星に願いを/ピストジャム
アライグマのソフィーは夜になると毎晩お気に入りの丘の上で星を眺めていた。
「神様、どうか私を人間にしてください。私、あのキラキラ光るお星様みたいなアイドルになりたいの」
ソフィーはそう星に願って、今夜もふかふかのシロツメクサのベッドで眠るのだった。
春になり、丘の上は一面シロツメクサの花でいっぱいになった。
ソフィーは大好きなシロツメクサでかわいいかわいい冠を作った。
その冠をかぶったまま眠りについた翌朝、目が覚めるとソフィーはかわいらしい人間の女の子になっていた。
神様、ありがとう!
ソフィーは山を駆け下り、街に出た。
人目を引くかわいさを持つソフィーがアイドルになるのにはそう時間はかからなかった。
ソフィーは丘の上でいつもアイドルになりきって歌ったり踊ったりしていたので、歌もダンスも完璧だった。
ソフィーはソロアーティストとしてデビューすることになり、衣装はシロツメクサの花をイメージした白いふわふわしたドレスに四つ葉のクローバーをモチーフにした髪飾りだった。
ソフィーはくりくりした黒目がちな瞳がかわいいと中高生の間で人気が出て雑誌の表紙になったり、ライブをすれば歌やダンスが凄いと話題になって着実にファンを増やしていった。
そんなある日、事件は起きた。
握手会の時にソフィーが毎回握手をする度に手を洗っているところを写真週刊誌に撮られてしまった。
ソフィーの人気は一瞬で地に落ちた。
ファンは怒り、誰もライブに来なくなってしまった。
手を洗っていたのはファンを汚いと思ったからじゃなくてアライグマの本能だから仕方のないことなのに…
ソフィーが表舞台から消えてしばらく経った頃、レプトスピラ症という病気が大流行した。
レプトスピラ症を引き起こすレプトスピラ菌はすべての哺乳動物に感染すると言われていて、感染した動物も保菌動物となってさらに感染を広げるため、人間にもどんどん感染がおよび社会問題になっていた。
そんな時、ネットでソフィーが話題になった。
「あの握手会手洗い事件のアイドルが実は一番清潔なんじゃない!?ww」
「ソフィー先見の明ありすぎて草」
人知れず活動を続けていたソフィーのライブには徐々にファンが戻ってくるようになった。
ソフィーは今一番清潔なアイドルとしてテレビでも取り上げられ、以前よりもさらに人気が出て、ソフィーは時の人となった。
すべてを手に入れたソフィーはある晩、自分がアライグマだった頃いつも星を眺めていたお気に入りの丘の上へ向かった。
そして星に手を合わせて祈った。
「神様、どうか私が菌を流行らせたということがバレませんように」