インペリウム:ヴィラニ帝国(第一銀河帝国)

GURPS:INTERSTELLAR WAR(Steve Jackson Games)より抜粋。

*テラン人(Terrans):地球(テラ)現住の人類

 テラ出身の人類が最初に星々へ到達したとき、彼らは発見するものに驚かされるであろうことを予期していた。宇宙は広大で、疑いもなく想像を超えた驚異を秘めているはずだからである。だが、誰も予期しなかった、そして誰も予言できなかったであろうことは、星々にはすでに別の人類が住んでおり、何千年もの歳月をけみした広大な恒星間文明を営んでいる、ということだった。

 紀元前4000年、テラにはまだ文明は存在しなかった。少数の恵まれた地域で定住農業が始まったばかりだった。惑星上の最大の町には、千にも満たない住民が暮らしていた。シュメールの神秘主義的な都市国家、ピラミッドを築いたエジプト王国、そして半ば伝説上の殷王朝は、すべてまだ何百年も後の時代のものだった。

 紀元前4000年、ヴィラニ人として知られる人類はすでにジャンプ・ドライブを開発して、銀河の探検にいそしんでいた。エジプトがピラミッドを築いたとき、ヴィラニ人は恒星間植民地を築いていた。ギリシャ人が盾と鉄製の槍の戦術を洗練していたとき、ヴィラニ人は銀河じゅうに征服戦争をしかけていた。ローマが興亡する間、ヴィラニ人は一万の世界にわたる恒星間帝国を建国していた。その帝国はジル・シルカといった。すなわち「星々の大帝国」、またの名をヴィラニ帝国。そして今も存続している。テラン文明にとって究極の試練をもたらしているのである。

帝国の辺境
 ヴィラニ帝国は不規則な形の宇宙空間を占めている。銀河核方向から銀河辺境方向に約220パーセク、銀河回転方向から銀河回転尾方向に160パーセクである。ヴィラニ人の母星は、実際にはこの容積の中心からかなり離れている。さまざまな歴史的、星図的理由から、ヴィラニ人は他の方向にくらべて銀河辺境方向の渦状腕にかなり深く拡大した。

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 現在テラン人の支配下にある小さな星々のかたまりは、帝国領の銀河辺境方向で最も端の辺境に位置している。テラ自体はヴィラニ人の植民世界の終端からほんの数パーセクしか離れていない。事実、テラン人が宇宙飛行を獲得する何百年も前に、テラに人類がいることをヴィラニ人が発見し損なったのは奇跡としか言いようがない。

 帝国の星図上では、テラは、非公式に「辺境属州」と呼ばれているクシュッギ宙域の中に位置している。この地域はヴィラニ帝国の中でも比較的「若い」区域である。数回のヴィラニ人偵察隊が、この宙域を紀元前1500年ごろに仮探査したが、最初の恒久的なヴィラニ人入植地が建設されたのはその一千年後だった。テラ近隣の帝国世界はすべて、西暦の最初の千年間に入植が行われたものである。

 辺境属州の諸世界は、あまり入植が進んでいない。最も居住環境の良い惑星でも、人類の人口は20億から30億にすぎない。また、ここは帝国の中心部から非常に遠く離れており、最速の郵便船でも属州首都からヴィラニ首星ヴランドまでメッセージを届けるのに二年以上かかってしまう。この結果、数千年にわたって帝国の植民地世界でありながら、この属州には強い「フロンティア」臭が漂っている。地元の帝国行政官たちの感覚は、帝国中央の上官たちとは隔絶している。地元のヴィラニ人住民はしばしば、ヴランドにいる遠方の同胞たちに対して頑固な独立意識を持っており、帝国全体の利益よりも自身の関心を優先させる傾向が強い。

企業封建制
 ヴィラニ人は非常にゆるやかな支配で自分の帝国を統治している。他の選択肢はない。帝国の莫大な規模と散らばり具合のせいで、厳格な中央支配による統治は不可能だからである。そのかわりに、地元の役人は大量の自治権を有して、ほとんどの状況に自力で対処して、時折、上位者に報告を行うだけである。広範な(しかしゆるやかな)階層制度が帝国を覆っており、それはヴランドにいる少数の最高権力者から、物事を解決する何十億という地元行政官にまで至る。

 多くの点で、ヴィラニ人の階層制度は、かつてテラで一般的だった封建政治体制に似ている。上級の役職はしばしば世襲され、政治的影響力は重要な貴族の一門の中で営まれる傾向にある。役人は御恩と奉公の複雑な網の内部で生きている。それは、上位者や部下に対してどのように振る舞わなければならないかを定めているのである。

 テラの封建制度の大部分とちがって、ヴィラニ人貴族は本質的に軍事的でも宗教的でもない。ヴィラニ人貴族は主として戦士でも聖職者でもなくマネージャー、すなわち営利企業や文民官僚機構の指導者たちなのである。

 事実、企業と政府の間の線引きは、ヴィラニ人社会ではほとんど目に見えない。民間行政を提供する組織は、余剰生産を期待される。営利企業は従業員のために、住居や消費製品を生産し、軍事防衛と治安維持を組織し、文民司法を管轄し、その他の「行政」サービスを執り行う。

 この企業と政府組織の混合は、ヴィラニ人社会の最上部で最も明白になる。例えば、テラに最も近いヴィラニ領は、究極的にはシャルーシッド(「直接取引所」と意訳できる)と呼ばれる単一の組織によって支配されている。シャルーシッドは、ヴィラニ人の貴族一門のネットワークによって運営されている巨大組織である。企業として営まれており、その主業務は恒星間の貿易と移動であるが、半ば独立した何千社という下位部局を有しており、それらが製品を製造して、個々のヴィラニ人世界にサービスを提供しているのである。つまり、シャルーシッドの影響圏内では、このメガコーポレーションが帝国政府とイコールである。シャルーシッドそのものが星域またはそれ以上のレベルで帝国を統治しており、大規模な下位部局が何千ものヴィラニ人世界に行政サービスを提供している。

帝国内の競争
 シャルーシッドはヴィラニ帝国の広い地域を支配している。テラン人の観察者たちは、帝国の他地域に支配力をおよぼす同規模の組織が少なくともあと2つあることに気づいている。しかし、ヴィラニ人は自分の帝国を、こうしたシャンガリム(難しい言葉だが、普通は役所を表す「部局」と訳される)の間で分割しているようで、それらのテリトリーが重なり合っている場所は非常に少ない。これは、シャルーシッドは自分の影響圏内ではほとんど、あるいはまったく競合を受けていないということを意味する。

 しかし、シャルーシッドの内部では、相当な競争がある。ヴィラニ人はテラン人よりもコミュニティを重視しているが(「ヴィラニ人として」参照)、個人的な野心が全く無いわけではない。彼らはシャルーシッド体制の内部で、自分が推進するプロジェクトに使える資産や、政策への影響力を求めて、責任ある立場を得ようと争う。最も私心のないヴィラニ人行政官であっても、現在従事している愚かしい職よりも上の部局にいたほうが、良い仕事ができるのだと説得されることがあるのである。

 この種の「隠れた」野心は、実にさまざまな形で表出する。ヴィラニ人の役人は、委員会の会合で政策を話し合うときには、おおっぴらにライバルに立ち向かうことを許される。彼らは、競争相手が過ちを犯したり、自分のミスを隠さなければならないよう、自分のレポート内の情報を隠匿したり歪曲したりすることで、罠にかけるかもしれない。ライバルのプロジェクトに妨害工作をしかけることもあるだろう。テラン人の事務職たちがよく親しんでいる部局内の抗争テクニックは、ヴィラニ人にもよく知られているのである。そしてそれは何千年もの時を経て高度に洗練されている。

 ヴィラニ人の競争のある一側面が、地球連合にとって非常に幸運な結果をもたらしている。というのも、それによってさまざまなヴィラニ人の個人や派閥が、テラン人に協力して帝国に刃向かうことすら可能にしているからである。小さなスケールで言えば、これは個々のヴィラニ人行政官はしばしば、テラン人の冒険者や傭兵を進んで雇うということを意味する。もっと大きなスケールで言えば、特定のヴィラニ人派閥は、テラン人と同盟して独立した道を追求するために、帝国そのものからの脱退を考えているようなのである。脱退に関心がない派閥であっても、時にはテラン人の大義に多大な協力を行うことがある。例えば、シャルーシッド内の諸派閥が、属州総督の攻撃的な政策の切り崩しを行わなかったら、テラはおそらく第三次恒星間戦争(p.27)で降伏を余儀なくされていた。

帝国の社会
 ヴィラニ文明は決して一枚岩ではない。実際、ヴィラニ帝国の創立者たちは、帝国の永続的な特徴として、文化的多様性を進んで受け入れたのである。彼らは、帝国の社会にはある程度の多様性によってもたらされる柔軟性が必要であると認識していた。その結果、どのカーストにも独自の慣習と伝統があり、どのヴィラニ人世界も独自の社会的進化をたどってきた。そして、帝国の従属種族の多くは、表面上はヴィラニ人文化を受け入れながらも、独自文化のかなりの部分を残してきたのである。

ヴィラニ人主流派
 ヴィラニ文明の中核は「上級ヴィラニ人」と「下級ヴィラニ人」のサブカルチャーである。

 上級ヴィラニ文化とは、恒星間エリート、貴族、帝国権力をふるうシャンガリムの上級行政官たちの文化のことである。それは、日常的な恒星間の移動と通信、豪華な生活水準、精緻な芸術様式、さらに精緻な礼儀作法、そして(テラン人にとっては)極端な高慢さ、によって特徴づけられる。

 下級ヴィラニ文化とは、帝国の「中産階級」の文化のことである。その構成員には、ヴィラニ人住民の大半と、ヴィラニ人文明に完全に融和を果たした帝国従属種族が含まれる。下級ヴィラニ文化の構成員は、普通は出身世界で一生を過ごし、恒星間の物事に直接参加することはない。彼らは普通、快適ながら質素に暮らし、シャンガリムやその下位部局のひとつで懸命にはたらくことに人生を費やす。下級ヴィラニ人の芸術様式は、上級ヴィラニ人のそれよりもはるかに単純で素朴である。テラン人はしばしば、下級ヴィラニ人の芸術を退屈でありきたりだと見なす。下級ヴィラニ人は帝国に忠誠を誓っているが、上級ヴィラニ人の指導者たちよりははるかに謙虚である。実際、下級ヴィラニ人の中には、異国の考え方や文化に鋭い関心を寄せる者もいるのである。

反体制派
 帝国の社会階層制度では、下級ヴィラニ人の下の階層は、カガリイ、すなわち「反体制派」によって占められている。反体制派のグループはヴィラニ人社会の中で暮らして働いているが、古びたヴィラニ人の伝統の一部あるいは全部を拒絶している。カガリイの中には、帝国の社会的常態に従うことを進んで拒否しているヴィラニ人もいる。彼らのほとんどはヴィラニ人以外の人類や、祖先が帝国に征服されたが、決して完全に融和はしなかった人類以外の種族である。

 反体制派は、帝国体制内でいろいろな権利を制限されている。極端な場合、反体制派が住む世界は封鎖されることもある。帝国海軍によって強制的に外部との接触を全て禁じられるのである。それ以外の反体制派のコミュニティは、主流派社会から隔離されて暮らすことを余儀なくされる。ゲットーや居留区の中で、帝国の調和を乱すことなく独自の慣習に従うことができるわけである。ヴィラニ人社会の中で働く反体制派は「カースト」体制(p.73)の中での立場を受け入れなければならないが、威信の低い立場に制限される。特に、反体制派は合法的に宇宙船を所有したり運航したりする権利を禁止されており、もし恒星間貿易に参加したいのであれば、シャンガリムとの間の交渉に深刻な不利益をこうむることになる。

 こうしたハンディキャップにもかかわらず、帝国には数多くのカガリイ・グループがいる。ある統計調査によれば、彼らは帝国全人口の10パーセント以上を占めている。辺境星域や主要交易路からはずれた低人口世界では、カガリイは特によく見られる。ヴィラニの中核世界の大半でも、小規模な反体制派のコミュニティを見ることができる。

 ヴィラニ人の「反体制派」が全ておおっぴらにカガリイに分類されるわけではない。ヴィラニ人社会は、構成員におおやけの場では伝統に従って振る舞うよう要求するが、プライベートな考えや態度はそれほど厳しく制限されていない。ヴィラニ人が、カガリイと見なされずに、社会的常態からかなり外れた行動に手を染めていることはありうることである。こうしたヴィラニ人の多くは、非公式なクラブや秘密結社に参加しており、それらはカースト体制からはずれ、帝国文化の主流に刃向かうような独自の伝統を持っているのである。

蛮族
 ヴィラニ語でルクルラニイとは「異国からやってきた者」の意だが、同時に「下位世界」、すなわち混乱と不安定の地域からやってきた者も指している。これは英語で普通「蛮族」と訳されるが、この翻訳はヴィラニ語によって表現される嫌悪感の真の重さを伴っていない。

 ルクルラニイとは、人類非人類を問わず、帝国体制の完全な外側で暮らす知的存在のことである。彼らはヴィラニ人の伝統を拒絶している。実際には、彼らはそうした伝統があることにも気づいていないかもしれない。彼らは存在するだけで、ヴィラニ人社会の秩序、安定、調和をおびやかす。彼らが宇宙船を運航できるようになれば、自分の混沌をヴィラニ文明の中心にまで広げることができるようになるため、その脅威ははるかに大きなものになるのである。

 ある意味で、ヴィラニ帝国はルクルラニイを征服して融和する目的のためだけに存在しているといえる。遠い昔に、ヴィラニ人は一連の併合戦争を戦った。その中で彼らは発見したありとあらゆるルクルラニイを追いかけて征服したのである。争いの数百年の後、ヴィラニ人が手をのばせる全ての星間航行種族が成長する帝国に融和吸収された。その後になってようやく、帝国は(進んで)その成長を止めて、現在まで続く長い安定の時代に入ったのである。

 今日、帝国は再び、ジャンプ・ドライブを獲得あるいは開発したルクルラニイによって挑戦された。テラン人は明白にそうした「蛮族」集団だが、帝国国境の他の区域ではさらに多くの蛮族がいると噂されている。

 ヴィラニ人が、自分たちに挑戦するかもしれない蛮族を制圧する能力(および意志)の大半を失っているのは明らかである。もし、併合戦争時代の大胆で好戦的なヴィラニ人がまだ帝国を握っていたのであれば、テラはずっと昔に征服されていたのは疑いがない。現実には、ヴィラニ人貴族ですら時には、ルクルラニイであるテラン人と進んで取引をすることがあるくらいである。もちろん、そうした交渉でテラン人が同等者と見なされることはめったになく、蛮族が帝国に服従しているという建前を守るために体裁をとりつくろっただけの定式が必ず含まれている。それでも、最終的な結果として、テラン人はしばしばヴィラニ人の役人が自分の目標を推進する手助けをすることで、恩義や譲歩を勝ち得ているのである。

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