1兆ドルコーチ/エリック・シュミット
◾️序文
いまから10年近く前に、シリコンバレーの最大の秘密に関する記事を「フォーチュン誌」で読んだ
秘密と言っても、人間だ
名前はビル・キャンベル、アメリカのフットボールのコーチから転身して、セールスの仕事をするようになった人間だ
ビルは人を輝かせることを喜び、自身は黒子に徹していたのだ
コーチは私たちのポテンシャルを信じるだけでなく、さらに一歩踏み込み、私たちがポテンシャルを実現できるように助けてくれる
私たちがよりよい人間になれるように手を貸してくれるが、私たちの功績を自分の手柄にしない
グーグルの最高のチームは心理的安全性が高く、明確な目標を持ち、仕事に意義を感じ、お互いを信頼し、チームの使命が社会に良い影響を与えると信じていた
彼は自分がコーチするすべてのチームに「心理的安全性」「明瞭さ」「意味」「信頼関係」「影響力」を育むために、労を惜しまなかった
Chapter1 ビルならどうするか?
私たちはビルを「コーチ」と呼んでいたが、彼は友人でもあり、その点で私たちはほかの列席者(葬儀の)と何ら変わらなかった
実際後で知ったのだが、1000人を超える列席者の多くがらビルを無二の親友のように思っていた
ビルのコーチングに対するアプローチ、つまり彼がコーチした内容と方法の両面がユニークであり、とてつもなく-1兆ドルもの価値を生むほど-成功したということだ
企業が速いスピードとイノベーションを実現するために欠かせない「スマート・クリエイティブ」と呼ばれる新しいタイプの人材がいると論じた
スマート・クリエイティブとは、専門性とビジネススキル、創造力を兼ね備えた人材をいう
企業が成功するためには、素晴らしいプロダクトを生み出し続ける必要がある
そのためにはスマート・クリエイティブを引きつけ、彼らがとてつもない成功をなし遂げられるような環境り作り出すことが欠かせない
しかし、この考え方からはビジネスの成功に不可欠なある重要な要素が抜け落ちていることに気付いた
企業の成功にとって、スマート・クリエイティブを活かす環境と同じくらい重要な要素がもう一つある
会社のためになることを個人としても集団としても全力で取り組む「コミュニティ」として機能するチームだ
人は職場の協力的なコミュニティの一員だと感じると、仕事に対する意欲が高まり、生産性が上がることが、研究により示されている
個人より集団の業績を優先する人たちのチームは、そうでないチームに比べて、一般にパフォーマンスが高い
社内でライバルをつくり競わせるよりも、足並み揃えて共通の目標に向かわせることが重要となる
有能なマネージャーやリーダーになるためには、有能なコーチにならなければならない
1994年の研究によれば、マネージャーは「管理、監督、評価、賞罰を中心とした伝統的なマネジメントの概念」を超えて、『コミュニケーション、敬意、フィードバック、信頼をもとにした文化の醸成』をしなくてはならない
この全てをコーチングを通じて生み出すのだ
本書では、ビルが何をコーチしたのか「コーチングの内容」と、どうやってコーチしたのか「コーチングの方法」の両方を考えていきたい
①スタッフとの1on1ミーティングや、難しいスタッフへの対処といったマネジメントスキルを、どうやって信頼関係を築いていったか
②一緒に働く人たちとどうやって信頼関係を築いていったか
③どうやってチームを構築していったか
④どうやって職場に愛を持ち込んだか
Chapter2 マネージャーは肩書きがつくる、リーダーは人がつくる
人がすべて
マネージャーのいちばん大事な仕事は、部下が仕事で実力を発揮し、成長し、発展できるように手を貸すことだ
我々には成功を望み、大きなことを成し遂げる力を持ち、やる気に満ちて仕事に来る、とびきり優秀な人材がいる
優秀な人材は、持てるエネルギーを解放し、増幅できる環境でこそ、成功する
マネージャーは「支援」「敬意」「信頼」を通じて、その環境を生み出すべきだ
支援とは、彼らが成功するために必要なツールや情報、トレーニング、コーチングを提供することだ
敬意とは、一人ひとりのキャリア目標を理解し、彼らの選択尊重することだ、会社のニーズに沿う方法で
信頼とは、彼らに自由に仕事に取り組ませ、決定を下させることだ、彼らが成功成功を待ち望んでいることを理解し、必ず成功できると信じることだ
エリックは10年以上のあいだ、毎週月曜の午後1時にスタッフミーティングを行なっていた
たがエリックはふつうとは違うことを一つやった、スタッフが部屋に入って腰を落ち着けると、ますま一人ひとりに週末は何をしたかを尋ね、旅行帰りの人がいれば簡単に旅の報告をしてもらった
一見行き当たりばったりで仕事とは無関係に見えるが、磨きをかけたコミュニケーション法の一環だった
目的は二つ
一つは、家庭や仕事外の興味深い生活を持つ人間同士として、お互いを知り合えるようにすること
二つめは、全員が特定の職務の専門家や責任者としてだけでなく、一人のグーグラーや人間として、最初から楽しんでミーティングに参加できるようにすることだ
ビルとエリックは、楽しい職場環境が高いパフォーマンスと相関していることを理解し、家族や楽しいことについて話すのが一番だと知っていた
その後、本題に入り、専門分野に関係なく全員が意見を述べるように求めた
ビルはコミュニケーションが会社の命運を握る、実際、2002年のサザンメソジスト大学の研究によると、「誰に何を伝え、共有すべきか」を知ることが、マネージャーの重要な仕事だという
この「知識の共有化」は正しくやればチームのパフォーマンスを高める効果があるため、時間をかけてやってみる価値がある
「1on1」と「業績評価」のためのビルのフレームワーク
・職務に対するパフォーマンス:売上数値、進捗目標、顧客からの評価、プロダクトの品質
・他部署との関係
・マネジメントとリーダーシップ:部下を指導、コーチできてるか、出来の悪い社員の待遇、採用に尽力してるか
・イノベーション:常に前進してるか、新しいテクノロジーを検討してるか
マネージャーは決着をつけよ
決定を下さないのは、誤った決定を下すよりたちが悪い
だが、間違ってもいいから、とにかく行動を起こせ、とビルは教えた
決定を導くための適切なプロセスがあることは、決定そのものと同じくらい重要だ
そして、リーダーがいったん重要な決定を下したら、それに全力で取り組み、ほかの全員にもそうするよう求めなくてはならない
誰もが納得できる普遍の真理が「第一原理(ファースト・プリンシプル)」だ
第一原理はどんな会社にも、どんな状況にも存在する、誰も原理には反論できない
天才とうまく付き合う
マネージャーが抱える最も厄介な問題の一つが、桁はずれに有能だが、仕事がやりにくい社員「ディーバ(傲慢なスター)」の扱いだろう
ビルはこのような人材をうまく扱うことが、経営者の大きな仕事の一つだといい、彼らを「規格外の天才」と呼んだ
規格外のはとてつもない価値と生産性を実現する力を持っている
彼らは目覚ましいプロダクトやパフォーマンスの高いチームを生み出す
功罪の両面を分析する
規格外の天才はコミュニケーションを阻害していないか?
彼らの行動がチームに許容できないほどのダメージを与えていないか
Chapter3 「信頼」の非凡な影響力
短期目標は長期的目標ほど重要ではない、投資を抑制すれば長期的な成長力が失われる
しかし、ビルは反対だった
スリム化を図ってでも数字を達成したい、それが自分たちの目指す文化だと
株主のためではなく、チームや顧客のためにも、結果を出すのが経営陣の仕事だ
信頼とは多面的な概念だ
要は信頼している相手には安心して自分の弱さを見せられる
最高のチームは「補完的なスキルセットを持つ、性格の似通ったメンバーからなる」というのは誤りで、本当に最高のチームは「心理的安全性が最も高いチーム」なのだ
ビルが求めたコーチャブルな資質とは「正直さ」と「謙虚さ」、「あきらめず努力を厭わない姿勢」、「つねに学ぼうとする意欲」である
フリーフォームで話を聞く
いま向き合っている相手に細心の注意を払うことの大切さ、相手に全神経を集中させ、じっくり耳を傾けることの大切さをビルから学んだ
ビルのこの手法を「フリーフォームリスニング」と呼ぶ
誰かの話に耳を傾けると、相手は大事にされていると感じる
スウェーデン・ルンド大学の2003年の研究によれば、従業員の話を聞く、声をかけるといった「ありきたりの何でもないこと」がすぐれたリーダーシップの重要な側面だという
つまり、リーダーの「敬意のこもった問いかけ」に効果があるのは、相手の「有能感(期待に応えられるという感覚)」と、「関係性(他社とつながっているという感覚)」、「自立性(自分でコントロールし、選択しているという感覚)」を高めるからだという
「モチベーションの自己決定理論」とも一致する
元グーグルのキム・スコットは、すぐれたボスになるために必要なのは「相手を大切に思っていることを分かってもらえる形で本音を伝える」こと
成功体験を語りの方法について伝授していた、ビルは物語を語れとコーチしてくれた
「人は物語を理解すれば、それを自分の身に置き換えて考え、何をすべきを悟る」
Chapter4 チーム・ファースト
私たちマネージャーは、とかく目の前の問題に囚われがちだ
・状況はどうなっている?
・問題はなんだ?
・選択肢は何がある?
コーチはより本質的な問いによってチームを導こうとする
・誰が問題に当たっているのか?
・適切なチームが適所に配置されているか?
・彼らが成功するために必要なものは揃っているか?
CEOの立場に立ったら、今まで以上に人に賭けろ、チームを選べ、人とチームのことをもっと考えろ
ビルは貢献意欲、それも個人的な成功だけでなく組織の大義に貢献する意欲を持っている人を求めた、チームファーストだ
「自分の成功が他人との協力関係にかかっていることを理解している人、ギブアンドテイクを理解している人、つまり、会社を第一に考える人」を探す必要がある
すべきことに集中する
ポジティブなリーダーシップが問題解決を促すことが、研究から分かっている
ビルはチームやメンバーをほめ、ハグし、肩を叩いて自信を持たせ、安心させた
ビルは常に前向きな方法で問題の核心を突いてきた
人々の間にある小さな隙間を埋める
ちょっとさすっただけで直せるような、「組織内の小さなひびに気づくこと」が、コーチとしての自分の役目だと
コーチはそうした亀裂が深く永久的に刻み込まれてしまう前に、行き違いを指摘し、情報のギャップを埋め、誤解を取り除くといった、間違いを正す行動を取ることができる
ブラッドリーはビルの手法を取り、「親身になる許可」を自分に与えた
戦術や技術の問題よりも、チームの問題に優先的に時間を割いた
問題ではなくチームに集中し、チームはそれに応えた
自由を与えれば与えるほど、リーダーたちは率先して動き始めた
Chapter5 パワーオブラブ
会社の最も重要な資産は人だとか、人材第一だとか、従業員が大事だといったことは、企業の建前としてはよく聞かれる
実際に人材を大切にしている企業や幹部がほとんどが、まるごとの存在を大切にしているわけではない
ビルが人々にかけていた愛情と、リーダーが一般に企業社会で求められる堅苦しい規範に捉われずに部下に思いやりを示すことの重要性について述べてきた
このテーマに関して言えば、ビルが大切にしていた愛がもう一つある、それは、創業者への愛だ
ビジョンは創業者への生き様に表れることが多いが、会社の信条や使命、精神を実践する人たちはほかにも多くいる
それらはバランスシートや損益計算書、組織図には表れないが、とても貴重な資産だ
Chapter6 ものさし
企業が成功するためには、コミュニティとして機能するチームが欠かせない
個人的な利益よりもチームの利益を優先させ、会社にとってよいことや正しいことを徹底的に追求するチームだ
こうしたコミュニティは、とくに有能で野心的な人たちのあいだには自然に生まれないため、チームコーチの役割を担う人の介在が欠かせない
◯次はどうするか?
ジョンはこの問題に取り組むために、自分より年上だがバイタリティ溢れる何十人もの人に会って、人生の岐路にどう向き合ったか、熟年期のキャリアにどうやってやる気を保ち続けているのかを尋ねた
・クリエイティブであれ
50歳からが、人生の最もクリエイティブな時期だ、経験知と自由があり、自分の好きな分野で発揮できる
・ディレッタントになるな
ものごとを表面的になぞるのだけはやめろ、何に関わるにしても説明責任と結果を待て
・バイタリティのある人を探せ
そういう人たちで周りを固め、付き合う、自分より若い人たちであることが多い
・才能を生かせ
自分がとくにうまくできること、自分を差別化していることを探せ、自分に目的意識を与えてくれるものを考えよ
・将来のことを心配して時間を無駄にするな
思いがけない偶然を生かせ、人生の転機のほとんどは予想もしない、思いがけないかたちでやってくる
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?