脚本「本性、見えてますよ」

昔に公募に出したものです。ここに供養。

登場人物
徳川 年絵(38) (18)コンビニ『フリーフロッグ』の店長
長谷部 恋(16) 高校二年生
神様   (361)神様 本物
徳川 千佳(16) (9)高校二年生 年絵の娘
徳川 優香(34) 年絵の妻

友里   (16) 千佳のクラスメート
初丘さん (30) 『フリーフロッグ』の深夜バイト
めぐみさん(20) 長谷部が気になっている相手
鈴香さん (36) 『フリーフロッグ』の早番

お客さん (80)(28) 
トオル  (16) 不良
はやて  (17) 不良
りょう  (20) 不良
先生   (40) 2-1の先生

○コンビニ『フリーフロッグ』・レジ(夜)
   長谷部 恋(16)と一緒にレジ打ち
   をする徳川 年絵(38)。
   店内には二人以外誰もいない。
徳川 「恋くん、もうそろそろ上がりだよね」
長谷部「はい」
徳川 「お疲れ様ね。そういえば恋くん、最
    近の僕はさ、なんか運が悪いと思わ
    ないかい?」
長谷部「そうですか? すみません。あまり
    そうは見えませんでした」
徳川 「そうかぁー、いや、なんかさ、突然
   雨が降ったり、自動販売機でコーヒー
   を買えば、お釣りが出なかったり。連
   続三回だよ。悪霊でもついてるのかな
   ぁ」
長谷部「お参り、した方が良いと思います」
   初丘さん(30)がやって来る。
初丘 「おはようございます」
   そのままバックルームに入って行く。
徳川 「お、初丘さんも来たし、俺も残りの
    作業終わらせて帰るかぁ」
長谷部「お、お先に失礼します。お疲れ様で
    す」
徳川 「お疲れ様。お参り、してみるね」

○同・バックルーム(夜)
   徳川、パソコンの前に座り、発注を確
   認する。バックルームを覗きに来る初
   丘さん。
初丘 「徳川さん、まだ居たんですね」
徳川 「うん、でももう帰るよ」
初丘 「お体、気をつけてください。なんか、
    最近の徳川さん、悪い気が見えます
    から。勘ですけど」
徳川 「やっぱりそうかなぁ。いや、実はさ
    僕も、悪霊が憑いてるんじゃないか
    って思ってて。恋くんにもこの話し
    たんだよ。お参りはどうですか?だ
    って。確かにそう言うのって、大事
    だよね」
初丘 「お参りですか。でも、少し遠出しな
    いと。ここら辺にそう言うところは
    ないですから」
徳川 「っで、先延ばしになって結局行かな
    いと。良くないよね、せっかく恋く
    んが助言してくれたのに」
初丘 「長谷部さん、最近少し変わって来ま
    したね。少し前なら自分の意見なん
    て一切言わなかったのに」
徳川 「人は成長するねぇ。俺も見習わなく
    ちゃな」

○帰り道・車の中(夜)
   徳川、人通りのない田舎道を車で走っ
   ていると、神社を見つける。慌てて車
   を止める。
徳川 「あれ、こんな所にあったっけ?」
   徳川、訝しく感じながらも、車を降り
   る準備をする。
○神社・境内(夜)
   賽銭箱と、鈴がある殺風景な神社。徳
   川、賽銭箱の前で一例をする。
徳川 「5円でいいよね」
   5円玉を至近距離で投げ込むが、たま
   たま通った猫に弾かれる。
   落胆するが、鐘を見上げる。
徳川 「今日は、星が綺麗だなぁ」
   鈴を鳴らし終わり帰ろうとするが。
   徳川に局地的な雨が降る。
徳川 「え、こんなに晴れてるのに?」
   あたふたしていると、雷に打たれ、気
   絶する。
× × ×

○同・同(夜)
   血だらけで立ち上がる。徳川
神  「ブラボー、良く立ち上がった!」
   徳川、振り向くとそこには、金髪ロン
   毛の神(361)、浮かぶ雲のうえに
   立っている。
   神、ゆっくりと徳川に近づく。困惑す
   る徳川。
神  「君は選ばれたんだよ」
徳川 「え? 選ばれた? 何に?」
神  「神である私にだよ」
徳川 「神? なぜ私が?」
神  「君は運が悪いからだ。特に最近は
    な。」
徳川 「やっぱり」
神  「それはもう仕方がないことなのだ。
    っで、話はここからだ。誰が見ても
    運のない君は健気に、誠実に、素直
    に生きていた。少なくとも、私には
    そう見えたぞ。だから君を選んだん
    だ」
徳川 「(神と信じていないが話を合わせる
    感じで)はぁ、選ばれるとどうなる
    んです?」
神  「特別な力」
徳川 「へ?」
神  「さっき、祈っていたな。その願いが
    叶う力が君のものになる。だがな、
    どんな力なのか、いつ使えるのか、
    わしも知らん。此の世の事象は見え
    るが、人の心は分からんからな。で
    も君のことだ。期待しているぞ」
徳川 「……」
   意識が遠のく徳川。そのまま倒れこむ。
× × ×

○道路脇の公園・車の近く(夜)
   徳川、目を覚まし周りを見渡す。神社
   があったはずのその場所はただの公園
   だった。
徳川 「夢?」
   立ち上がり、必殺技のポーズ。何も起
   きない。
徳川 「お参りより先に病院だなぁ」

○徳川家・寝室(夜)
   薄暗い寝室。布団には寝ている徳川 
   優香(34)。徳川、いつも通り隣で
   寝ようとするが、その前に、妻に向か
   って、必殺技のポーズをする。何も起
   こらない。
優香 「何してんの?」
徳川 「なんでもないよ。おやすみ」
   布団に入る徳川。

○徳川家・リビング(朝)
   優香と徳川、机を囲み朝食を食べてい
   る。制服姿の徳川 千佳(16)が立
   ったまま机に置かれた水を飲み、その
   まま玄関の方に向かう。
千佳 「(だらしなく)行ってきます」
徳川 「朝ごはんくらい食べたらどうだ」
   千佳、そのまま学校に向かう。
徳川 「小さい頃は可愛かったのに……」
優香 「反抗期でしょ」
徳川 「千佳に比べて、バイトで来てる長谷
    部くんは良い子だなぁ。千佳も同じ
    クラスのはずなんだけどなぁ」
優香 「それは関係ないでしょ。あとね、反
    抗期はあった方がいいってよく言う
    わよ。ほら、早くご飯食べちゃいな
    さい」
   徳川、ご飯を掻き込む。

○コンビニ『フリーフロッグ』・レジ(朝)
   発注をする徳川。鈴香さん(36)
   バックルームから急ぎ足で出てくる。
鈴香 「徳川さん! 今日、はつ子さんの家
    にパック牛乳とシュークリーム40
    個、配達ですよね。あと20分しか
    ないですし、商品もないんですが!」
徳川 「やばい、発注忘れた」
鈴香 「(ヒステリックになりながら)どう
    します?」

徳川 「しょうがない、近くのスーパーに買
    いに行こう」
鈴香 「私、行ってきます。徳川さんは発注、
    終わらせておいてください」
徳川 「わかった。気をつけて行ってきて」
   鈴香さん、制服を脱ぎスーパーに向か
   う。
徳川 「急ぐぞ」
   徳川、発注機械とにらめっこ。
   お客さん(80)来店する。
徳川 「いらっしゃいませー」
   腰のかなり曲がったお客さん、軽く
   会釈すると商品を選びはじめる。
   徳川、レジに行き発注を続ける。
徳川 「(独り言)急げ急げ、間に合わない
    ぞ」
お客さん「(品のいい丁寧な感じで)すみま
     せん。お茶、いただけます?」
   徳川、発注機械からあを上げ、満面の
   笑み(作り笑い)
   お客さん、手にお茶を持っている。
徳川 「いらっしゃいませ。こちらの商品で
    すね。ピッ(商品をスキャンする)
    105円になります」
お客さん「ありがとうね。105円、105
     円、105円……」
   財布がなかなか見つからないお客さん。
お客さん「あらっ、財布どこかしらねぇ。う
     ふふ」
   徳川、笑顔が引きつる。
お客さん「あー、あったあった。えっと……
     いくらでしたっけ?」
徳川  「105円ですよ」
お客さん「そうだったそうだった。えーっと、
     105円、105円、105円…
     …」
   お客さん、財布の中を探し回るが、1
   00円が見当たらない。
   徳川、時計を見る。
徳川  「(小声で)ヤバイヤバイ、急げよ」
お客さん「ん? なになに、どうしたの?」
   財布をしまって徳川の話を聞こうとす
   るお客さん。徳川、引きつった笑顔で
   接客」
徳川  「なんでもありませんよ。こちら、
     105円です」
お客さん「あー105円ね、105円105
     円105円……」
   お客さん、財布を5つ取り出す。一つ
   一つ開けて中身を確認する。
お客さん「ここにはないねぇ。これでもない。
     あっここは一円が三枚あるよ。じ
     ゃあまず3円と……」
   徳川、時計を見ている、かなりの時間
   が経過し、もう時間が限界まできてい
   る。汗が吹き出す。
× × ×
○神社・(夜・回想)
   神、雲の上に立っている。
神  「君のことだ。期待しているぞ」
× × ×

○コンビニ『フリーフロッグ』(回想戻り)
徳川 「(裏声)ひょー」
   徳川、髪が逆立ち、少し光る。
   若返るお客さん(28)。
   徳川、若返る様子を唖然として見てい
   る。
お客さん「あ、ごめんなさい、105円です
     よね、505円でお願いします」
   徳川、何も言えずお釣りを渡す。
   放心状態のまま立ち尽くす。
   鈴香、戻ってくる。
鈴香  「徳川さん、戻ってきました。もう
     行かなきゃ間に合わないですよ。
     急ぎましょう。」
徳川  「……そうだね。行こうか。あした、
     パン全部来ないから、張り紙作っ
     といて」
鈴香  「徳川さん、なんかありました?」
徳川  「何もないよ。ただ疲れてるんだ」
     そう言うとそのまま客注の荷物を 
     持って出て行く徳川。
鈴香  「変なの。っあ、いらっしゃいませ
     ー」
   お客さん(80)がまた来る。
お客さん「ごめんね、買い忘れちゃった」

○車内・(夜)
   徳川、車を運転している。
徳川 「(鼻歌のように)わけわかめー」
神  「おい」
   神、助手席に突然現れる。徳川、急ブ
   レーキをかける。幸い、周りに車の気
   配はない。
徳川 「あなたは昨日の」
神  「力、使ったな」
徳川 「やっぱり、あれが僕の力なんですね」
神  「(難しい顔をして)そう……みたい
    だ」
徳川 「夢みたいだ」
   徳川、喜ぶわけでもなく神の方を見る。
神  「改めて説明すると、君の力は『年齢
    を操る力』だ」
徳川 「みたいですね」
神  「君が望んだ力なのか?」
徳川 「まさしくその通りです」
神  「君は一体、昨日何を祈っていたん
    だ?」
徳川 「レジでちんたら金を出すババァ、可
    愛げもなく育った娘。年をとった僕
    と妻。タバコを買いに来る未成年。
    万引きしようとする未成年。こんな
    人たちが、可愛いあの頃に、分別の
    つく大人に、落ち着いた老人になれ
    ばいいなぁって願ったんです」
   神、天を仰ぐ。
徳川 「でも、それでも人に優しくに生きて
    よかったって、ふつふつと思ってま
    す。今、実感が湧いてきました。こ
    の力をくれて、ありがとうございま
    す! 神様」
神  「(申し訳なさそうに)すまん」
徳川 「なんで謝るんです?」
神  「会議の結果、君の力は処罰の対象に
    なった」
徳川 「処罰?」
神  「勝手に力を与えた私にも責任がある
    んだが、その、本当は、家族の幸せ
    とか、仕事がうまく行きますように
    とか、そう言うのを期待してたんだ
    よね。天界のみんなも」
徳川 「はい」
神  「でもさ、蓋を開いて見たら、すごい
    普段の愚痴みたいなことを願ってる
    じゃない。そういうのって、天界で
    は、処罰の対象なのよ」
徳川 「処罰ってなんですか。すごい怖い
    んですけど」
神  「いや、大したものじゃないよ。いわ
    ば辱めだね。すごい恥ずかしい格好
    になるの」
徳川 「恥ずかしい格好? (自分の体を見
    る) 全然そんなことにはなってな
    いけど?」
神  「次からよ。また力を使った時になる
    の。丸一日」
徳川 「次からか、よかったぁ」
徳川 「っていうか、それだったら、僕の力、
    なくせばいいんじゃないですか?」
神  「それはできない。けど、力を使うこ
    とも許さない。我慢なさい。なんか
    申し訳ないけど、さらば!」
   次の瞬間、神、消えそうになるが、徳
   川、掴み引き止める。
徳川 「おかしいでしょ。勝手に力を与えて、
    だけどそれが使えないって。だった
    ら最初っから」
神  「(話を遮るように)あ、力が出そう
    だよ。処罰になっちゃうよ」
   徳川、我に帰り深呼吸する。その隙に
   神、姿を消す。
徳川 「(怒りながら)逃げたな」
徳川 「恥ずかしい姿って、なんだろ……」

○徳川家・リビング(夜)
   家族三人で晩御飯を食べている。
徳川 「はぁ……」
優香 「(一旦無視する)……」
千佳 「(イヤホンをしていて聞こえていな
    い)……」
徳川 「はぁ……」
優香 「どうしたの?」
徳川 「いや」
優香 「いやって何?」
徳川 「説明しづらいな。なんていうか、千
    佳が小さかった頃を思い出してさ。
    少しノスタルジックにな」
千佳 「(イヤホンをつけたまま)ごちそう
    さま」
   自分の部屋に戻る千佳。
徳川 「昔はもっと愛らしかったのに」
優香 「今の時代の反抗期はああいうものな
    んでしょ」

○コンビニ『フリーフロッグ』・バックルー
 ム(夕)
   長谷部と徳川、昼ごはんを食べている。
長谷部「徳川さん、実は僕、気になる人がい
    るんです」
徳川 「え、そうなんだ」
長谷部「それで、相談があるんですけど……」
徳川 「長谷部くん、僕なんかでよければさ、
    なんでも聞いてよ!」
長谷部「その方をデートに誘いたいんです! 
    でも」
徳川 「でも?」
徳川 「まだ名前も知らないんです」

○コンビニ『フリーフロッグ』・レジ(昼・
 回想)
   一人レジ打ちをする長谷部。
   マスクをしためぐみさん(20)、ビ
   ールを長谷部に差し出す。
長谷部「すみません、年齢の確認できる証明
    書はお持ちですか?」
   めぐみ、証明書(顔写真入り)を出す。
めぐみ「(マスクを取りながら)ほら、顔も
    一緒でしょ」
   長谷部、証明書は一切見ず、めぐみさ
   んのことだけ見ている。
めぐみ「おーい、確認できた? おーい……」
   我に帰る長谷部。
長谷部「(慌てながら)はい、確認できまし
    た。えっと、お会計のほうが、21
    1円になります」
めぐみ「ふふっ、はい」
長谷部「ちょうど211円お預かりいたしま
    す。ありがとうございました。また
    お越しくださいませ」
めぐみ「わかった。また来るよ。じゃね」
   めぐみ、店を去る。
長谷部「あ、年齢確認してないや……」

○コンビニ『フリーフロッグ』・バックルー
 ム(回想戻り)
長谷部「それが一ヶ月前の話で、そこから毎
    日っというか、僕がいる日は毎日来
    てくれるんです」
徳川 「ほう」
長谷部「差し入れなんかももらったりしてて、
    まずは何かお返しをしてから、とは
    思ってるんですけど……」
徳川 「なるほど」
長谷部「迷惑ですかね」
徳川 「いや! 遅いよ!」
長谷部「えっ」
徳川 「長谷部くん、彼女は待ってるよ。待
    ち焦がれてるよ!」
長谷部「はっ、はい!」
徳川 「プレゼント、いいね。そのままデー
    トに誘おう!」
長谷部「わっ、わかりました!」
徳川 「プレゼントは決まってるの?」
長谷部「一応……髪留めを考えてます」
徳川 「身に付けるものかぁ。でも、髪留め
    なら良さそうだね。どんなのにする
    か決めてるの」
長谷部「はい」
   長谷部、自分のロッカーから小さな箱
   を取り出し、開ける。そこには髪留め
   が入っている。
徳川 「準備してあるのか。早く渡さないと」
長谷部「緊張しちゃって」
徳川 「これ、結構したんじゃない?」
長谷部「食費、削りました」
徳川 「やるね。長谷部くん! 応援するよ」
長谷部「ありがとうございます」

○徳川家・寝室(夜)
   パジャマ姿の徳川と優香。
徳川 「お米、もうそろそろ無くなるよな」
優香 「あっそうだった。買いに行かなきゃ」
徳川 「明日近くのスーパーに行こうか」
優香 「そうね。あ、あと千佳のバックも見
    に行かなきゃ」
徳川 「バック? この前買わなかったっけ」
優香 「うん。買った。でもそれは普段用の
    やつで、今度は学校用の、ちょっと
    可愛いやつが欲しいんだって」
徳川 「今使ってるやつは?」
優香 「いやみたい」
徳川 「そうか。まぁあのカバンももう古い
    し、買い替えの時期かぁ」
優香 「千佳、あした買い物行けるか確認す
    るね」
   優香、千佳にラインする。『明日買い
   物ついて来れる?』
   千佳からにラインが来る。『行けるよ』
優香 「明日、千佳も来るって」
徳川 「わかった」

○徳川家・リビング(朝)
   家族三人で朝ごはんを食べている。
千佳 「あ、ごめん今日買い物行けなくなっ
    た」
優香 「なんで?」
千佳 「なんでも」
優香 「バックはどうする?」
千佳 「なんか良いの買って来て」
優香 「いいのってどんなの?」
千佳 「良いのあれば写真送って来てよ。そ
    れ見て決めるからさ」
優香 「わかった。すぐ連絡ちょうだいね」
徳川 「いや、付いて来なさい。写真なんて
    めんどくさい事しないで、見に来れ
    ば良いんだよ」
千佳 「は?」
徳川 「昨日来れるって言っただろう。別に
    付いて来なくても良いが、急に変わ
    るってのが許せないな」
千佳 「うるさい」
徳川 「うるさいだと」
千佳 「そう。うるさい」
   徳川、汗をかき、少し光り始める。
徳川 「(叫ぶように)この、わがまま娘
    め!」
   千佳、体が光り始め、千佳(9)にな
   る。驚いてそれを見つめる優香。
千佳 「パパ、ごめんなさい」
徳川 「はっ、やってしまった」
   徳川、体が光り、収まると、戦隊ヒー
   ローの姿になっている。
優香 「その姿、何? 千佳はどうなった
    の?」
千佳 「パパ、許してー」
徳川 「くそ、恥ずかしい姿ってこれかー」
千佳 「パパ~」
徳川 「くっくそう」
   千佳を高い高いする徳川。
徳川 「高い高―い、もうパパ怒ってないよ」
千佳 「(泣いているが笑い出しそうになる)
    ははは」
   徳川に高い高いされたまま元の姿に戻
   る千佳。しばし沈黙。
千佳 「きゃー」
   その場で泣き出す千佳。
優香 「ちょっと!」
   徳川と千佳、優香の方を見る。
優香 「ちゃんと説明しなさい! 年絵!」
徳川 「わかった。説明する。買い物はまた
   次の休みにしよう」
× × ×

○徳川家・リビング(朝)
   正座をしている徳川。千佳、椅子に座
   っている。
徳川 「なんで正座なの?」
優香 「いいから説明しなさい」

徳川 「はい、手短に話します。けど、信じ
    てくれるかなぁ。実はこの前、神様
    にあって、年齢を操る力を手に入れ
    ました」
優香 「ふーん。その服装は?」
徳川 「力を手に入れたんですが、力を使う
    たびにペナルティーがあり、それが
    これです」
優香 「正直、ありえない」
徳川 「やっぱり、信じて来れない」
優香 「でも、さっきの見てるし。信じる」
徳川 「さすが、マイワイフ」
   正座を解こうとする徳川。
優香 「まだ、正座してなさい」
徳川 「え、なんで?」
優香 「ペナルティがあるのは知ってたんで
    しょ」
徳川 「うん」
優香 「なのに、さっきあんなしょうもない
    事で力を使ったのね」
徳川 「はい。それは自分でも……」
優香 「(食い気味に)一週間、掃除洗濯、
    しなさい!」
徳川 「えー」
優香 「罰よ」
千佳 「じゃ、私行って来るね」
   千佳、椅子から立ち上がり出て行く。

○学校・2-1(翌日・昼)
   千佳と友里(16)、一緒にご飯を食
   べている。
友里 「あ、もうそろそろ授業参観じゃね」
千佳 「そうだね」
友里 「実はウチ、お父さん来るんだー」
千佳 「え、最悪じゃん」
友里 「そんなことないよ。まぁ、普通って
    感じ」
千佳 「普通かぁ。父親だったら来ないでっ
    て言っちゃうな。私だったら」
友里 「あれ、千佳ってお父さんと仲そんな
    に悪いの?」
千佳 「いやー、悪いって言うか。無関心。
    私も父親も。仕事ばっかしてるんだ
    よね。それだけって感じ」
友里 「それだけって、それもすごいんじゃ
    ない?」
千佳 「しかも、いつも運が尽きてるような
    感じで、なんかこう、情けない」
友里 「ふーんそうなんだ。でもそんなかっ
    こいい父親なんていないんじゃい?」
千佳 「かもね」
   千佳、無言でご飯を食べ始める。
友里 「機嫌悪くした? ごめんね」
   友里、弁当のおかずをつかにあげよう
   とする。無言で断る千佳。
友里 「ごめんって」
千佳 「じゃあそれちょうだい」
   友里の弁当の果物を指差す。
友里 「うーん、ダメ!」
   笑い出す二人。

○コンビニ『フリーフロッグ』・バックルー
 ム(昼)
   徳川、発注をしている。長谷部、入っ
   て来る。
長谷部「お疲れ様です!」
徳川 「おつかれー」
長谷部「徳川さん、デート、決まりました!」
徳川 「おお、おめでとう! どこ? どこ
    いくの?」
長谷部「はい、映画館に」
徳川 「いいねぇ。頑張ってね」
長谷部「もう、すごい緊張してます。年上だ
    し……僕がもっと早く生まれてれば
    な」
徳川 「……」
長谷部「あっお客さんだ。失礼します」

○帰り道・車内(夜)
   徳川、車を運転してる。
徳川 「(独り言)長谷部のやつやるなぁー」
神  「うん、素晴らしい人だ。それに比べ
    て君は……」
徳川 「うわ」
   助手席に突然現れる神。
神  「辛抱ならない男なんだねぇ」
徳川 「どういう意味ですか? それ」
神  「ほらー、あれよ。今までの君ならも
    っと耐えてたはずなのに、力を手に
    入れた途端人が変わったみたいに…
    … 」
徳川 「それならもう、罰は受けましたし、
    妻にも怒られましたし、反省してま
    すよ」
神  「反省してますよ、うんうんまぁ口だ
    けならなんとでも言えるからな」
徳川 「なんですかその言い方。そもそもね、
    あなたがこんな力、僕に与えなけれ
    ば(神につかみかかろうとする)」
   神、後ろの席に瞬間移動する。
神  「言わないでっ。そのことは言わない
    で(涙を拭う真似)」
徳川 「面倒くさい人だな」
神  「人じゃない。神だ」
徳川 「わかりましたよ。ところで今回現れ
    たのはなんでですか? 説教?」
神  「説教もそうだが、もう一つ」
徳川 「良い知らせですか? 悪い知らせで
    すか」
神  「君は、力を使えば使うほどペナルテ
    ィーが増えて行くことになった」
徳川 「悪い知らせですか。でも大丈夫です
    よ。もう二度と力は使いませんから。
    妻に怒られましたし」
神  「君は神より妻が怖いみたいだね。ま
    ぁいい。力を使わないこと、それが
    今の君に選べる最前の手段だ。次の
    ペナルティは結構重いぞ。じゃあな」
   神、消える。徳川、返事もせず車を走
   らせる。

○徳川家・リビング(夜)
   徳川、お風呂から出て来る。
   千佳、テレビを見ている。
   優香、食事の準備中。
優香 「あ、そうだ。あなた」
徳川 「ん? どうした?」
優香 「ちょっと、お願いなんだけど……」
徳川 「なになに?」
優香 「明後日、千佳の授業参観なの」
徳川 「あぁ、そういえば言ってたね」
優香 「本当に覚えてた? まぁそれはいい
    として、私、明後日友達の結婚式が
    あるのすっかり忘れてたの」
徳川 「うん」
優香 「だから代わりに行って来て来れな
    い?」
徳川 「明後日か、ちょうど休みだし、いい
    よ」
千佳 「え、来んの?」
徳川 「あぁ行くぞ」
千佳 「来なくて良いじゃん」
徳川 「良いじゃないか。授業参観、初めて
    だな」
千佳 「最悪」
徳川 「今なんて言った」
千佳 「別に」
徳川 「おい」
千佳 「何?」
   徳川、体が薄く光り始める。
優香 「(低い声で)ちょっと、あなた」
   徳川、我に帰る。
徳川 「はっ私としたことが」
優香 「はいはい、もうご飯にしましょ」
   優香、ご飯を準備する。三人とも普段
   の位置に座る。
優香 「いただきます」
徳川 「いただきます」
千佳 「……」
   ご飯を食べ始める三人。

○コンビニ『フリーフロッグ』・レジ(夕)
   徳川と初丘さん。レジ打ちをする。
   私服になり、上がる長谷部。
長谷部「お疲れ様です。じゃ、行ってきます」
徳川 「お疲れさま。頑張って来なよ」
初丘 「……」
   長谷部、店を出ようとする。
初丘 「(厳しい顔つき)おい小僧。あまり
   浮かれるな」
長谷部「はーい」
   長谷部、店を出る。
徳川 「初丘さん、どうしたのあんな言い方。
    らしくないな」
初丘 「すみません」
徳川 「嫉妬?」
初丘 「いや」
徳川 「じゃあ何よ。長谷部くん、明るくな
    って良いじゃん」
初丘 「そうですけど、なんていうか」
徳川 「なんていうか?」
初丘 「悪い気が見えます。勘ですけど」
   一瞬、静まる。
徳川 「君の勘、当たるから怖いな」
   お客(80)が入って来る。
お客 「予約取りに来たんだけど」
徳川 「お間違いじゃないでしょうか? 当
    店は本日の予約はございませんよ」
お客 「あれ? 本当? でも、えぇ……」
   徳川、体が薄く光る。
初丘 「徳川さん。光ってますよ」
徳川 「はっ」
   徳川、我に帰る。

○帰り道・車内(夜)
   徳川、車を走らせている。
徳川 「今頃長谷部はふんふふふーん」
神  「君が浮かれてどうする」
   助手席に現れる神。
徳川 「もーう、なんですか。力、使ってま
    せんよ」
神  「それは知っている。神だからな」
徳川 「じゃあ、今日は何の用です?」
神  「そこの角を左」
徳川 「突然なんですか」
神  「いいから」
徳川 「はぁ、僕は早く帰りたいんだ。明日
    は授業参観だし」
神  「いいから」
徳川 「うるさいな」
神  「おいっ。私は真剣に言ってるんだ。
    次の角を左だ」
徳川 「わっ分かりましたよ」
   仕方なく左に曲がる徳川。
神  「次を右」
徳川 「はいはい」
神  「次の次の信号を左に曲がって、少し
    行ったところの公園に行け」
徳川 「分かりましたよ」
神  「私にできるのはここまでだ。君には
    色々いったが、申し訳ないと思って
    いる。だから本当はいけないが、神
    として出来ることをした。あとは君
    次第だ」
徳川 「なんだよ」
   信号を曲がり、公園に行く徳川。

○公園(夜)
   トオル(16)はやて(17)りょう
   (20)、3対長谷部めぐみ2で向か
   い合っている。
トオル 「おっ、どうですか初デートは」
   はやて、りょう、笑い出す。
長谷部 「うるさい」
はやて 「おー、すげーいつもおどおどレジ
     打ちしてんのに、彼女のためなら
     頑張りますってか」
   はやて、めぐみの方に歩いて行く。
長谷部 「ちかよるな!」
   はやてからめぐみを守る。
はやて 「(長谷部の真似)ちかよるな! 
     だって」
   トオル、はやて、りょう、爆笑。
トオル 「愛しのめぐみちゃんだもんな」
長谷部 「なんで名前知ってんだよ」
りょう 「なんでって、俺の女だもん」
めぐみ 「(笑いをこらえながら)ごめんね。
     恋くん」
   めぐみ、プレゼントの髪飾りを捨て、
   三人の方に向かう。
   長谷部、トオル、はやて、りょうに囲
   まれる。
   遠くに徳川の車が止まる。

○車内(夜)
徳川 「なんですか、あれ」
神  「騙されてたんだよ。恋くんは」
徳川 「騙されたって……嘘」
神  「どうする」
徳川 「どうするって……力は? 使ってい
    い?」
神  「いいぞ。使ったところで、相手は三
    人だ。かなりのペナルティになる
    ぞ」
徳川 「ペナルティあるんじゃん」
神  「そこは変えられん。残念だが私に出
    来ることはもうない。アディオス」
   神、消える。
徳川 「(独り言)明日、授業参観なのにな
    ぁ」

○公園(夜)
   両手両足を縛られ地面に正座する長谷
   部、顔には殴られた後。囲むように立
   つトオルはやてりょう。少し離れて見
   ているめぐみ。両の手には金属バット
   が握られている。
りょう「(ニヤつきながら)俺の女に手出し
    てんじゃねぇよ。とか言ってな」
   金属バットで長谷部を突く。
トオル「どうした? なんか言えよ」
   長谷部、何も言わず静かに下を向いて
   いる。
はやて「つまんねぇーな」
   はやて、足で長谷部を小突く。長谷部、
   何も言わない。
りょう 「つまんねぇーよ()金属バットを
     振り上げる」
   りょう、金属バットを振り下ろすふり
   をする。
長谷部 「うわっ」
   長谷部以外、爆笑。長谷部、静かに泣
   き出す。
りょう「泣くなよ、男だろ?」
   りょう、金属バットを振り上げる。
りょう「次は本気な」
   りょう、金属バットを振り下ろそうと
   するが出来ない。振り返ると、徳川 
   年絵(18)がバットを抑えている。
トオル「誰だよおまえ」
徳川 「見てわからないか。この街のヒーロ
    ーだよ」
   徳川は筋肉隆々の戦隊ヒーローの姿で
   微笑む。
はやて「どけよ!」
   殴りかかるはやてを華麗に避け、髪の
   毛を左手で掴む。りょうから金属バッ
   トを取り上げる。
徳川 「(トオルに向かって)君もくるか
   い?」
   叫びながら逃げるトオル。
りょう「てめ、逃げんなよ」
徳川、はやての髪の毛を離す。
徳川 「逃げるなら今のうちだ」
   はやて、りょうの顔を一瞥してから逃
   げる。
りょう「てめーふざけんなよ」
   りょう、長谷部を人質に取ろうとする
   が、徳川、それより早くりょうに掴み
   かかる。
徳川 「君が親玉かな。少し痛い目を見ても
    らおう」
   徳川、りょうのみぞおちを殴ろうとす
   る。その時、お腹がギュルギュルとな
   り出す。
徳川 「あいたたた、なんだ。変なもん食っ
    たっけ?」
   徳川に隙ができ、りょう、急いで逃げ
   出す。
りょう 「てめ、顔覚えたからな」
徳川  「あっもしかしてこれ、ペナルティ
    ーか。きっついなぁ」
   ぐったりとしている長谷部。無言で立
   ち尽くすめぐみ。徳川、長谷部の縛ら
   れているロープを解く。
長谷部「ありがとうございます」
徳川 「何言ってんのさ。恋くん。こんな時
    はお互い様だろう」
長谷部「なんで僕の名前を知ってるんです
    か?」
徳川 「(自分の姿を見て)あぁ、これじゃ
    わからないよな。いや、さっきのや
    つらがよんでたよ」
長谷部「そうだったんですか」
   長谷部のロープが解き終わる。
徳川 「よし、終わり。っで、(めぐみを見
    る)あとは君だけだ?」
めぐみ「(小さい声)ごめんなさい」
徳川 「聞こえねぇな」
めぐみ「ごめんって言ってるじゃん」
徳川 「なんだその態度。恋くんがどんな気
    持ちでプレゼントを選んで、デート
    に誘ったかわかって……」
長谷部「(遮るように)いいんです」
徳川 「でも」
   長谷部、無言で徳川を手で制し、めぐ
   みの方に歩いて行く。
めぐみ「な、何よ」
   長谷部、拳を固く握り涙をこらえる。
長谷部「……」
   間。
   長谷部、何も言わず公園の出口に歩き
   出す。徳川追いかける。

○公園・出口(夜)
   長谷部、静かに泣き出す。
徳川 「よく耐えた」
   長谷部の肩を抱く徳川。
徳川 「言いたいことがあれば聞くぞ。俺で
    よければ」
長谷部「(涙声)くそ女! よくも騙しな! 
    って、言ってやりたかったんです。
    けど、だけど、好きな子だから……
    言えないんですよ」
   そのまま静かに泣き続ける。

○公園前の道(夜)
   長谷部と徳川、公園の前の道を二人で
   歩く。
長谷部「ありがとうございました。ここから
    は一人で帰ります。一人にさせてく
    ださい」
徳川 「もう大丈夫なのか?」
長谷部「はい」
徳川 「分かった。気をつけてな」
   長谷部、頷き、ゆっくり歩いて行く。
   徳川、その場にとどまる。
   長谷部、少し進み、振り返る。
長谷部「名前、教えてください」
徳川 「(少し迷って)この街のヒーローだ」
長谷部、少し笑い、お辞儀をして振り向
  かずに歩いてく。
徳川 「俺ももう家に帰らないと。(天を見
    上げ)明日の授業参観、どうしよっ
    かなぁー。あいたたた」
   長谷部、お腹を押さえ、ヨタヨタ車に
   歩いて行く。

○徳川家・リビング(夜)
   机の上にラップに包まれたご飯がある。
   徳川、元の年齢に戻っている。冷蔵庫
   からビールを取り出し、食べ始める。
   パジャマの千佳が来る。
千佳 「え? 何その格好。最悪」
徳川 「あぁ、まぁな」
千佳 「そんな格好で、絶対に来ないで」
   千佳、水を飲んで部屋に戻る。
   ご飯を食べ続ける徳川。

○徳川家・寝室(夜)
   戦隊ヒーローの格好のまま布団に入る
   徳川。隣に優香が寝ている。
優香 「(起きて)その格好、力使ったの」
徳川 「あぁ」
優香 「どうして。ダメって言ったじゃん」
徳川 「あぁ」
優香 「なんで」
徳川 「いろいろあるんだよ。男にはさ」
優香 「(少し間を持って)ふーん。明日の
    授業参観。遅れないようにね」
徳川 「でもさっき、千佳に来るなって言わ
    れちゃったよ」
優香 「ジャケットでも着ればいいでしょ。
    おやすみ」
徳川 「それで行けるかな。おやすみ」
   徳川、電気を消す。
徳川 「千佳のために俺は何かできてるのか
    な」
優香 「何、急に」
徳川 「ただ思っただけだよ」
優香 「うーん、もちろん、働いて家計を支
    えてるわけだし、それは十分あの子
    の為になってるはずだよ。でも、子
    供にしたらそんなことわからなから」
徳川 「うん。どうしたらいいかな」
優香 「ちゃんと、千佳かどんな人間なのか、
    知ってあげることが大事なんじゃな
    い。仕事ばっかじゃなくてさ」
   徳川、小さい声で唸っている。
優香 「え、何。泣いてるの?」
徳川 「いたた、いやお腹がね。ちょっとト
    イレ行って来る」
   徳川、トイレに向かう。

○徳川家・リビング(朝)
   戦隊ヒーローの姿の徳川、優香、千佳、
   ご飯を食べている。
千佳 「ごちそうさま」
   千佳、立ち上がる。
千佳 「絶対にくんなよ」
   千佳、学校に向かう。

○高校・2-1(朝)
   席に着く千佳。少し離れた席にガーゼ
   をした長谷部が座っている。
   千佳、長谷部に気づき、歩いてく。
千佳 「おはよう。長谷部くん」
長谷部「え、お、おはよう」
千佳 「あんたって、フリーフロッグで働い
    てるんだよね」
長谷部「え、うん。なんで知ってるの」
千佳 「店長、うちの親だから。たまに親か
    ら聞くの、あんたのこと」
長谷部「そうなんだ。っで何? 徳川さんな
    んか言ってた?」
千佳 「いや、父親は何も」

× × ×
○昨日の夜のリビング(回想)
ご飯を食べる父
× × ×

○高校・2-1(回想戻り)
千佳 「ちょっと気になることがあってさ」
長谷部「そっか」
千佳 「で、その傷どうしたの?」
長谷部「別に、なんていうか。不良に絡まれ
    た」
千佳 「ださ」
長谷部「ださいよね(少し笑う)」
千佳 「何笑ってんの? で逃げ出したの?」
長谷部「いや、それがさ、なんか、戦隊ヒー
    ローの姿をした人に助けてもらった
    んだ。今思えばかなり変人だね。そ
    の人」
千佳 「そういうことか」
長谷部「ん?」
千佳 「いや、なんでもない。ありがとね」
長谷部「あ、あぁ」
   千佳、自分の席に着く。
   友里が、千佳の席まで来る。
友里 「めずらしー、長谷部と仲よかったん
    け?」
千佳 「ううん、長谷部、父親のコンビニで
    バイトしてて、それでちょっとね。」
友里 「気になってんの?」
千佳 「ぜんっぜん」
友里 「怒らなくてもいいじゃーん」
   友里、千佳の肩をバシバシ叩く。

○徳川家・トイレ(昼)
   徳川、便器に座っている。
徳川 「ペナルティーって怖いなぁ。あいた
    たた。丸一日ってことはあと何時間
    だ……」
   トイレのドアを叩く音。
徳川 「はーい。今入って、って誰だ!」
神  「まぁまぁ、落ち着いて」

○徳川家・リビング(昼)
   神、椅子に座っている。徳川、お茶を
   注いで出て来る。
徳川 「こんな物しかありませんが」
神  「申し訳ないね」
   しばし沈黙。
徳川 「っで、ご用件は?」
神  「昨日はお疲れ様。まさか自分を若く
    して立ち向かうとはね」
徳川 「昔は結構鍛えてたんですよ。こんな
    役立ち方をするとは思ってなかった
    ですけどね」
神  「よく頑張った。やはり私の目に狂い
    はなかったようだ。君は良い人間だ」
徳川 「ありがとうございます」
   しばし沈黙。
神  「じゃ」
徳川 「え、それだけですか? なんか無い
    んですか。こう、ペナルティーが軽
    くなるとか」
神  「無い。あっ、これならあるぞ」
   神、懐からビールを出し、机に置く。
神  「じゃ」
   徳川、神の手を引っ張る。
徳川 「この服装だけでも」
神  「できん。すまんな」
徳川 「はー、やっぱりかぁ。やっぱり今日
    授業参観行くのやめようかなー。あ
    ー」
神  「そういえば一つお知らせが」
徳川 「いい知らせですか? 悪い知らせで
    すか?」
神  「うーんどっちだろうな。君の力が没
    収になった」
徳川 「没収? 出来ないって言ってたのに」
神  「出来ない予定だった。でもな、君が
    大きく運命を変えてたから」
徳川 「恋くんのことですか」
神  「そうだ。その結果、君は力を使う危
    険人物と見なされ、その力を剥奪さ
    れた」
徳川 「剥奪されたって。最初からなくても
    いい力だったんですよ」
神  「そうだな。すまんな私の勝手に付き
    合わせたみたいで」
徳川 「それは、その通りですね」
神  「可愛くないオヤジだ」
徳川 「はー、じゃあ僕はやっと普段生活に
    戻るですね」
神  「そうだ」
徳川 「色々とありがとうございました。こ
    のビールも」
神  「素直でよろしい」
徳川 「じゃ、さようなら」
神  「最後に一つ、君の勇気は必ず報われ
    る。アディオス」
徳川 「報われるって……(携帯がなる)あ、
    メールだ」
   千佳からのメール、『今日の授業参観、
   来てもいいし来なくてもいいよ』
徳川 「これは来てってことですかね」
   徳川、神の方を見るがもう消えている。

○高校・2-1(夕方)
   五時間目開始のチャイムが鳴る、教室
   の後ろには保護者が並んでいる。   
   徳川、戦隊ヒーローの服にジャケット
   の格好で教室の後ろの扉から入って来
   る。千佳、徳川の様子を伺う。少し姿
   勢を正す徳川。
先生 「よし、じゃあ授業始めるぞ」

○学校・2-1前廊下(夕)
   授業が終わり、休み時間。徳川、隅の
   方に立っている。
千佳 「来たんだ」
徳川 「こんな服装だけどな」
千佳 「ねぇ」
徳川 「何?」
千佳 「お父さんて若い時はどんなんだった
    の?」
徳川 「どんなって、今と変わらないけど、
    体は鍛えてたかな。見たら驚くぞ」
千佳 「ふーん。だからか」
徳川 「聞いといてふーんて。けど急にどう
    した。父さんの昔の話なんて聞いて」
千佳 「別に」
徳川 「別にって、お前はいつも別に別にっ
    て……」
長谷部「徳川さん!」
   長谷部、走り寄って来る。
徳川 「おー恋くん。お疲れ様」
長谷部「お疲れ様って、仕事みたいですね」
   長谷部、徳川の服をじっと見つめる。
長谷部「その服って、流行ってるんですか?」
徳川 「いやー、どうかな……(棒読み)と
    ころでその怪我、どうしたの?」
長谷部「実は……いや、その話は明日のバイ
    トの時にします。」
徳川 「わかった。じゃあね」
   長谷部、クラスに戻る。
   チャイムがなる。
千佳 「じゃ、帰りのホームルームだから。
    先帰ってて。私友達と帰るから」
徳川 「わかった。気をつけて帰りなよ」
   クラスに戻る途中、振り返る千佳。
千佳 「お父さんも無茶するなよ」
   千佳、クラスに戻る。
徳川 「今日の千佳は変だな」
○コンビニ『フリーフロッグ』・外観(翌
 日・夕)
   窓を掃除している徳川。
○同・バックルーム(夕)
   徳川、発注をしている。長谷部、着替
   えている。
長谷部「じゃあ上がります。今日は話聞いて
    くれてありがとうございました」
徳川 「なーに、話くらい、いくらでも聞く
    よ」
   初丘さん、入って来る。
徳川 「おはよー」
初丘 「おはようございます」
長谷部「おはようございます」
   初丘、長谷部の顔をじっと見つめる。
初丘 「その傷、どうした」
長谷部「実は、女に騙されました」
初丘 「ひどくやられたな」
長谷部「そうなんです。でもいいんです。
    男は、女に騙されてなんぼですよ」
初丘 「言うね」
   少し笑う初丘。
長谷部「じゃ、お疲れ様です」
徳川 「ほーい。じゃあね」
初丘 「お疲れ様です」
   帰る長谷部。着替え始める初丘。
初丘 「長谷部さん、強いですね」
徳川 「うん。強い。あれはいい男になるよ」
初丘 「そうですね」
徳川 「僕らも負けてられないね」
初丘 「もちろんですよ。所で、ちょっと前
    に話してたお参り、行ったんです
    か?」
徳川 「うん、行ったよ」
初丘 「やっぱり、最近はいい気が見えます。
    じゃ、自分、レジ行って来ます」
徳川 「よろしく」
   初丘、レジに行く。
   徳川、携帯がなる。確認し携帯を置く。
徳川 「ちゃっちゃと終わらせるかー」
   発注を始める徳川。
   携帯画面には千佳からのライン。
   『ご飯が冷めます。遅いんだよ怒怒怒』

                (おわり)

いいなと思ったら応援しよう!

鳥居図書館
鳥居ぴぴき 1994年5月17日生まれ 思いつきで、文章書いてます。