新しいカバンは選べない
残念ながら私はカバンを扱うセンスを何一つ授からずに生まれてきたらしい。センスがないのはカバンだけなのか?と聞かれたら他にも思い当たるものはたくさんあるのだけど、とりあえず今日はカバンの話だ。
先日家族で私のカバンを買いに出かけた。
パパのカバンを買うだけなのに妻も娘もついてくる。一見とても仲良しな家族に見えるが(別に仲が悪いわけではないが)、妻娘がついてくるのは休日をパパと過ごしたいだとか、パパにカバンをプレゼントしたいだとか、そういうプラスの理由からではない。私にカバンを選ぶセンスがないことをとっくに知られているので、クソダサカバンを持った男の隣を歩く羽目にならないように監視を目的としてついてくるのだ。
元々この休日にカバンを買いに出かける予定ではなかった。
予定では一人でダイエットのためのウォーキングに出かけるはずだった。しかし出かけようとする私を見た妻に「そんなボロボロのカバンを持ってどこへ行くつもりなのか。今すぐそれを捨てなさい」と止められたのだ。
いきなり長年使ってきたカバンを捨てろと言われて「なんで急に…」とショックを受けたが、改めて自分のカバンを見ると、表面の素材がボロボロと剥がれかけ、あちこちからほつれた糸が飛び出し、ジッパーが壊れている。ギリギリカバンの状態を保ってはいるが今にも崩壊しそうだ。
あれいつの間に?
どうやらずいぶん前からこの状態になっていたようで、妻はずっと前に気づき、ずっと気になっていたらしい。なぜこいつはこんなボロボロのカバンを使い続けているのか、そしていつまで使うつもりなのか、と。しかしいくら見守っても捨てる様子がないためその日ついに実力行使に出た。
ということで娘を含む全員の予定を変更してのパパのカバンショッピングである。いや申し訳ない。
そんな経緯もありつつ、妻娘が認めるおしゃれカバンショップに到着。
私にセンスがないことを知っているとはいえ、我が家は自主性を尊重する家風である。時間の無駄ではないかという渋々した雰囲気を出しながらも、まずは持ち主となる私にカバンを選ぶ権利が与えられた。
どれどれ。
私だって会社では若手に仕事を教えたりしているのだ。人が失敗を通して学び、成長していくものであることを知っている。つまり私のカバン選択眼もいつまでもセンスゼロのままではないということ。ダサいダサいと言われた数だけ成長しているのだ。
店内の商品を一つ残らずチェックし、過去に却下されたカバンと選ばれたカバンとの共通点と違いをもとに計算し…答えをはじき出す!
「…これだぁ!!」
妻娘ならこれを選ぶであろうというカバンを手に取り、3人の前に掲げた!
「ダッサァッ!!」
のけぞる妻娘。ダメだったらしい。
そんなわけで当初の予定通り妻娘に選んでもらうことになった。
そして手渡されたのはショルダーバッグ。先ほど私が選んだものと並べてみると一目瞭然。明らかにオシャレ度が高い。なぜこれが自分で選べないのか。さっき私が探していた時はどこに隠れていたのか。
選んでもらったカバンは今まで使っていたものと似ているが、少しサイズが小さいようだ。
家の外は危険がいっぱいである。あれやこれや必要になりそうなものを入れておかないといざという時に困るのにこれでは入れられないではないか。
「必要なものを入れるには少し小さすぎるのではありませんか?」
デザインセンスでは雲の上の3人に下から目線で訊ねる。
すると、そもそもパパは要らない荷物を持ちすぎである、パンパンのカバンは常々ダサいと思っていた、と心を抉る指摘が次から次へと出てきた。私のカバンの扱いがこれほどまでに不満を抱かせていたとは驚きである。
娘たちのカバンを見れば、確かに小さい。ポケットティッシュくらいしか入らなさそうなポシェットを肩にかけている。しかもその小さなポシエットすらもパンパンになっていない。あの小さなスペースに何が入ってるんだ!
急に鼻水が止まらなくなった時とかどうするのか、心配でならない。
そんな私のひねくれた考えも娘たちの説法によりやがて浄化され、カバンに入れなければと考えていたモノはほぼすべて不要だったのだと心から納得させられた。もはやカバンすら不要なのでは?と悟りの境地に達しかけたほどである。
そんなやりとりの後、余計な質問をしたことを後悔しつつ選んでもらったショルダーバッグを購入。新しいおしゃれカバンを手に入れた。
誤解がないように補足しておくと妻娘は自分たちが私の隣を歩く時の事だけを考えて選択権を奪っているのではない。私が同僚やご近所さんにダサいと思われないようにと考えてくれているのだ。ありがたい話なのである。
そうだよね?と聞くと3人とも目をそらしたが…きっとそう。
余談だが私の服装や靴についてもカバンと同様の理由で妻娘の同伴が必須になっている。「カバン」が「服」や「靴」に変わるだけで今回とだいたい同じ展開である。
メディアパルさんの投稿企画「わたしのかばん」というテーマで書きました。企画を読んだ時はもっとほっこりほんわかしたエピソードが書けると思ってたんですがおかしいですね。
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