小さな傷
暗い過去が欲しい。
人の傷をどこか羨ましく思ってしまう自分がいる。
その傷っていうのは浅いものじゃいけない。人生が抉れたような、深いものじゃないといけない。なんでかって、そうじゃないと特別じゃないからだ。
志望校に落ちたとか、好きな子にふられたとか、ちん毛が膝のしたまであるとか、そういうのじゃだめだ。ひとつを除いて普通すぎるから。
「みんなと一緒じゃイヤ」
そんな感覚。例えば、好きなアーティストが爆発的に売れた途端、どこか冷めてしまうようなアレ。
探せばいるだろうけど、周りにはいない。この武器をもった心地といったら、まるで甘い草だ。
深い傷(跡)をもった人を揶揄してるわけじゃない。それはまさしく辛い過去であり、純粋だ。
ただ、おめでたかろうがなんだろうが、それが羨ましい奴がいるのだ。その血を流さずに、傷跡だけ欲しいと願ってしまう奴が。
僕は高校の卒業を控えた頃、肺癌にかかった。
リンパへの転移の可能性。抗がん剤のダメージ。もし僕が死んだらこの家族はどうなるんだという不安。
たしかに、その瞬間は怖かった。・・・いや、怖くなかった。
100%そうだったとは言わないけど、当時の気持ちを正直に言えば、「やっと主役になれた」と思っていた。
だから、怖かったけど嬉しかった。
本物の「特別」を手にいれたようだった。学生のカースト最底辺を争っていた日陰者に、人生のスポットライトがあたるのを感じた。
肺癌なんて大きな不幸が、僕にとってはどこか救済だった。
このあいだ、note同級生のサカエコウさんはこんなツイートをしていた。
ツイッターって不登校経験者多くない…?わたし本当に何もなく生きてきて、人の心の痛みが思ってるよりわからない人間なんじゃないかとたまに不安になる…もちろん楽しいばかりじゃなかったし、辛い思いもしたけど、休むほど深刻ではなかったから。無意識に誰かを傷つけてやしないか心配になる。。
僕は不登校にもなったし肺癌にもなったけど、それを箔が付いたと考えるようなうんこマンだ。
一方で、彼女は暗い過去がないことを心配している。そのせいで周りを無意識に傷つけてるんじゃなんて、優しい心配を。
コウさん、その気持ちがあれば十分だよ。
転んだ人を見て「大丈夫かな」と思うのと同じように、目に見える辛いものに僕達は気づける。
でも、目に見えないものには気づけない。
暗い過去がないと心配する、それだって小さな傷。それに気づかれずに「コウって普通だよね」と言われることだってあるかもしれない。
小さな傷は目立たないから。言われないと分からないのは、みんな同じ。
それでもやっぱり傷だから、触られると痛いのもみんな同じ。
だからこそ、そこに寄り添う気持ちが尊い。
大丈夫。あなたは優しい。