LeSS版スクラムガイドとスクラムガイドとの差分を確認してみる
遅ればせながら、LeSS版のスクラムガイドをひととおり読んだ。
7月の原本公開後、9月に日本語版も提供されたので、miroで横に並べて読んで差異を比較してみた。
ちょうど約1年前の2023年9月に Bas Vodde 氏の「認定LeSS実践者研修(CLP)」を受講した時にもこのあたりの差分に関して教えてもらって、「LeSS is not Scrum」ページでおさらいしていたのだが、この機会に自分の言葉で書いてみることで、脳ミソへの定着化を図ってみようと思う。
LeSS版スクラムガイドの本体にも、末尾の「LeSS版の更新概要」に差分がまとめられている。まず、その部分を引用して紹介する。
上の項目と重なったり、逆にあまり気にならない項目には触れなかったりすると思うが、個人的にオリジナルのスクラムガイド2020との差異として重要と思われる要素を列記して、CLP などから得ている知識で補足を試みたい。(もし違和感があったらぜひご指摘をお願いしたい!)
意図した差分
プロダクトオーナーをチームから独立した存在とし、開発者を「チーム」という言葉に変えている
LeSS ではプロダクトオーナーが複数チーム間の共通の存在となるため。
以降各所で「チーム、プロダクトオーナーとステークホルダー」などと分け書きされている。
スクラムマスターの貢献ポイントに「ステークホルダーとチームの壁」だけでなく、「チームとプロダクトオーナーとの壁」も挙げていることも興味深い。
LeSS では「スクラムチーム」と言わず「チーム」と言う。
なお、LeSS ではスクラムマスターも最大3チームまで支援できるものとされているので、スクラムマスターもチームの外側に居ると言える。
プロダクトゴールではなく「プロダクトのビジョン」としている
LeSS では、プロダクトオーナーがやることの抽象度を一段上げて、将来に向けてプロダクトロードマップのあたりを握る役割と定義しているため、より拡張したニュアンスの言葉が使われていると考えられる。
この点について天野さんも同様の解釈をされていて少し安心したw
なお、「LeSS のプロダクトオーナーは 優先順位付けには注力しますが、明確化についてはチームの力を借りて協力しながら行います。」と明記されていて、チームに役割分担(権限委譲)を行う方針が示されている。
じゃないと LeSS のプロダクトオーナーは仕事量が多すぎて破綻することの裏返しとも言え、この分担の実現にはチーム側のマインドセットや成長も求められるため、LeSS の勘所であり難所だと考えられる。
プロダクトバックログリファインメントをイベントに追加している
LeSS では複数チームでの合同リファインメントを実施する必要性もあるため、正式なイベントとすることで、LeSS に所属する全チームで一堂に会する機会を確保している。
完成の定義を独立項目とし、他のコミットメントを削除している
「プロダクトオーナーとチームが定めたものである」と主体者を明示しており、また「複数チームで仕事をする場合、関わる全てのメンバーが完成の定義を一緒に定義をし、守る必要がある」と厳密さを高めている。
完成の定義の作り方に言及されている点は、「複数チーム」で一つのプロダクトを作る LeSS ならではの協働のための押さえどころを丁寧に示してくれている気がする。
プロダクトゴール、スプリントゴールを必須でなくしているのは、スクラムガイド2020でコミットメントを追加して集中するための材料を強化したことが、むしろ型にはめる要素を増やしてしまっていることへのアンチテーゼかもしれない。
アジャイルに開発するという本来の目的に立ち返って、『なにより検査と適応の経験学習サイクルを高速に回すことに集中する。すなわち、コミットメントを決めることが重要ではなく、目の前の状況に合わせて検査と適応に必要十分な透明性を確保すれば良い』ということではないかと考えた。
当初から LeSS.works の「LeSS is not Scrum」に “Sprint Goal is not a part of LeSS but considered to be a useful practice to use with LeSS.” とあったので、むしろ今回、スプリントプランニングの中でスプリントゴールに言及していることに違和感を感じたくらいだが。
スクラムが基づく考え方を「経験主義」だけに絞っている
スクラムガイド2020で並記されている「リーン思考」が外れている。
【9/21更新】既に我らがコウキさんが質問して Bas Vodde から答えてもらったやりとりを教えてくださり、読んで、以下を差し替えた。
先ず、Bas と Craig の知るかぎり、スクラムはリーン思考に基づいて考えられてきたものではないという理解らしい(伝聞形式で恐縮だが自分が把握できているわけではないので)。
LeSS の原理原則(Principles)に「リーン思考」も挙げられていて、LeSS でも求められるものとされているが、スクラムガイド2020で記述されているリーン思考の要約は誤解を招くということでもある。
そこで、LeSS.works の Lean thinking ページ(かなり文章量がある)の前半を翻訳機の力を借りて読んでみたところ、たしかに「先ず、誤解を解きたい」と書かれている。
リーン思考の基礎にある二本柱は「人間尊重」と「継続的改善」であるのに、表面的に捉えた誤解が蔓延しているということらしい。
(これは、日本語訳に参戦すべきタイミングが来たかもしれない)
スプリントをスクラムイベントから外している
もともと他のスクラムイベントと親子関係(包含関係)の位置づけで若干ややこしく感じてたので、分かりやすくした改善点と言えそう。
スプリントプランニングのトピックを why / what / how に言い換えている
why / what / how を対比して話すことは、この界隈では市民権を得ている感があって、コンセンサスを得やすい言葉になっていそうなので、より分かりやすく伝えようとした改善点と言えそう。
レトロスペクティブで向上させる項目に「楽しみ」を追加している
スクラムガイド2020の原文が “to increase quality and effectiveness” だったのを “to increase quality, effectiveness and enjoyment” としており、明らかな追加が見られる。
感想だがチームワークに対して明るく前向きで「いいな」と思える。
【こちらは、より確かな理由を押さえられたら追記・修正したい】
日本語訳の差分
スプリントレビューについてスクラムガイド2020では「ワーキングセッションであり(中略)プレゼンテーションだけに限定しないようにする」と書かれているのを、LeSS版では「ただスライドで説明するような場にはしないでほしい」と表現しているが、英語の原文を見ると“The Sprint Review is a working session and just presentations should be avoided.”とあるので、日本語版の意訳のしかたが異なっているだけと分かった。
なぜここが気になったかというと、ちょっと前に下記のワークショップをやって「ワーキングセッション」の意識を強めてたからですw
所感
日本語訳に感謝
まず、この日本語版を提供してくださった関係者の方々に御礼と尊敬、拍手をお贈りしたい。
英語版ではそこまで読み込むパワーをかけられなかったので、やっとちゃんと読めたというのが正直なところ。日本語版どうしを比較して読んで、気になるところは英語の原文へ、という進め方ができた。
良いおさらい、ふりかえりができた
このちょっとしたワークを試みたことで、 Scrum ⇆ LeSS の再確認ができた。
特に、複数チームをディレクションする LeSS のプロダクトオーナーの役割の抽象度が一段上がる点について再確認できてよかったと思う。あらためて意味を反芻すると、LeSS を取り巻く組織全体で明示的に体制やマインドを整えておく必要性がクリアに浮かび上がってきた・・。
ありがとうございました!