それを恋と呼ぶなら私は今も彼に恋をしている
「彼に彼女ができたらしい」
そう聞いたとき、私は動揺した。なんとなく、ほんとに勝手に、彼は彼女を作る気はないんじゃないか、と漠然と思っていた。でもそんなことはなかった。彼は彼女を作った。私ではない誰かの彼氏になってしまった。
彼は部活の後輩で、特別目立つような人ではないけど、穏やかで芯の強さを感じさせる雰囲気をもっていた。口数は多くないのに、たまに出てくる言葉が面白くて、もっと話したい・知りたいといつも思っていた。
部活仲間として、話をしたり、メールをすることはよくあった。しかし当時の私はかなりシャイで、恋愛要素を人間関係に持ち込むことが極端に苦手だったため、彼に必要以上に好意伝えることはなかった。
それでも、なんとか彼に近づきたくて、一生懸命話しかけて、私にとってあなたは大事な存在ですよ、というメッセージを表現した。
そして、それは彼に伝わっていたと思う。彼は私のことを先輩として大事にしてくれていたと思う。
でも、私が本当に求めていることはそうじゃなかったのに。絶対にそうじゃなかったのに。
噂で聞いていた、彼女と彼が一緒に歩いているところを見た。
高校3年生の文化祭の日。
手を、繋いでいたと思う。羨ましかった。
数か月後、私が高校を卒業するとき、後輩達から寄せ書きをもらった。
彼からのメッセージは「ちょっと好きでした(笑)」と書かれていた。
それいつだよ。ちょっとってなんだよ。好きってなんだよ!って思った。
私もちょっと好きだったよ。
☆
あれから10年後、彼と食事へ行った。
彼はあの時と変わらず、穏やかで優しく、そして口数が少なかった。
当時の彼女とは結構すぐ別れていたらしい。そして今は彼女がいない、と。
当然のように、その日も恋愛要素は持ち込まれなかった。
帰宅後、「やっぱり私にとってあなたは憧れの存在だよ」とLINEをした。
返事はなかった。