文字を用いた式の四則計算
簡単な整式の加減及び単項式の乗除の計算
足し算、引き算、かけ算、割り算にはそれぞれ別名があり、加法、減法、乗法、除法という。省略して加、減、乗、除ということもある。また、これらの四種類の計算のことをまとめて四則計算という。
計算式を作る際に、数字以外に文字を用いて式を作ることがある。そのような式を、文字を用いた式(文字式)という。ただし、ここで用いる計算は四則計算のみとする。
四則計算のみを用いて作られる文字式の例としては以下のようなものが挙げられる。
$$
2x+y
$$
$$
\dfrac{2x+y+3}{xy}
$$
ここで二種類の例を挙げたのには意味がある。それぞれが、四則計算だけで作られる文字式の二つの分類に対応しているのである。
四則計算だけで作られる文字式は、次の二種類に分けられる。
一番目の例のような、分母に文字を含まない式。これを整式という。
二番目の例のような、分母に文字を含む式。これを分数式という。
さて、ここからは整式の計算について考えることにする。
まず、整式の計算の意味と必要性について確認しておく。
整式の計算とは、分配法則などの計算法則を用いて整式を変形することである。多くの場合、変形の目的は、整式を最も整理された形に直すことである。
ここで、「整理された形とは何だろう」と思うかもしれない。以下に、整理されていない形と整理された形の簡単な例を挙げる。
整理されていない形の整式
$$
4x+x+3x+2x
$$
整理された形の整式
$$
10x
$$
計算法則を用いた変形では、変形の前後で計算結果は変わらないようになっている。したがって、整理されていない形と整理された形のどちらの形で計算しても、必ず同じ計算結果が得られる。
例えば、$${x=3}$$のとき、それぞれの式の値を計算すると、
$$
\begin{aligned}&\kern{1.3em}4x+x+3x+2x\\&=4×3+3+3×3+2×3\\&=30\end{aligned}
$$
$$
10x=10×3=30
$$
となり、確かに同じ結果が得られる。しかし、計算としては、整理された形で計算する方が圧倒的に楽である。
つまり、整式を計算して整理することの意義の一つは「代入計算を簡単にする」ということにある。
ただ、式の整理の意義はもう一つあり、それが「表記方法を統一することで整式同士の比較を容易にする」ということである。
上の例のように、まったく同一の計算結果となる整式だったとしても、整理されていない形と整理された形で比較したのでは、同じなのか違うのかが一目では判別がつかない。
しかし、すべての整式を整理された形に統一すれば、まったく同一の計算結果となる整式は必ず同じ形になるので、同じかどうかを簡単に判断できる。
ここで改めて、整式の整理について定義する。整式の整理とは、整式の中のすべての式の形を、以下で定めるような式の形に統一することである。
①減法は加法に直すことができるので、減法は用いずにすべて加法に統一する。
(例)$${(+a)-(+b)=(+a)+(-b)}$$
ここではあえて正の符号を書いたが、ふつうは正の符号「+」は省略する。
$$
(+ax)-(+by)=ax-by
$$
あるいは、記号「+」は加法記号としても用いられるため、「+」の省略を加法記号の省略と捉えることもできる。
$$
(-x)+(-3y)=-x-3y
$$
②除法は分数または逆数の乗法に直すことができるので、除法は用いずにすべて分数または逆数の乗法に統一する。
(例)$${x÷(y+2)=\dfrac{x}{y+2}=x×\dfrac1{y+2}}$$
文字は数字の代わりなので、数字の約分と同様に文字の約分も可能である。
$$
\dfrac{2abc}{3b}=\dfrac{2a\cancel{b}c}{3\cancel{b}}=\dfrac{2ac}{3}
$$
分数式については、それ以上約分できなくなるまで約分したものを最も整理された形とする。
③和の積は積の和に直すことができるので、和の積はすべて積の和に統一する。
加、減、乗、除の結果のことをそれぞれ和、差、積、商という。
減法と除法は加法と乗法に統一したので、整式はすべて和または積だけで表される。
ここで、和または積から作られる式は次の四通りが考えられる。
1. 和の和
(例)和$${a+b}$$と$${c}$$の和$${(a+b)+c}$$
2. 和の積
(例)和$${a+b}$$と$${c}$$の積$${(a+b)×c}$$
3. 積の和
(例)積$${a×b}$$と$${c}$$の和$${a×b+c}$$
4. 積の積
(例)積$${a×b}$$と$${c}$$の積$${(a×b)×c}$$
和の積は、分配法則によって積の和に直すことができる。
$$
a×(b+c)=a×b+a×c
$$
和よりも積の優先順位が高いので、和の積ではかっこが必要だが、積の和に直すとかっこが必要なくなる。そのため、和の積を積の和に直すことを「かっこを外す」または「かっこを展開する」という。
和の積は積の和に直し、式の形をすべて積の和で統一することにしよう。
そうすると、整式の中の式はすべて和の和、積の和、積の積として表される。ここで積の積を改めて一つの積として考えると結局、すべてが和として表されることになる。
整式の中の式をすべて積の和の形で表したときに、加法で結ばれるそれぞれの式のことを項という。
(例)$${a+bc}$$の項は$${a}$$と$${bc}$$の二つ。
項が一つしかない式を単項式といい、項が二つ以上ある式を多項式という。
④同類項をまとめる。
文字の部分が同じ項を同類項という。同類項は、分配法則を逆に用いることで、項を一つにまとめることができる。
$$
ax+bx=(a+b)x
$$
すべての同類項がそれぞれ一つの項にまとめられたものを、最も整理された形とする。
それでは簡単な計算の例を以下に挙げる。
$$
\begin{aligned}&\kern{1.3em}(3x-2y)-(2x+5y)\\&=3x-2y-2x-5y\\&=3x-2x-2y-5y\\&=x-7y\end{aligned}
$$
以上のように、分配法則と交換法則、結合法則を用いて変形し、最も整理された形にすればよい。
文字を用いた式で表したり読み取ったりすること
文字を用いて奇数を表すことを考える。
奇数とは、偶数ではない整数のことであり、すなわち$${2}$$の倍数ではない整数のことである。したがって、奇数は$${2}$$で割りきれない数であり、$${2}$$で割ると$${1}$$余る数であるから、一般に、整数$${n}$$を用いて次のように表せる。
$$
2n+1
$$
逆に、この形で表される数は奇数であると読み取れる。
文字を用いた式で捉え説明すること
奇数と奇数の和が必ず偶数になることを、文字を用いて説明する。
$${2}$$つの奇数は、整数$${m,n}$$を用いて、$${2m+1,2n+1}$$と表せる。これらの和を計算すると、
$$
\begin{aligned}&\kern{1.3em}(2m+1)+(2n+1)\\&=2m+2n+2\\&=2(m+n+1)\end{aligned}
$$
ここで、$${m+n+1}$$は整数であるから、$${2(m+n+1)}$$は偶数である。したがって、奇数と奇数の和は偶数になる。
目的に応じた式変形
三角形の面積の公式は、三角形の面積$${S}$$、底辺の長さ$${a}$$、高さ$${h}$$を用いて次のように書ける。
$$
S=\dfrac12ah
$$
この公式は、式変形によって底辺の長さ$${a}$$を求める式に書き換えることができる。
$$
\begin{aligned}S&=\dfrac12ah\\\dfrac12ah&=S\\ah&=2S\\a&=\dfrac{2S}h\end{aligned}
$$
このように、ある等式を$${a}$$などの特定の文字を求める式に変形することを「文字($${a}$$など)について解く」という。
式変形の目的は、式の整理だけとは限らないのである。
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