こんなタイミングでアイドルを見つけてしまった話 ⑧長い長い物語の、最初の1枚
この記事は「オタクアドベントカレンダー」の12/2の記事になります。
シリーズの前回↓
計画、破綻
3月19日。
予定通り、房総を出発して上野へと向かった。
オタク第2期の定番となりつつある、予習なしで会場へと向かった。
そういえば、あんずのパフォーマンスってちゃんと見たことないな?
それもそのはず、Z4時代のあんずはチームメイトにキャサリンがいた。
当然、自分の目はあんずを追っていない。
冷静に振り返ると、12月の自主イベも2月のラストライブもカバー曲パートは撮影可だったので動画が残っている。
でも、その見直しもしなかった。当時、見直そうという発想がなかった。まだその程度の扱いだった。偶然予定が噛み合ったから現場に行く。それだけのこと。
どんなパフォーマンスであっても、ありのままのあんずを受け入れよう。
そんなことを考えていたところ、突然面白い会話が発生した。
私の友人でありバンもん時代からの付き合いであるそーすくん(※私が年上に対して数少ないくん付けする仲)が、偶然にも東京、しかも上野近辺に遊びに来ている情報をキャッチした。
こういう好機は逃さない。すぐに現場に来れないか確認を取った。
すると向こうも反応したが、結局色々噛み合わずお流れに。
この良かれと思ってやった行動が、思わぬ波乱を引き起こした。
私が現場に行くことがゼロプロのメンバーに見つかってしまったのだ。
次々と来る通知。地下アイドルのエゴサ力をなめていた。というか、私はA子さんやB子さんの時にこれを死ぬほど経験していたにも関わらず、オタクから遠ざかって感覚が錆びついていたためすっかり忘れてしまっていた。はっきり言って凡ミスである。
とはいえ、今更行かないわけにもいかない。千葉を出る頃には腹をくくって予定通り上野へ向かった。
こんな現場に何があるのか?
もうすぐ桜も近いと意識させるようなぽかぽか陽気の土曜日。
上野恩賜公園のステージは、どことなく勾当台公園を意識させるような客席が半円形に広がるステージだ。
お客さんは、早朝の出番で20人もいたかどうか。
「おはようございます~」
ほりまるさんが来ていた。こんなよく分からない現場でも知っている人が一人いると心強い。
「まさか来てるなんてびっくりですよ」
そりゃそうでしょうね、なお一番騙したいアイドルにはばれてる…
数組見てから、ゼロプロの出番。
声も出せないし、Z3の曲は全く知らない。ただペンライトを振ることしかできず、そもそもこの子たちのメンカラすら分からない。何を見せられてるんだこれは?とも思った。
Z3もスタートして間もなかったこの時期、クオリティを担保できるわけもなく、名前も知らない他の有象無象の出演者と大差ない出来栄えだった。
あの4Aラストライブはいったい何だったんだろうか…幻?
そんな中、あんずが助っ人で出てきた。
制服アー写と同じえんじ色のブレザー。すぐにペンライトをオレンジに変えた。
原石の「ほんのわずかな輝き」
すると、あんずはすぐに自分を見つけて反応した。いや、向こうからすれば分かりすぎていたのかもしれない。
この日、オレンジのペンライトを振っていたのは自分だけだったからだ。
あとはエゴサによる出席バレもあっただろう。
記録を辿るとプレゼントの1曲だけだったようだが、このわずか3分ほどの間に少なくとも5~6回はレスが飛んできた。
爆がいくらついても足りないほどの爆レス。そしてそれは私だけに向けられているわけではなく、ある時は上手の最前に、ある時は下手のはるか上に向けられていた。
少なくともレスの部分については、こんな地位で留まるアイドルではないことは理解できた。
気が付けばレスを向けられただけで私の鉄仮面が崩れた。自然とこちらも笑顔になった。
あ、楽しいなあ。
どこかで忘れていた感情が呼び戻された感覚だった。
アイドルからレスが来るのなんてもはや慣れっこ。特に誰から向けられても今さらデレデレすることなんかないのに、この日の自分には刺さりまくっていた。
この時の自分は言語化できていなかったが、この1回のライブだけでダイヤの原石の輝きが見えていたのだと思う。裏声で歌唱にもなっていない聞くに堪えない歌に目を背けながら。
アイドルとしての「本質」とは
さて、再びWUGの話に戻る。
「誰かを幸せにするということ。それには、三つのタイプがあると思う。世の中の多くの人を幸せにできる人。自分の周りの身近な人を幸せにできる人。それと、自分を幸せにできる人」
これもまたWUG作者である山本寛氏のアイドル観だ。作品中に明確な答えは明示されていない。
私は経験を通じてこう解釈している。
自分の周りの身近な人を幸せにできる人→ありふれて存在する概念。クラスのアイドルとかの表現がこれに当たる。その辺の人に人気のある人のこと。
世の中の多くの人を幸せにできる人→アイドルとしての本質。これができる人が地上に上がっていく。
自分を幸せにできる人→個人ごとのあり方みたいなものだが、アイドルの立場としてはアイドルに対する向き合い方(楽しむべきなのか、仕事と割り切ってするものなのか)に対応するもの。
誰か一人を幸せにするなら恋人やパートナー、仕事としての相棒的な存在でいい。
でも、アイドルはそうではない。生きているだけで一人でも多くの人を幸せにできる存在。それは誰にでもできるものではないし、後天的に身に付くものだけでなく、先天的なもの、その人が持ったバックボーンが必要だと私は考えている。
この日の私は、あんずからそれを感じ取っていた。
レスが来るだけで、こちらも笑顔になってしまうような明るさ。そしてそれは、決して私が唯一オレンジペンラを振っているからではない。ちゃんと他の客にも向けられている。多少私への優遇はあったかもしれないが、それは目の前の自分のファンだけを幸せにするアイドルではなく、たくさんの人を幸せにするアイドルのパフォーマンスだった。
この子は売れる。いや人気が出ないとおかしい。そりゃあ歌は壊滅的だけど!
と同時に、ここまでのアイドル力を配信の一挙手一投足だけである程度見抜けていた自分にも納得がいった。無意識に選んでいたなと。しょうもないアイドルを私は決して選ばない。
初めてのチェキ
特典会は扇形になっている客席の最上段で行われた。
この時のゼロプロは初代Z3CとZ3Aからの助っ人組で20人ほどいたと記憶している。しかしいわゆる上位メンバーは3Aに固まっていて、動員は私を入れてたったの6人だった。
記事執筆ごろ(2024年12月)のゼロプロのファンからすれば考えられないだろうが、当時はこれが当たり前だった。人気のない子にはファンもほとんどいないし、動員となれば全くつかない。
いきなり参戦した私には時間を潰せる場所がないくらいきつかった。20人くらいの知らないアイドルから「私のところ来ないの?」という無言の圧を受け続け、他に見るグループもいないし、話せるオタクもほりまるさんしかいない。そもそも会場内で特典会をやっているから、ライブの音がうるさく、特典会の会話もままならない。全てにおいて地底アイドル。そんな環境だった。
黙っててもしょうがないのであんずのところへ行くことにした。
「こんなに早く会えると思ってなかった!」
「まあ、一応約束したからね、見に来るって」※3/13ビラ配りの時の約束
「どうだった?」
「楽しかったよ、めっちゃレスが来て」
「嬉しい」
見ての通り、普通の会話だ。
3/13のビラ配りであんずの喋り方、雰囲気はほぼ分かっている。今さら何も気負う必要はない。感覚は、気の合うオタク友達の延長くらいのものだった。どちらともなく自然に会話は進む。
「次はゼロプロの曲もDJに入れたいんだけどさ、Z3の曲?全然HPに更新されないんだよね」
実はゼロプロの曲はHPから全てファイルでダウンロード可能で、インディーズなので著作権の取り扱いが難しいが、当時の私の解釈としては取り込んで流してもOKという認識だった。曲は悪くないし、いつかかけることもあるだろう。
「スタッフさんに言っておくね」
首から下の距離が離れている。
どこかまだ他人行儀。
とりあえずどうしていいかわからないからあんずポーズ。
初チェキをテンプレにしたような1枚で、物語は始まった。
この先、何百枚と続く最初の1枚は、チェキ帳に入れることなく、今でも肌身離さず持ち歩いている。初心忘るべからず。あの時いいなと思った気持ちを大切にしよう。それが続く限り、あんずを応援しようと。
「ねえ、せっかく戦乱ツーマン出れるようになったから、ぴろーも来てよ」
「平日だよ…?仕事が…」
「そうだよね…普通に仕事してそうだもんね」
「休日にふらっと時間が合えばこれからも来るかな」
繰り返しになるがこの時の自分はあくまで7月10日の主催DJイベント「デカマクラ」が最優先。アイドルは、片手間に楽しめばいい。だって、もう誰かを狂ったように応援するのはやめたのだから…そもそもこの子はまだ発展途上。温かく見守っていきたいな。好きなことは変わりないのだから。
そしてこの会話は、全てこの後あんずを騙すためのフラグ。これから狂ったように応援するわけではないからこそ、戦乱ツーマンだけはなんとかして行きたい。それがこの子との物語性の構築に必要なことだから。
もう、30日まで一度も行くのやめようかな…イベント準備もあるし。
そう思って、上野を後にして渋谷に向かった。少し高すぎた駐車場代を払っても気分がいいほどに楽しかった。
早くまた、会いたいなあ…
次回↓