道産トウキビ粉で“ウイスキー造り”⁉ 焼酎のライン転用する企業も 新ブランド確立へ
北海道立総合研究機構(道総研)は、道産コーンウイスキープロジェクトを推進しています。同プロジェクトに参画している札幌酒精工業は1年間樽詰めしたコーンウイスキー「SAPPORO CORN WHISKY New Born 1 Year Barrel Aging 60% 300ml(3300円)」を8月22日、数量限定で販売。用意していた400本はすぐに完売になりました。
始まりは「トウキビ粉」生産
道産コーンウイスキープロジェクトの始まりとは。平成25年に道総研とJAそらち南がコラボし始めたコーングリッツ(トウキビ粉)の生産までさかのぼります。
コーングリッツはパンやスイーツ、酒、料理の材料に使われています。コラボ事業が始まった理由は、海外輸入品の遺伝子組み換えやポストハーベスト農薬の問題の解決。
そこで目をつけられたのが、北海道栗山町などで生産されているマルチコーンと呼ばれる品種のトウモロコシです。一般の人が小売店で目にするスイートコーンと異なり、マルチコーンは家畜の飼料として使われます。
さらに栗山町では意外な理由でマルチコーンを栽培しています。秋まき小麦の連作障害を避けるためにマルチコーンの茎と葉を畑にすき込むことで、落ち込んでいた小麦の収穫量を回復できます。
また、このマルチコーンは家畜の飼料として販売されているぐらいでした。そこに道総研の職員が注目。利用価値アップのため、食用コーングリッツを開発に乗り出しました。
道総研とJAが開発したコーングリッツ。今では北海道内の企業や首都圏のメーカーへ流通していることに加え、なんとお酒の材料にも使われています。道総研が主導している「道産コーンウイスキープロジェクト」では、このコーングリッツを材料としてウイスキー造りに取り組んでいます。
トウキビ粉で酒造り!
プロジェクトは「北海道の資源と魅力を最大限に活かした道産コーンウイスキーづくり」をコンセプトとして令和3年にスタートしました。令和4年にプロジェクトからリリースする道産コーンウイスキーの条件を以下のとおり定めました。
・原材料は、北海道産トウキビを主原料とし、北海道で採水された水に限ること
・麦芽は必ず使用しなければならない
・糖化、発酵、蒸留は、北海道内の蒸留所で行うこと
・木製樽に詰め、3年以上北海道内において貯蔵すること
・北海道内において容器詰めし、充填時のアルコール分は40度以上であること
さらに2022年11月にコーンウイスキーの愛称を募集。2274件の応募から『Gold Quibis』を採用しました。
老舗焼酎メーカーが参加 製造ラインを転用
同プロジェクトには道総研の各部局に加え、北海道内の9団体が参加。北海道産のトウキビや大麦、水、樽用の木材を用いてウイスキー製造に挑戦します。
コーンウイスキー製造の一翼を担うのが札幌酒精工業。焼酎メーカーとして昭和8年に札幌市で創業し、道産素材を用いて焼酎やワイン、ウイスキー、リキュール、ジンを製造してきました。
現在はさまざまな酒類を製造する札幌酒精工業。なぜ同プロジェクトへの参加を決めたのでしょうか。岩崎弘芳さん(製造部 理事部長)は「もともとトウキビで酒を造りたかった」と話します。
以前、道産のトウキビを使って焼酎造りに取り組んだこともありましたが、難航。「お酒の原料になるまで持っていくのが難しかった」と岩崎さんは言います。しかし、同プロジェクトではトウキビの製粉過程をN-GRITSが担当。ウイスキーの原料となる良質なコーングリッツを手に入れることができるようになったそうです。
焼酎の蒸留器を転用
札幌酒精工業にも焼酎メーカーとしての強みを生かせると岩崎さんは言います。コーンウイスキー造りに焼酎のラインの一部を転用でき、蒸留には焼酎の蒸留器が使えます。また「ろ過しないでもろみを蒸留する」点など、焼酎造りとウイスキー造りは似ていて、今まで培った技術を生かせます。
札幌酒精工業では試験的に毎年、2キロリットルほどの原酒を生産。そして今年の8月、「SAPPORO CORN WHISKY New Born 1 Year Barrel Aging 60% 300ml(3300円)」を400本限定で販売。すぐに完売になりました。岩崎さんは「まだまだ未熟なウイスキー」と味を評価する一方、売れ行きについて「珍しさと将来性に期待をもってもらえたのではないか」と話します。