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現之証拠(ゲンノショウコ)

日本三大薬草の一つ、ゲンノショウコが次々と花を咲かせています。

北海道で見られるのは白花ですが、真っ白ではなくほんのり薄紫色がかったような繊細な色合いをしています。

花弁は5枚、雌しべは5つに裂け、雄しべは10本、萼片も5裂と、5という基本数が目立ちます。

花が散ると子房が上に成長し、直立した細長い実となります。
その姿はくちばしに例えられますが、属名Geraniumも鶴の嘴に似ていることから由来していると言われます。

実が大きくなるときその土台に5つの種が成長してきます。

熟してくると緑色だった実は黒くなり、萼片がくへんは赤く染まります。
種が土台から離れてきました。

さらに実が乾燥してくると外側にくるんと弾けて、その勢いで種を飛ばします。

種を飛ばしたあとの姿が神輿みこしの飾りに似ていることから、ミコシグサとも呼ばれます。

はじめの花が実を付け、役目を終えても、次々と脇から芽を伸ばしていくので花の時期はしばらく続きます。

秋まで花を付けますが、開花直前の夏の土用の頃が最も薬効が高いとされるため、その頃に収穫されたものが良いとされています。

夏の土用に成分が高まるというタンニンは、ゲンノショウコの主な薬効成分となります。
タンニンは多くの植物が作る成分ですが、収斂しゅうれん作用という点で共通しています。

ゲンノショウコの収斂作用は、止瀉、整腸、健胃作用として効果をあらわします。
下痢止めとして用いるときは、タンニン類がよく抽出されるように水が半量になるまで煎じます。
短く煎じると緩下剤にも応用でき、また、強壮剤としても用いられてきました。
服用すると効きめがすぐに現れることから現之証拠げんのしょうこという名が付いたと言われています。

夏の土用というのは、夏から秋に向かう季節の変わり目で、特に日本では湿気による胃腸障害があらわれやすくなります。

この時期は東洋思想の五行、木・火・土・金・水のうち土の季節となり、肝・心・脾・肺・腎の臓器のうち、土に対応する脾が盛んになります。

脾とは、消化器系などの諸機能を含み、身体の栄養の土台となる臓器で、季節の変わり目においてのケアが重要になります。

土とは、万物を生み出し、育て養う要素です。
土用は土が盛んになりますが、乱れやすい時期でもあるため、土を動かすこと(例えば土いじりや引っ越しなど)は避けることとされています。

ゲンノショウコの収斂作用は、乱れた土を落ち着かせ、安定させる作用があるように思われます。

ハレの日の神輿とともに飛ばした祈りの種は、どっしりと育まれた日々の豊かさの土台の上に、うつつあかしとして芽吹くでしょう。

秋の風が吹く今日この頃、草の陰では賑やかなお祭りが繰り広げられています。



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