【長編小説】異精神の治し方「合法処刑」.7
タナカが会いに来た理由をざっと考えてみる。多分学校内では一番顔見知りではあると思うけど、それ以上に納得できることは考えられなかった。わざわざ会いにきた理由。
「私に? どうして?」
「惹かれ合うみたい」
「そうなんだ?」
「うん。君も気づいてるはず。気づいたはずだよ」
「いや、そんなこと……」
タナカが言いたいことは、なんとなく分かっていた。きっと合法処刑を目にした時に感じたあの気持ちのことだ。なぜか私は合法処刑の光景に共感していた。破壊衝動で振るている合法処刑人の心の震えが私にも共鳴したような感じだった。
タナカが私の手を掴んだ。そのまま引っ張られる。意外に力が強い。振り解こうとするけど上手くいかなかった。このままどこに連れて行かれるのだろう。
校舎を出ていく。夕陽がまだ赤々としてるけど、すぐに沈んでしまうのを知っていた。音が聞こえる。野球をしている音。きっと、ハヤトとソラがいるんだろう。
「ねえ、どこ行くの?」
「ここからは出られないよ」
「じゃなくて」
そのまま連れて行かれたのは、ハヤトとソラの所だった。また脳内のルルさんが頭を抱えた。涙を流しているようにも見える。
「それ、みんなでやろう」
タナカは言った。それ、とはキャッチボールのことだろう。まだタナカのことをあまり知ってはいないけど、意外だと思った。
ハヤトは怪訝な表情でタナカを見た。明らかにタナカを警戒している。一方ソラは目を輝かせた。プール掃除の時の光景が蘇る。二人はタナカが合法処刑人だと気づいてるんだ。だからこそ、ソラの表情はおかしい。そして一つ思いついた。ソラは合法処刑人に憧れているのかもしれないと。
ソラがボールを持っていた。
「あ、ミットあります?」
ソラはそう言って直ぐにタナカに近づいていった。
「いらない」
「えー、怪我しますから。ほら」
タナカはキャッチャーミットを受け取った。ソラが付け方を教えている。私はハヤトが心配になって声をかけた。
「邪魔しちゃってすみません」
ハヤトは不愉快そうに目尻に皺を寄せた。
「ニーコさん、嘘ついてたんですね」
「いや、それは」
「あいつと仲良さそうじゃないですか。あいつ、合法処刑人なんでしょ」
「なんか、そうらしいっていうか」
言葉を濁しながらどうするか考えていると、ハヤトはミットを私に押し付けた。
「帰ります。今日はもう任せますんで」
ハヤトはそのまま歩いて行ってしまった。それに気付いたソラは無邪気に「またねー」と言って手を振っていた。
ソラとタナカがキャッチボールをしている。私はそれを見ていた。ミットは二つしかないから一人はあぶれるけど、あったとしても私は参加する気はなかった。疲れていた。
日が暮れ、あたりが暗くなる。
もうそろそろ帰ろうかと思っていると、遠くから人影が見えた。タナカとソラは全く気が付かずキャッチボールを続けている。
人影はタナカに向かっていた。ソラも気がついたらしい。ボールを投げるのを辞めてタナカの方に歩いていく。私も同じく歩いて行った。人影はルルさんだった。
「あらニーコさん、これは一体?」
「ルルさん、さっき別れた後に彼が来て」
「なるほど。ニーコさんが何かしているわけではないんですね」
「もちろんです」
「分かりました」
ルルさんは疲れで苛立っているように見える。暗くてよく見えないけどそんなオーラを放っている。けど、そのオーラを感じ取れるのはこの場所では私だけのようだった。ハヤトは分かっただろう。
「タナカさん、あなたは自分の立場をもう少し考えてください。行きましょう」
そのままタナカを連れてルルさんはまた遠くに消えていった。
「彼、タナカって言うんだね」
「楽しかったですか?」
「うん。また会えるかな」
「どうですかね」
ソラの表情は明るい。もしかしたら、ハヤトの力だけじゃなく、タナカの存在もソラの完治に必要なことなんじゃないかと、表情を見て思った。
私も協力できる。そう思った