今日もコーヒーは苦かった5
かなり大勢いる。
150年前に行方不明になった子たちだと分かるのに時間はかからなかった。
子どもたちは楽しそうに騒いでいる。
ここは150年経っても年をとらないらしい。
子どもたちとその先生の意思が伝わってきた。
子どもたちや先生から焦りや絶望などのマイナスの意思は一切感じられなかった。
それだけで俺たちが持っている恐怖を払拭してくれた。
おおよそ2日前に俺たちと同い年くらいの子が1人迷い込んできたがすぐに現世に戻ったと先生から伝わった。
時間という概念はないが現世の感覚がこちらでは比べ物にならないぐらい研ぎ澄まされているので時間換算は容易にできた。
2日前?
どういうことだ?
でも、これは間違いなく元部長のイメージだ。
2日前というのは引っかかるがやはり元部長はこの件を調査していたのだ。
元部長が2年前に来たがここでは2日。
ということは、単純計算でここの1日は現実世界の1年に相当するようだった。
元部長はどのようにして外に戻ったのか?
それは先生もわからない。
彼の空間や次元、時空、重力、宇宙、相対性理論などの分野に関しての知識量は傑出していた。
ただ、先生と先輩は現世のつながりがないので弱い繋がりの状態らしい。
この空間にいればお互いの状況が手に取るようにわかり、お互いの頭の中も自分のことのように話すことができたが、今ではほとんどのことを忘れてしまっている。
部長が居たのは時間にすると半日程度。
半日?
ということは現実では半年くらい経っているはず。
でも先輩はあの時、トイレに行くといって少し席を立ったくらいだった。
時間にして10分程度。
ここで数秒後に戻っても数時間経ってしまう。
とりあえず1日が一年という事を過程して考えよう。
あの強い光から落下してだいたい1時間程度たっただろうか。
現実世界では半月程度か?
次の中秋の名月まであと23時間ほど。
いや、23時間後に中秋の名月が来たところで、何をすればいい?
しかも先輩が帰ったのは来てから半日。
計算が合わない。
先生も俺が今思いついた様なことは何度も何度も試みた。
先生はこの空間内であればどこへでも行けるみたいだが外に出る手がかりは未だ見つかっていないようだ。
ん、なんだこの記憶は。
これは佐々木の記憶だ。
部室の奥にある段ボールの中のノートを漁っている。
俺が1年の時の部長が残した手記みたいだ。
佐々木はこれを見て今回のテーマを決めたようだ。
5月のテーマ
グランドのラインテープの張替え
・ラインテープは山下先生が注文済み
・取り外しするための工具が体育倉庫の奥の棚に入っている
・授業の関係で期限は今月中
6月のテーマ
梅雨前に朝礼台前の水たまりができやすいところの水はけをよくする。
・側溝がすぐ近くまで来ているのに地面がボコボコで側溝に水が流れる前にそこにたまってしまう。
・グランドの隅から土を持ってきて盛り土をして踏み固める。
・側溝の入り口を斫り水が側溝に流れやすくする。
7月8月のテーマ
旧校舎の調査と今後の活用
・ネットで調べていたらうちの学校にある旧校舎は150年前小学校として使っていたらしい
・嘘か本当かそのころ26人が神隠しにあっている。
・神隠しにあったのは150年前の中秋の名月の日。
・夏休み中に旧校舎前を簡単なキャンプができる状態にし、中秋の名月の日にキャンプを行うこととする。
新聞の切り抜きとともに先輩のメモがある。
150年前、中秋の名月を見るためお泊り会をしていた小学生25人と先生1人が忽然と姿を消した。
噂はほんとらしい。
月と地球の距離が関係しているのか?
それとも何かの事件に巻き込まれたのか?
明日は一年の部員と旧校舎前でキャンプ、一年には今回の事は言っていない。
もし何かに巻き込んでしまっては申し訳ないので。
調査はキャンプの合間に一人で行う。
ただ、今回の調査は彼がいないと成り立たない。
調査報告
教室の中央にある強い光に、気が付いたら吸い込まれていた。
そこはすごく心地よく時間が止まっている。
150年前の子どもたちが楽しそうに騒いでいた。
先生はその様子を幸せそうにただ黙って見守っているようだった。
私はというと、本当に新入部員がいてよかった。
彼は命の恩人だ。
残してきた子どもたちと先生には申し訳ないが一緒に現世に戻る方法が見つからなかった。
俺が命の恩人?
俺は今回のことも何も知らなかったし、ここへ来たのも今回が初めてなのに。
先生は、おそらく現世とこの世界のつながりをもった人が現世側にいなくてはいけないと言った。
俺がこの世界と現世の架け橋?
でもそんな俺がこの世界に来てしまったら脱出できない?
わけがわからない。
ずっと訳が分からない。
今も膨大な知識が頭に流れ込んでくるのを感じる。
ふと他の部員に意識を向ける。
みんなすごく心地よさそうだった。
実は俺も先ほどからふわふわした感じが心地よく、
なにより、現世とこの世界でのつながりを持っている部員のみんなと精神の深い部分で繋がっていることがこの上ない心地よさをもたらしていることに気づき始めていた。
完全にこの心地よさに浸かると帰れなくなる気がして、何とか気をそらしていたのだが、すぐに無意味な努力となった。
もう現世に帰るとかどうでもよかった。
ここにずっと居たかった。
ここにいればすべて理解しあえる仲間がいた。
ここにいれば現実にある辛い思いをしなくて済んだ。
ここにいれば幸せに生き続けられた。
ここにきて半日が経過したころ、月の力が若干弱まった感覚があった。
佐々木がいうには、
中秋の名月から半年ほど経つと、地球と月の距離が最も離れる時期になるとのこと。
先輩はきっとこのタイミングで目が覚めて戻ってきたんだ。
ただ、戻り方がわからない。
この月の力が弱まっているときに脱出方法を考えないと。
先輩は俺を命の恩人といった。
俺がいなければ調査は成立しなかった。
つまり戻ってこれなかったとのこと。
なぜ俺が必要だったんだ?
そしてなぜ半年経ってから脱出しているのに現実世界ではわずか10分ほどでかえってこれたのか?
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