0414 夢
このお城はかなり昔に作られたものできっと私のじゃない。外という概念がなくて"お出かけ"をする時は必ず中高生、寮生活をしていた時の寮母さんがいた"センター"という受付みたいな所に行って手続きをするのが必要だ。お出かけはこのお城にいる人間が持っている"景色のイメージ"に行く事が出来るという感じでどちらかと言うとどこでもドアとかと移動する時の感覚は近いんだと思う。
このお城には窓は無いが劇場がある。此処が此処にいつの間にか入ってしまった人間の唯一の共通点であり、人間を狂わせた原因だ。私はこのお城の中心は、核はこの地下にある劇場だと思っている。なぜ自分がそう思っていると感じたかと言うと、茶色く塗装された石壁に突如現れる重たいドアの先の景色の事を"別"の世界だと裏側だと無意識のうちに位置付けて居たからだ。
いつも私は二階席の前から三列目あたりで立ちながら劇場のステージの上を見ている。此処では前日にどんな公演がなされるか決まっている事が無く、いつもお客はかなり出入り自由で私語や飲食が当たり前のような空気感が漂っている。
友達と話した事なんか無かった。
このお城で友達という存在は居なかった。
ずっとひとりだったし、ひとりを好んでいた。
話しかけられたら相手に不快感を与えないように笑ってお話してまたねと言うけど、そのまたねは
純粋に"また貴方と当たり前のようにどこかで会えると思って居ます"と言う意味では無かった。
一階に行くことは最後までなかった。
ずっと二階をうろうろして居た。
時々気がついたら劇場のステージに立って居て
だけどそこからお客さんを見た記憶は無く、いつだって二階席の前から三列目から見ていた。
恵比寿ザ•ガーデンホールぐらい広いステージで
一生懸命に歌っている私を見ていた。
ゲイ5人組のバレエ寄りのダンスボーカルグループ
のリーダーにギョッとした顔でこちらを見られたような気がした。でもそうでは無くて女としての魅力を感じない社会的にやばい奴としての軽蔑した目線だったことを後で確信した。白塗りの顔に
ハイトーンのワックスがいっぱいついた髪の毛、全員でお揃いにしているであろう右目を囲んだ黒い星と一粒のラインストーンはピエロと覚悟とそれから圧倒的な努力からくる自信の光だった。
照明は赤とか青とかストロボとかは全く無くて
客席とステージどちらも暖色のつややかな光で照らされていた。蝋燭のあでやかさをあたたかさを
全部此処に詰め込んで冷たいと言う気持ちを記憶から消してしまおうと言うこのお城の創業者の意図のように感じた。私が此処以外を別世界と言ったのはこの仕組みのせいかもしれない。あたたかな場所で一定の安心を感じている人間がたくさんいる場所を私は中心に置きたいのかもしれない。
私は外の世界に行ってみたくなって、劇場を飛び出しセンターに走った。運動会の50m走ぐらいの感じで走った。そこは今の感覚で言う事務所みたいな感じで、たまに社長が社員に絡みに用件を伝えに来たりしている。から、私が"お出かけ"をどこにしようとしているかは事務所の人間には分かってしまう。劇場にいる人間にはバレなくても事務所にはバレるのだ。
センターに行くといつも私を担当してくれている人が居てどこに行きたいですか?と言う。
私は『真昼間の都心を離れたたまに土手とか川が見えるタイプの開放的な電車に乗りたいです』と答える。すると担当はガラスの窓を開けて私に専用の用紙を渡して手続きをするので此処に本名と行きたい場所を書いて下さいと言った。実は初めての"おでかけ"だった。此処から出たら何かが壊れちゃうような気がして、此処が楽しくっておでかけをする選択を取る理由が無かったからだ。
紙を書いたら悪意のない、いつも心優しい担当は私に『気をつけて』ではなく『楽しんで』と言った。そう言うところが好きだなと思いながら本当の意味での行ってきますはその担当にだけ言って私はまばたきをした。
目を開けたらもうすごく天気のいい日の電車の中だった。後輩みたいな女の子達とその新しいマネージャーが居てどうやら私と世間話の途中だったみたいだ。この世界には私が存在して居たらしい。ずっと。満員電車とまではいかないけど床に等間隔で足が密に並んでいるのが見えるほどの混み具合だった。私は自分がもう少し空いている車内を描いて居たと思って居たから本当に今行きたい場所はこう言うところだったのかとしっくりきている自分に驚いた。人の壁を二層ぐらい超えたところに今一番心を許している、大勢の人間がいる中にその人がいてくれたら私はとても安心すると言う人を見つけた。だけどその人と仲が良い所を見られるのは誰も楽しくないと判断したから私は世間話を続けた。
続く!