東南アジアのスタートアップトレンドをまとめ!インドネシアとシンガポールの旅(前編)
先週は1週間かけて、東南アジアのスタートアップピッチイベント:RISING EXPO(インドネシア)とECHELON(シンガポール)に行ってきたので、今の東南アジアの事業トレンドを紹介したい。
RISING EXPO:CyberAgent Ventures主催の、国内外の有力ベンチャーキャピタル・大手事業会社等、ベンチャー業界を支えるキーマンが一堂に会する、アジア最大級の資金調達・事業提携イベント。
ECHELON:アジアのテクノロジー業界に特化したメディア「e27」が毎年シンガポールで開催するスタートアップイベント。
新興国ならではの事業機会があるのだろうと思って行っていたが、率直な感想としては、もはや東南アジアの方が日本よりも進んでいる事業が生まれている印象を得た。
昔の米国→日本・韓国→東南アジアのタイプスリップの考え方は主流ではあるにしても、それだけに固執するのは少し古いかもしれない。
あらためて、事業を考える上で重要だなと感じるのが、
ユーザーの行動(ニーズ) × 変化の方向性 (トレンド)
例えば、ユーザーの「飲食店を探す」という行動に対しては、ユーザーのより信頼性の高い情報を求めるというところで定量評価よりもソーシャルな評価(友人や知人の口コミ)がより求められている。
変化の方向性:定量評価→ソーシャル評価→信頼あるAIやBOTからのリコメンド
飲食店の店長の「客を集客する」という行為に対しては、人数関係なく月額数万という定額課金から、より集客ROIが最適化された形態: X人集客ができたので数万円という成果報酬型の方がニーズとしては強い。
変化の方向性:定額課金型→成果報酬型
このような流れは人間の本質的なニーズに従っているので、どの国においても大きく変わらないはずである。(各国の文化的な背景からソリューション形態が少し変わることはありえる。)
RISING EXPO
RISING EXPOの個社ごとの紹介はこちらのThe Bridgeの記事で網羅されているので、ここではグループごとに見たトレンドについてまとてめていく。
■教育→人材のトレンド
(1) グループAの企業
1.Kalibrr:ソーシャル × ジョブマッチングプラットフォーム
2.GetLinks:テックカンパニー特化の採用マーケットプレイス
3.KYNA:全ジャンル対象のオンライン学習サービス
4.Oneteam: 社内コミュニケーションツール
5.SkillLane:専門スキル特化のオンライン学習サービス
(2) 当分野の事業の背景
・全体的に離職率が高く、企業としては即戦力となる人材を求める傾向にある。この傾向が強いため、スキルの強化=給与upのロジックが成り立ち、日本人が同じ事をするよりも高いモチベーションでスキル強化に取り組む。加えて、インドネシアは日本の2倍の人口、ベトナムもほぼ日本と同等であり、かつ平均年齢は両国20代と若い層が圧倒的に多い。結果的に、スキル強化系のe-learningは伸びている。
・逆に企業からすると、スキルを持つ人材を求めているため、スキルを持っている人材を可視化したいというニーズがある。日本だと、それがTOEICや簿記、FP等の資格だったりするのだが、発展途上国ではそこまで確立された指標がなく、また企業としてもセールススキルやカスタマーサービススキル等のソフトスキルの指標も見たいというニーズが同様に強い。結果的に、教育という入り口からスキルを可視化し、それを人材領域で活かすという流れが出てきている。
■空いている分野のバーティカルコマースの台頭
(1)グループBの企業
6. JupViec:家事代行 × IT
7. Seekmi:サービスECマーケットプレイス
8. YesBoss:SMS型コンシェルジュサービス
(2)当分野の事業の背景
・リアル店舗が少ない→ネットを使ったコマースサービスが日本以上のスピードで増えている。
・プロダクトコマースのプレイヤーの出現→空いている分野のコマースとしてサービスコマースが新たに出現。
・PCの普及以前にスマホが普及した現実により、通信料の少ないシンプルなチャット形式等のスマホ最適化へのニーズが強い。
■新分野におけるスタートアップの出現
(1)グループC: 各分野特徴あり。
このグループは、グループとして一つのトレンドが明確にあるというよりは、個社毎にそれぞれ東南アジアのトレンドを示していた。
9. FemaleDaily:コスメ・美容のCGMレビューサービス
10. Taralite:個人特化のP2Pレンディングサービス
11. NIDA rooms:NIDAブランドのホテルチェーンサービス
(2)各分野の事業の背景
・Female Daily は@コスメのインドネシア版という印象。グループBでもお馴染みのECに加えて、ECのメディア活用という文脈の中で、レビューサイト / メディア事業の出現も最近の東南アジアのトレンドの一つと言える。
・Taraliteは、インドネシアのP2Pレンディング・プラットフォームサービスである。インドネシアでは、国民のうち40%しかそもそも銀行口座を持っていないため、銀行ローンを受けられない。さらに、労働者の80%以上が非正規雇用である現実も加えると、富裕層を除いては国民個人の信用度を図るものは無い。一方で、結婚式や自動車購入、出産、住宅等に関してお金を借りたいニーズは当然存在する。Taraliteは、借り手側の銀行口座の有無にかかわらず、P2Pのレンディングプラットフォームサービスを提供する。特に、注目したいのは、Taraliteは企業と連携して、借り手の毎月の給与データをリアルタイムで取り込んでいることである。(結果、ビッグデータの形成と分析により、適度な金額の融資が可能となる。)
今この提携企業にはUberやP&G等があるが、借り手の立場に立つと、
・Uberのおかげでレンディングサービスを受けられている=Uberのスティッキネスの向上
・P&Gのおかげでレンディングサービスを受けられている=ロイヤリティー向上&転職率の低下
ということで、東南アジアの転職率の激しい背景から考えると、提携企業としてもアライアンスのメリットは大きい。
そして、企業と提携することで、信用情報がよりリアルタイムに更新されることを考えると、先進国の金融ローンよりも先に進んでいるとも捉えられる。
ことフィンテック分野に関して言うと、以前freeeの佐々木さんのブログが事業を作り出す上でとても参考になった。
・NIDA Roomsは、まさに「ホテル×質の標準化」を行っているサービスで、インドで話題のOyoの東南アジア版である。途上国の中にも、確かにクオリティの高いホテルは存在する。しかし、同時に安いホテルだと、部屋が汚かったり、WIFIがなかったり、シャワーが水しか出なかったり、と。ここの質を宿泊者の求める分かりやすい基準 (部屋が快適か:WIFIがある、エアコンがGOOD等) で再定義してあげるというソリューションがNIDA Roomsである。日本だとこの分野においては、既存のホテルの質が高いので、どちらかと言うと民泊の物件単位で質の標準化の流れは起こりそう。お湯のシャワーとかはもちろん、WIFIも常備が割と当たり前に感じるので、中の家具や寝具がすごく特殊で快適とかそっちの方向性はありそう。
以上、今回RISING EXPOに関してまとめてみた。
やはりあらためて思うのが、日本で伸びたサービスが東南アジアで2~3年後に来るというような感覚はなく、情報が東南アジアにもどんどん流れ、優秀な起業家もガンガン出現している印象だった。
今回、日本で勝負する起業家としては、米国のサービスだけでなく東南アジアの動きもより見ていくことで新しい事業想起につなげたい。
海外で勝負する起業家としては、早くに現地を見に行くことで、日本との対比の中でどんな事業領域がチャンスがあるのかを掴みたい。
RISING EXPO in JAPANは9月2日開催予定です。事前選考の応募が6月29日の12時までなので、スタートアップの皆さんぜひご応募ください。
次回はECHELONに関してもまとめてみたいと思うm(__)m