とりあえず一枚
仕事帰りの地下鉄。
私の前には、部活帰りの女子高生4人が並んで座っており、皆で楽しそうにお喋りをしている。
突然、その中の1人がスマホを掲げ、自撮りを開始した。他の3人も即座にそのスマホに向かってポーズや表情をキメる。
数枚撮ったら、彼女達はまた何事も無かったかのようにお喋りに戻った。
眩しい。
真っすぐすぎて、眩しい。
こんなにも、「今日を生きる私たち」が主役になる写真があるだろうか。
4人ともが身に着けているジャージや鞄には沿線の学校名が書いてあったので、彼女達は恐らく毎日この電車を利用している。ということは、あの写真は、いつもとは違う場所に来てテンションが上がったから撮影されたわけではない。あの場には美味しそうで可愛いスイーツも無かったし、皆が特段オシャレをしていたわけでもない(ジャージだ)。地下鉄だから車窓の景色とかも無い。仮に何か特別な日の記念として撮ったのだとしても、それならもう少しその片鱗を写真に収めようとするのが自然なんじゃないかと思う。
要するに写真を撮る理由が特に何も無いのだ。
私だったら、どんなに仲の良い人であっても、普通の移動中に突然カメラを向けられたら、「何?」とか「なんで今?」とか聞いてしまうと思う。髪型や化粧の具合が気になって、一旦鏡を見る時間をもらってしまうかもしれない。
カメラを向けられるや否や、何の疑いもなく瞬時に最高の笑顔を作ってフレームに収まる。
私が失ってしまった身軽さと純粋さを、思いがけず通勤電車の中で目の当たりにした。
自分と友達が写っている、ただそれだけで特に意味は無い写真。
でも思い出って、案外こういう一枚に宿る気がするんだよな。
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