

傷つく人に近づくな! 近くにいれば馬鹿を見る。
自分を守りきれないで他人を守れるわけがない。

強くなければ優しさも成り立たないのが人生だ。
何が一番大切か見えていないに違いない。


【42. 寒い朝】

肌寒い朝の息吹を感じつつ歩き始める。
カサカサと落ちた枯れ葉に追い抜かれ空を見上げる。

夜明け前、薄ぼんやりと見えている街の道筋。
喧騒の始まる予兆。蠢いている人の群れ。

上辺だけ飾るだけしか能のない虚ろな人々。
一人では何も出来ない限りなく無恥な人々。

何となく周りに合わせて十分に自分は上手く
やってると思っているのは自分だけ。とんだ道化だ。

見栄えだけ整えてるのが滑稽で憐れでもある。
それもまた人の性だと言う者のしたり顔こそ

小賢しい。自己の堕落を正当化、人も貶(おとし)め
健全な道の歩みを妨げる。自覚も無しに。

唐突に声が上がって人々の動きが止まる。
木枯らしが気まぐれ心でからかっていた。

木枯らしと共に行く朝 日の出前
 重い足取り ただ前を向く

----
長歌+反歌形式です。