苺/滝口

昔から身体は大きかった。学年で集まれば頭1つ抜き出るので嫌でも目立った。その体躯に色んなスポーツクラブから声がかかった。しかし彼は不良の道を選んだ。
「なぁ、苺、今日もゲーセン?」
不良仲間が言ってきた。彼の名前は苺。親もなぜ我が子に苺という名前をつけたのだろう。果物の苺にはかわいいというイメージさえあるのに息子の苺はこんなに立派な不良に育ってしまって皮肉なものだ。さらに苺は強かった。誰にも認められる番長だった。トップに立つということでいえばショートケーキの苺そのものだった。
苺は不良生活を謳歌した。喧嘩に明け暮れる毎日だったが敵なしだった。
苺という名前が怖ろしさを軽減させるようだったが、名前を馬鹿にした奴はとくに痛めつけた。
不良界で名を轟かせるには十分なインパクトを持った名前だったようで、噂を聞きつけた腕自慢がわざわざ隣町からやってきた。
「お前が苺か?」
苺は胸が高鳴っていた。
「わざわざこんなところまで来てくださって」
「美味しい苺があるって言うんで狩りに来たんだよ」
そんな手土産のような台詞まで持って現れてくれたのか。
「取って食おうってか・・・」
「ジャムにしてやるつもりだよ」
「出来るかねぇ」
「余裕だよ、お前がビニールハウス育ちって教えてやるよ」
何しに来たんだ、こいつは。こんな事ばかり言いに来たのか?口喧嘩をやりにわざわざ来たわけではあるまい。ここまでコケにされることもない。喧嘩の前に聞いていおいた。
「お前は名前なんていうんだ?」
「俺はミルクって言うんだ」

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