置いてけぼりの世界④
自分が人気な物だけを身につけるマネキンだと自覚した途端、着ている服も髪もアクセサリーもメイクも...
全てが恥ずかしくなった。
「とにかく明日の文化祭準備はメニュー決めに専念して」
「私帰る」
拍子抜けした安藤の横を通りすぎ、教室を飛び出る。彼の声が聞こえてくる時にはもう廊下に出ていた。
おかしいな、自信だけは私の味方をしていたはずなのに。お金の為にバイトしてたのもランキングしか見てなかったのも、みんな恥ずかしくて涙がでてきちゃうよ。
ご飯はいらないというのはよくあることだから親に心配されることはなかった。真っ暗にした部屋でベッドに籠る。具合が悪いと言って学校は休んだ。
文化祭実行委員として準備の日に休むのは最低だと自覚していたが、もう私はみんなの期待に応えることができない。
みんなは1番の私に任せるのが1番いいと思っていたから。
衣装棚から服を全部出す。雑誌もポスターも散らかす。
これまで歩んできた道を埋め尽くすように床をゴミで埋め尽くす。
みんなの基準がないと、なにが良いものなのかわからない。
自分自身が好きな服が、好きな色がわからない。
荒れた部屋の外から ピンポーン と呼び鈴がなった。
「朝比奈ー俺ー安藤ー」
無視しよ。今は会いたくない。メイクもしてないし...
しゃがみこんでいるのにずっとピンポンピンポンも呼び鈴は鳴り続ける。苛立ちもこみあげてきた。
「何よ」
玄関に立ち、ドアは開けずに声をかける。この壁の向こうに安藤がいる。
「今日休んだの、俺のせいだろ?ごめんな」
「別にあんたのせいじゃないし...」
「皆心配してたぞ」
「そんなことないもん」
私は1番目立っていたから、目立つ人がいないことに気がついただけ。たぶん誰も私個人のことなど見ていない。スマホと同じ、人間関係もランキングと同じだ。
「まあさ、皆で考えたレシピ持ってきてみたから読んでよ。ポストいれておくから。」
ガコンという音と共に輪ゴムで留められた紙束がはいる。
「じゃ、待ってるから」
コツコツと遠ざかる足音とそれを追うように扉の前まで歩いていく私。みんなで考えたというレシピをめくる。