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今日もコーヒーは苦かった3

夕飯の買い出しには俺と三宅と佐々木で行くことになった。
井上と山中には枝を拾って火を大きくしてもらっている。

夕方になってもまだ暑かった。
スーパーの自動扉の前に立つと、午前中と同じ様に冷気が熱くなった体を冷やした。
「これ買いませんか!?」
三宅が手に持っていたのはアユが串に刺さっていて既に塩をまぶしているものだった。
この辺は水が綺麗な川が近くにあり、普通のスーパーでは売っていないような川魚が販売されていることがある。
「いいねぇ」
俺と佐々木の声がハモった。
すぐ横に、これまた既に串にささった肉や野菜があったのでそれもかごに入れた。

旧校舎の前に帰ると、太ももくらいある丸太が燃やされていた。
「こんなんよく見つけたね」
「半年前くらいにうちの部でベンチを作った時の端材ですよ」
「そういえばそんなこともしたな」
俺たちは先程より大きくなった火を囲んで買ってきたアユを焼いた。
同時に肉と野菜が刺さった串を一人2本ずつ配りそれぞれが自由に火にかけた。
アユと肉の焼けたにおいが俺たちの周辺に漂った。
「アユそろそろいきますか!」
と佐々木の声に歓声が上がった。
塩気の効いたアユは最高に美味かった。
串に刺さった肉と野菜は味付けが薄く
「タレを買えばよかったね」
といったが、
「でもまぁこれはこれで」
と井上がフォローした。
他の部員も頷いていた。

全員が食べ終わるころには辺りはすっかり暗くなっていた。
空を見上げると分厚い雲に覆われていて月は見えなかったが、きっとあの辺にあるとわかる様な光が雲を通しても分かった。


「今回のメインイベントいきますか!」
佐々木はおもむろに発した。
井上と三宅が煽るような声を出した。
山中はニヤニヤしていた。

佐々木があの光の部屋に案内した。
特に変わった様子はなく、光もなかった。
佐々木は、
「もしかしたらカメラを通さないと見えないのかもしれません」
とタブレット越しに教室を見たがそこにも光はなかった。
俺は、
「月が出てないからじゃない?」
というと
三宅が
「きっとそうですね」
といった。

俺たちは教室の椅子に腰かけ雑談しながら月が雲間から出るのを待つことにした。
そこで俺は、ユーティリティー部に入った動機をそれぞれ聞いた。
「佐々木は?」
の問いかけに少し間をおいて口を開いた。
「一番の動機は、先輩が部活紹介で断トツやる気なさそうだったんで逆に興味沸いて」
「ホントそう!」
井上が同意した。
「で、体験に行ったらやっぱりやる気なさそうで」
「そんなにやる気ないように見えた?」
俺は照れながら独り言のように言った。
ニヤニヤしながら佐々木はつづけた。
「でもなぜか先輩ともっと話したいって思っちゃったんです。
活動内容もゆるくて僕にはピッタリだったし、SF部なんてあったらそっち行っちゃったかもですが。」
佐々木らしかった。

「そっか、じゃぁ井上は?」
「俺も佐々木と一緒で、先輩の部活紹介で先輩が気になったのがきっかけです。たぶんゆるい部だなって思っちゃいました。あとは、ちょっと俺オタク気質でアニ研とか入っちゃうとそれしか見えなくなるので敢えてアニ研は避けました。」

「そうなんだ、山中はどう?」
「僕はまずユーティリティー部って名前に惹かれました。授業ではやらないような事を経験できるって今後の財産になると思ったし、何より皆さんの雰囲気が僕に合ってました。」

「そっか、そういってもらえると俺らもうれしいよね」
みんな少し照れ臭そうにうなずいた。
「じゃあ三宅ね」
「はい、私は同い年の女子みたいに可愛くないし、何かテンションとかも合わないし、きゃぴきゃぴできないし、サッカー部とか野球部のマネージャーとか絶対無理だし、かと言ってバリバリスポーツするタイプでもないし。じゃあ何しようか?って考えたときにユーティリティー部が目に入ったんです。これ私にピッタリかもって思ったんです。先輩方や山中君が言っていた様に雰囲気もめっちゃ私にマッチしてたんですよね。」


「みんなありがとうね。そういってもらって心から嬉しいよ。活動内容も先生の雑用とか校舎の修繕とかばっかりだし、みんな物足りなさを感じているだろうなと思ってたから。」
三宅は冗談めかして
「確かに物足りなさを感じることもありますけどね!」
というと笑いが起きた。

続けて三宅は俺のほうを見て
「部長は?」
と聞いた。

その直後、雲間から煌々と光る満月が顔を出した。
それと同時に教室が白く強い光で覆われた。

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