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Another Story:【シンデレラ】

⚪︎月×日深夜11時55分

あの場には、私もいた。
彼が、あの子と踊った日。
彼が手を取ってくれるのは私だと思っていたのに
私の目の前を、彼はあの子を追って走り去った。


・・・


どうしてなの?

私はずっと頑張ってきた。
あなたの隣に居る為に。
あなたに相応しい女性になる為に。

忘れてしまったの?

王宮の中庭で遊んだこと。
壁に落書きをして、侍女のバーバラに叱られたこと。
教師の目を盗んで逃げ出したこと。
紅茶を飲みながら話したこと。
わたしが泣いていると慰めてくれたこと。
夜、空に浮かぶ星々に名前をつけたこと。


あなたも同じだと思っていた。

いつか歩みを共にすると思ってくれていると。


・・・


あなたの目は美しかった。

どこまでも吸い込まれるような美しい蒼い目。
優しい目が大好きだった。


あの子を見る目は、私に向けられたものよりも何倍も美しかった。

やめて。
そんな目であの子を見ないで。

ワタシ、あなたじゃない人に誘われたんだよ
私、あなたじゃない人に手を取られたんだよ
わたし、あなたじゃない人と踊っているんだよ


あの子が突然走り出す。

あなたはあの子の後を追う。

あなたはワタシの目の前を走る。

“待って”

この声もあなたの耳には届かなかったのでしょう。
私はその場から動けなかった。

舞踏会が終わりまっくらになった大部屋。
戻ってきたあなたの手に握られた、ガラスで作られた靴が、月の光を私に向ける。

何よ。何様のつもりよ。


・・・


あれから数日。
あなたは、あの靴が合う女性を探しているという。
連日様々な女性達が王宮を訪れては、靴を履けずに帰っていく。


夜。
あなたの部屋に忍びこみ、こっそりガラスの靴を履こうとした。

小さい。とても履けない。

でも、履かなければ。


履く。履けばわたしは、もしかしたら、私は、ワタシは、
あなたと。


鋭い痛みが走る。

ガラスが私の足に食い込む。
皮がめくれる。
血が滲む。


それでもワタシは足を押し込むのをやめなかった。

痛い。痛い。痛い。

ガラスの靴に血が溜まる。

“--------⁈何をしている⁈やめなさい!”

ああ、あなた
やめないよ、わたし。

“--------!やめなさい!--------!”

ワタシの名前を呼ぶ彼の声が響く。
やめてたまるものですか。
負けてたまるものですか。
わたしとあなたの時間があの子との一時に負けるなんて許せない。
だって私はあなたを…

“ッ!!”

ほおを打たれて私は我に返った。

じわりじわりと痛みがほおに、足に、染み渡る。

見ると、足首から下はあちこち切れ、血が何箇所からも出ていた。
むりやり押し込もうとしたから、明日にはアザもできるだろう。


涙が溢れて止まらなかった。
この涙は痛みのせいか、悲しみのせいか。

彼は何も言わず、私のそばにいる。
何もできず、ただ涙を流すだけの私。

わたしの血が付いても、その靴は月明かりに美しく透き通る。

ああ、勝てなかったんだ。

涙は止めどない。

止血してくれている彼に言葉をなげかける。

“どうしてなの?
私はずっと頑張ってきた。
あなたの隣に居る為に。
あなたに相応しい女性になる為に。”



“…すまない。
慕ってくれていることには気づいていた。
だが僕は…”


そこから先の記憶はあまりない。
おぼろげな記憶の中、彼の目が私に向くことはなかった。

結局私も、2人で名前をつけたたくさんの星々の一つでしかなかった。
一際大きく輝くあの月のようにはなれなかったのだ。

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