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文字を用いた式

文字を用いることの必要性と意味

文字を用いることの利点はいくつかあるが、そのうちのひとつを以下で紹介しよう。

偶数、すなわち2の倍数について考えてみる。

  • 2を1倍した数$${2×1=2}$$は2の倍数

  • 2を2倍した数$${2×2=4}$$は2の倍数

  • 2を3倍した数$${2×3=6}$$は2の倍数

  • 2を4倍した数$${2×4=8}$$は2の倍数

と、2の倍数はどこまでも続き、無限に存在する。ここで、2の倍数とは、「2を何倍かしたもの」、すなわち、「2に何らかの整数をかけたもの」と定義される。

とりあえず、2の倍数、すなわち偶数を定義できたので、偶数の性質について考えてみよう。

Q. 偶数と偶数を足し合わせた数は、偶数になるか、それとも偶数にはならないか。

はっきり言ってどうでもいい質問だと思うかもしれないが、まあ調べてみることにしよう。

偶数は「2に何か整数をかけた数」であり、具体的な数としては{2, 4, 6, 8, …}などが例に挙げられる。したがって、偶数と偶数を足し合わせた数は、例えば{2+2=4, 2+4=6, 2+6=8, …}などである。

ところで、偶数は無限に存在するため、当然、偶数と偶数の足し合わせも無限に存在する。よって、全部調べるということは不可能である。

ひとまず、いくつかの例(2+2=4, 2+4=6, 2+6=8, …)を見た限りでは、偶数と偶数を足し合わせた数はどれも偶数であった。しかし、他の偶数の組み合わせでも、足し合わせた結果が偶数になるかどうかまではわからない。

偶数と偶数の足し合わせが、どんな組み合わせでも偶数になるのか、あるいは偶数にならないものもあるのか、どうにかして調べることはできないだろうか。

無限にある偶数の組み合わせをひとつひとつ調べるのは無理がある。ならば、すべての偶数をまとめて、ひとつの数式で表せるようにしたらいいのではないか。

さあ、ここからが数学の本領発揮である。偶数すべてに共通する性質を探して抽象化することで、無数の具体例をひとつの抽象的な表現に代表させるのである。

まずは2の倍数の共通点を見つけよう。

$$
\begin{gathered}2×1\\2×2\\2×3\\\vdots\end{gathered}
$$

簡単に見てとれる共通点は、「2に何か数をかけている」ということ。そしてもうひとつの共通点はちょっと分かりにくいが、「かける数は整数である」ということである。

この二つの共通点をもとに、2の倍数の性質をうまく表せるような式を考えてみる。2とのかけ算はそのまま書けばいいが、かける数が整数であるということを表すにはどうしたらいいだろう。もっとも単純な表し方は、そのまま整数と書いてしまうことである。

$$
2×(整数)
$$

このように書けば確かに、2の倍数に共通する性質が式からよく読み取れる。

逆に、ある数がこのような形の式で表せれば、その数は2の倍数としての性質を持っているということであり、それはつまり、その数が2の倍数であるということを意味する。

さて、これで、どんな偶数でも表せる万能な式が作れたことになる。早速これを使って、偶数と偶数の足し合わせがどうなるか調べることにしよう。

$$
2×(整数)+2×(整数)
$$

この式の計算について考える前に、この表現の問題点を指摘することにしよう。それは前の整数と後ろの整数の区別がつかないことである。前の整数と後ろの整数にあてはまる数は必ずしも同じになるわけではなく、違っていてもいい。例えば$${2×3+2×6}$$だって偶数と偶数の足し合わせなのだから。前の整数と後ろの整数がそれぞれ別々の整数であることを示すにはどうしたらよいか。何か名前をつけて区別することにしよう。

$$
2×(整数a)+2×(整数b)
$$

いや、いっそのこと名前だけにして、それらが整数であることは注意書きにしたらどうだろう。

$$
2×a+2×b\\(ただしa,bは整数)
$$

という感じで文字を導入する。

ある共通な性質を満たす数全体を表すのに、具体的な個々の数字を書き並べるのではなく、ひとつの文字を書いて、その文字がどのような性質をもつ数の代わりなのか注意書きをつけることで、それらの性質をもつ数全体を表すのである。

ここで大事なのは、文字はあくまでも実際の数の代わりに書いているだけであって、本当はそこに具体的な数字があてはまる、ということである。したがって、

$$
2×a\\(ただしaは整数)
$$

という式は、実際に文字$${a}$$に具体的な整数(1,2,3,…)をあてはめた、

$$
\begin{gathered}2×1\\2×2\\2×3\\\vdots\end{gathered}
$$

などのすべての式を表すものなのである。

文字は数字の代わりに用いるものである。なので、どんな数字の代わりなのかはきちんと書かなくてはいけないが、基本的には、すべての数を表すことが多い。整数のみならず、小数、分数も含めた数全体を表すのに使われるのである。さらには、前の記事で書いた「正の数・負の数」も含める。今後、何の注意書きもついていない文字は、以上で述べたすべての数(実数という)を表すものとする。

さて、ここで、実数の分配法則を、文字を使って書き表してみよう。

$$
a×(b+c)=a×b+a×c
$$

$${a,b,c}$$は実数を表すから、どんな数をあてはめても上の等式は成り立つ。いろいろと具体的な数をあてはめて書いてみると、

$$
\begin{aligned}2×(3+4)&=2×3+2×4\\5×(7.8+0.2)&=5×7.8+5×0.2\\\dfrac45×(\dfrac13+\dfrac38)&=\dfrac45×\dfrac13+\dfrac45×\dfrac38\end{aligned}
$$

まだまだいろんな式が考えられるが、そのすべてを単純な一本の式

$$
a×(b+c)=a×b+a×c
$$

で表せるのだから、文字を使うとなんと便利なことか。

ところで、分配法則は左右逆に書くと、

$$
a×b+a×c=a×(b+c)
$$

文字$${a}$$に2をあてはめると、

$$
2×b+2×c=2×(b+c)
$$

となる。先ほどの偶数と偶数の足し合わせの式にこれを適用すると、

$$
2×a+2×b=2×(a+b)\\(ただしa,bは整数)
$$

分配法則は実数全体に対して成り立ち、実数の中には整数全体が含まれているから、上の式は成り立つといえる。したがって、偶数と偶数の足し合わせは結局、

$$
2×(a+b)\\ (ただしa,bは整数)
$$

と表せることがわかる。これが偶数になるかどうかが最初の質問であった。これは偶数だろうか、それとも偶数ではないだろうか。

偶数、すなわち2の倍数の性質は、

$$
2×(整数)
$$

というものであった。このような性質をもっているかどうかを判断すればいい。上の二つの式を見比べてみると、判断すべきことは、$${a+b}$$が整数かどうか、ということになる。$${a,b}$$は整数なので、その和$${a+b}$$も整数になる。さすがに長くなるのでその理由は割愛するが、気になるなら自分で調べてほしい。とりあえず、$${a+b}$$が整数になるということは、式$${2×(a+b)}$$が偶数の性質を満たしているということであるので、つまり、偶数と偶数を足し合わせた数はいつでも偶数になるということである。 

数字はそれぞれ自分自身の数しか表せない。しかしそれだと、どんな数字に対しても成り立つ関係や規則を表すのに、たくさんの数字を並べなくてはならず、不便である。そこで、どんな数字でも表せるものとして「文字」を数字の代わりに使うと、式をたくさん書かずとも、一本だけで関係や規則を表すことができ、とても便利である。

以上が、文字を使うととても便利になる例のひとつである。

乗法と除法の表し方

文字を含む式の書き方には決まりがある。

なぜかは知らないのだが、文字はかけ算記号と割り算記号が大嫌いである。なので、基本的に、かけ算記号は省略する。しかし、足し算記号や引き算記号は絶対に省略してはいけない。

$$
a×b=ab
$$

並べる順序は「数字→文字(アルファベット順)」とする。

$$
b×3×a=3ab
$$

割り算記号は使わず、分数に直す。

$$
x÷y=\dfrac {x} {y}
$$

一次式の加法と減法の計算

ある特別な目的のために、文字は一か所にまとめるようにする。例えば文字$${x}$$を一か所にまとめるには次の分配法則を使う。

$$
ax+bx=(a+b)x\\cx-dx=(c-d)x
$$

一応具体的な数字をあてはめておくと、

$$
\begin{aligned}3x+2x&=(3+2)x\\&=5x\end{aligned}
$$

$$
\begin{aligned}-3x-(-5x)&=\{-3-(-5)\}x\\&=2x\end{aligned}
$$

文字を用いた式に表すこと

具体的な数字がわからない場合に、代わりに文字を使うということもある。

時間を計って90分勉強することにした。しばらくして集中力が切れたときに時計を見ると開始から30分経っていた。あと何分勉強すればよいか。

例えばそれから30分勉強したら、合計は$${30+30=60}$$で60分ということになる。90分にはまだ足りない。では40分だったらどうか。$${30+40=70}$$なのでこれでもまだ足りない。いや、どうも何分かわからないので、具体的な数字30や40の代わりに文字$${x}$$を使って$${x}$$分とすると、合計時間を計算する式は$${30+x}$$と表すことができ、これが90分となればいいので、$${30+x=90}$$という式になる。

はっきり言ってこれは無駄な例であるが、まあ表し方としては概ねこんなものであろう。

文字を導入するだけで、文章がかなり長くなってしまった。まあでも算数に数字が欠かせないのと同様に、数学に文字は欠かせない。算数では「具体的な物の集まり→それを表す数字」という抽象化だった。数学では「具体的な数字の集まり→それを表す文字」とさらに抽象化する。じゃあ、「具体的な文字の集まり→それを表す??」という抽象化もあり得るんじゃないか、と思うかもしれないがそうもいかない。文字の表すものが具体的には特に決まっていないからだ。しかしながら、それとは別の種類のさらなる抽象化はこれからどんどん出てくる。ぜひ抽象的なレベルアップを楽しみにしていてほしい。

ぼんやりといろんなものを眺めていると、ふと共通点が浮き上がって見えてくるかもしれない。そんなときは抽象化のチャンスだ。

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