第14話 【盗賊に襲われて】
世界最強の兵器はここに!?14
著者:pirafu doria
作画:pirafu doria
第14話
【盗賊に襲われて】
パト達の乗る馬車は盗賊達に囲まれていた。
場所は山のど真ん中にある森林。村からも王国からも離れているため救援は期待できない。
ざっと見渡しただけでも二十人はいるだろうか。統一感のない武器や装備を持った盗賊は、馬車を囲みジワジワと滲み寄ってきていた。
「え、エリスせんぱ〜い」
盗賊に気圧され、馬車を止めたシーヴが涙目でエリスを見る。しかし、エリスはそっぽを向いて知らんぷりをした。
しかし、自分のせいで盗賊に襲われていることに責任感を感じてだろうか。
エリスは馬車から降り、前方にいる盗賊を睨みつける。
「あぁ? なんだぁ? ガキ?」
「そこを退きなさい。私たちはあなた達に構ってあげる気は無いのよ」
「あぁん?」
「え! エリス先輩!!」
エリスの言葉に気分を悪くした盗賊は武器を取り臨戦体制を取る。
「身包み全部剥がされたいらしいな」
しかし、盗賊の背後からそれを止める声が聞こえる。
「待ちな!」
そしてそこから現れたのは黒髪ショートの女盗賊。
歳は二十歳前後のように見えるが、盗賊達に向ける目には尊敬の念が篭っている。
「姉さん、どうしてですか?」
盗賊の一人が疑問の声を上げる。それに女盗賊はパト達を睨みながら答える。
「それは魔力量が明らかに違うからだよ……」
女盗賊は腰に巻いたバックからナイフを取り出すと、それを手にパト達目掛けて走り出した。
そしてパト達を囲む盗賊達に向けて指示を出す。
「作戦Hだ! お前達は配置に行け!」
「はい!!」
指示に従い盗賊達は次々と森の中へと姿を消していく。
そんな中、女盗賊は手に持っていたナイフをパト達の頭上へと投げる。
投げられたナイフは宙を舞い、空で半円を描く。
ナイフの落ちた音が森に響く。風の音が身近に感じる。
「今のは何だ?」
落ちたナイフをオルガは拾う。
さっきまでいた人間が姿を消した。
残されたのはオルガのみ。
「私の魔法を避けたか……」
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頭上を飛ぶナイフを追い、上空を見上げたパトは周りの状況の変化に驚いていた。
「こ、これは?」
「ワカリマセン。シカシ、座標ニ変化ガアリマス」
さっきまでの場所と違う。森の中にはいるはずだが、地形も違うし、馬車も、そしてヤマブキ以外誰も見当たらない。
「場所が移動した? 魔法か?」
魔法に関してはあまり詳しくないパトだが、空間を超えて移動する魔法の話はどこかで聞いたことがある。
状況が全て飲み込めていないが、このままではまずいと考えたパトはみんなと合流する手段を探す。
「魔法で瞬間移動させられたとしてもここはまだバンディ山の中のはず……。どうやって合流するか……」
「けっけっけ〜、合流? そんなことはさせないぜ?」
悩んでいると、森の奥から長剣を持った眼帯の男が、剣を大きく振り回し近づいてきている。
男はパト達を見ると、ちょっと残念そうに呟く。
「ッチ、弱そうなのしかいねぇじゃねーか」
パトは男の顔に見覚えがあることを思い出す。
「熊の爪(オングル・ウルス)の総長、エンザン・コロン……」
「ほぉ? 少年、俺のこと知ってくれてるのか。うれしぃねぇ」
エンザンの顔は手配書で何度か目にしている。
バンディ山の盗賊を従える凄腕の剣士。元フルート王国の団長。
エンザンは笑顔で剣を上下に振り続ける。
「一応言っとくぜ。俺は女だろうが子供だろうが……」
エンザンは剣を振る腕の力を緩めていく。するとだんだん剣の揺れは少なくなり、やがて動かなくなった。
そして次の瞬間、風の音と共に、パトの顔を目の前で刃が止まる。
「ほぉ〜、俺の剣を止めるか。姉ちゃん」
パトは恐る恐る隣を見ると、ほんの数センチの隙間を開けた刃を素手で受け止めるヤマブキがいた。
「や、ヤマブキさん!?」
パトの心配そうな顔を見て、ヤマブキは無表情で返す。
「問題アリマセン」
しかし、問題はないと言われても、心配にならないはずがない。
不安な表情のパトを横に、ヤマブキは剣を握る指に力を入れる。
すると、エンザンが剣を引っ込めようとしてもピクリともしなくなる。
「コレヨリ戦闘ヲ開始シマス」
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オルガは馬車の前で女盗賊と対峙していた。
女盗賊がナイフを投げた際、展開した魔法陣。俺がだけがそれに気づき、身を躱していた。
「ほう、私の転送魔法を避けたか。やはり只者ではないな」
オルガは現在、フードに仮面を被り、白骨化した姿は見せていない。そのため見た目は普通の人間なのだが、この女は気づいたということなのだろうか。
オルガが何も答えずにいると、女盗賊は続ける。
「魔力を見れば分かる。貴様は強い。そしておそらく貴様が噂の人物なのだろう……」
何を言っているかは分からないが、オルガの本当の姿はサージュ村の中でも僅か人しか知らなかった。だとすると、この女が言っているのは別人なのだろうか。
「天才魔法使い。貴様とは一度正々堂々と戦ってみたかった。だが、これも運命……。貴様との出会いに感謝し、名を教えよう」
オルガはなんとなく、女盗賊の態度や言葉に違和感と、苛立ちを覚え始める。
「私の名はミリア・アドラス・ニーオンだ。貴様の名は何だ?」
「オルガ・ティダードだ」
そしてミリアの名前とその態度や言葉にオルガはどこか懐かしみを感じる。
しかし、そこには靄がかかったように、何も思い出すことはできない。
ミリアは腰に下げたナイフを取り出すと、身を低くして構えた。
「オルガ、いざ尋常に勝負だ!!」
ミリアはナイフを手に真っ向から突っ込んでくる。そのスピードは早く、魔法を使っていないのにも関わらず、気が付けばすでに懐に潜り込まれていた。
しかし、スピードに自信があるのは彼女だけではない。オルガも同様であった。
オルガは素早く後退すると、コートの中に隠してあった大鎌を取り出し、ミリアの攻撃を防ぐ。
だが、ミリアの攻撃を受け止めたと同時に、ナイフを残し、ミリアの姿が消える。
そして突如、上空から大木が落ちてきた。
オルガは大鎌を持ち直すと、落ちてくる大木を真っ二つにする。大木は綺麗に割れ、地面へと激突した。
「さすがだな」
その様子を少し離れたところでミリアは拍手して見ていた。
そしてその光景を見たオルガは確信する。
移動系の魔法。それも魔法計算無し……。固有魔法か。
固有魔法は魔法計算を行わずに魔法を使用することをできる。しかし、固有魔法を使える人間は限られているし、その人間は……。
「なかなかやるみたいだな。だな、これならどうだ?」
自信満々にミリアは指を鳴らす。
すると、オルガのいるところに突然巨大な日陰ができる。そして上を見上げると……。
「岩っ!?」
巨大な岩がオルガの上空に出現し、落下してきていた。
このままでは押しつぶされてしまう。しかし、大木と違い、この巨大な岩はオルガの持つ大鎌でも切断することは不可能。
「避けるしかないか」
オルガは岩を避けるため、地面を蹴り、後ろへと後退する。
しかし、オルガが後退したと同時にミリアは再び姿を消した。
だが、オルガにはミリアの現れた場所が分かっていた。
後ろか……。
それはオルガの使っている魔法。感覚強化によるもの。
いつからか、洞窟で生活するうちに体の感覚が無くなったオルガは、自身に感覚を強化する魔法を付与し、強制的に周囲の環境を把握していた。
風や匂い、あらゆる感覚を通じ、白骨化した体でも人間のように生活できるようにしていた。
そしてそれは戦闘面でも反映される。
強化された感覚は敵の鼓動や移動時に発生した風を感知し、通常よりも速いスピードで的の動きを把握することができるのだ。
だが、そこにもデメリットは存在した。
それはダメージ。普通であれば、感覚器官のないモンスターになったのならダメージは感じないはずなのだが、感覚を強化しているオルガにはその痛みが何十倍にも感じる。
そのため小さな擦り傷であっても、オルガにとっては生死に関わるダメージへとなりかねないのだ。
岩とミリアに挟まれたオルガには逃げ場はない。そして背後に現れたミリアを大鎌での防御は間に合わない。
ミリアは勝利を確信し、ナイフを振り下ろす。しかし、ナイフは空中で弾かれ、オルガに届くことはなかった。
「なっ!?」
大鎌での防御の間に合わないオルガであったが、もう一つオルガにはミリアの攻撃を防ぐ方法があった。
それは……。
「結界……」
オルガはミリアのナイフを防ぐため、一時的に小さな結界を張り、ナイフを弾いたのだ。
しかし、その結界は一時的の回避のために作ったもの、長く持つものではない。このまま結界も何度の攻撃を受け続ければすぐに壊れてしまう。
だが、結界を見たミリアは警戒し、距離を取った。
それによりオルガは表情には出さないようにしたがホッとする。
距離を取ったミリアは警戒を解かないまま、オルガを睨む。
「それは結界魔法か……。それに今、魔法計算を行わずに…………。いや、そんなはずはない。それが出来るのはあの人しか」
ミリアは一人ぶつぶつと考え出すが、頭を左右に振り、切り替える。
「いや、相手はある噂の天才魔法使い。ならば、魔法計算を飛ばしたとしてもおかしくはないはず」
一人で勝手に解決したミリアだが、ミリアの言う天才魔法使いについてオルガには心当たりはない。
「ふっ、面白いぞ。オルガ。だが、私に奥の手がある……」
そう言い、ミリアはオルガに向かって手の平を向ける。
それを見たオルガはその奥の手を一瞬で理解した。
転送魔法による物体の移動。それは魔法計算を行なった場合、魔法計算に加え、転送前の座標と転送後の座標に魔法陣を設置する必要がある。
魔法陣の設置はあらかじめ設置しておくことも可能だが、目視できる距離であれば、その術者の実力次第でどこにでも展開することができる。
そしてミリアの固有魔法は魔法計算抜きで転送魔法を行うことができる。パト達を転送した際は、彼らに魔法陣を貼り付け、あらかじめ魔法陣を展開してあった場所に送ったのだろう。
あの時はオルガは魔法陣を展開しようとするミリアの動きにギリギリで気づき避けることができた。
だが、今は違う。ミリアは確実にオルガに魔法陣を展開できる体制を確立している。いや、一対一の状態で逃げたとしても、逃げ切ることは不可能だろう。
ミリアは強い。そう、オルガは感じていた。
そして結界を張ろうとも、転送魔法は防ぐことはできない。
結界はあらゆる害的な存在を弾くことができるが、空間を越える転送魔法はその結界を避けて通り抜けることができるのだ。
おそらくミリアもそのことを知ってる。だからこそ、結界に気がついた直後、距離を取り、攻撃手段を変えたのだ。
固有魔法で転送魔法を使うことができ、ここまで戦闘に活かすことができるのならば、最初からこの手段をとっていれば良いようにも感じる。
だが、それをしないのはミリアにそれを嫌う理由があるということだろうか。
手のひらを向けたミリアはオルガに尊敬の目を向ける。
「……すまないな。本来ならこのような手段は取りたくなかった。だが…………私にはやらなければならないことがある」
ミリアの手に魔力が集中する。
汗も流れない体になったオルガであるが、死に直面し、体が硬直し、寒気を感じる。
おそらくミリアは俺の体の中に何かを転送してくる。何が送られてくるかは分からないが、骨に少しでも傷が入れば、その時点で俺はショック死してしまうだろう。
心残りは多くある……だが、なんだろう。こいつにやられることに抵抗を感じない……。
避けることも反撃をすることもできないオルガは諦めたように棒立ちになり、ミリアの攻撃を待つ。
そしてミリアの天のひらとオルガの体内に、魔法陣が現れる。
「さぁ、貴様の心臓を貰う!!」
し、心臓だと!?
「心臓掬い(デロペ・ルキゥール)!!」
ミリアの手が光り、魔法が発動する。
しかし、何も起こらなかった。
続く
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