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映画「鍵泥棒のメソッド」に見る自由について【ネタバレあり】

「鍵泥棒のメソッド」という映画がとても好きだ。10年以上前に公開された映画である。テレビ放映された録画をいまだに時々観ている。

この映画は、「自由」の使い方がとても良く表現されている映画だと思う。時には面白く、時にはせつなく、「自由」という観点からこの映画を考えてみたい。ネタバレしているので観ていない方は注意してもらいたい。

映画について

2012年に公開された内田けんじ監督・脚本。2013年第86回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画脚本賞、芸術選奨文部科学大臣賞、第36回日本アカデミー賞・最優秀脚本賞を受賞するなど高評価を得ている映画だ。
出演は、堺雅人、香川照之、広末涼子と主演級の3人が顔を揃える。脇役にも荒川良々、森口瑤子、小野武彦と実力派ばかりの安心感。特に監督・脚本の内田けんじは、高評価を得ているだけあり、素晴らしい。他作品だと「アフタースクール」(2007年)もおすすめだ。

この物語は、主に3人を中心にした物語。売れない貧乏役者の桜井(堺雅人)はある日、生活苦で自殺しようとしたが失敗。仕方なく財布に入っていた無料券で銭湯へ。

そこに来ていたリッチな身なりの殺し屋コンドウ(香川照之)がすべってころび、記憶喪失になる。桜井は、たまたま近くに滑ってきたロッカーキーを盗み、そのまま入れ替わる生活を始める。

記憶をなくした殺し屋コンドウは、貧乏役者桜井に入れ替わったにもかかわらず、婚活中の編集者女性と恋に落ちる。

映画のおもしろさ

この映画の面白さは、対比が極端な点だ。貧富の差、努力家と怠け者、健康の差が描かれる。

貧富の差については、殺し屋コンドウと貧乏役者桜井の対比だ。コンドウは、高層マンションに住み財布にはたっぷりと一万円札が入っている。家の中にあるクッキー缶にはお札が隠されている。
一方の桜井の家は、明らかに安そうなボロアパート。家の中もぐちゃぐちゃで所持金もほとんどない状態。明らかな貧富の差が分かりやすい。

努力家と怠け者について。記憶喪失になってからも、殺し屋コンドウは今ある環境を受け入れ出来ることをやってみる。現状を感情的に嘆くことなく、冷静に対応するところが興味深い。そして役者に対しても前向きに取り組むうちにエキストラから目立つ役を抜擢される。

また、婚活中編集者の香苗も努力家だ。今までどんなことでも努力してきたからこそ編集長になれた。

一方の貧乏役者桜井は、部屋は汚い、本は読みかけ、努力することができないキャラクターとして描かれる。あげくに思いつめて自殺しようとするがそれさえ失敗してしまう。

さらに健康について。婚活中編集者の香苗の父親が癌で闘病中である。貧乏役者桜井は健康であるにも関わらず自殺しようとしたのに対して、自分の病気を疑いつつ明るく生きる父親も隠れた見どころだ。

さらにこの映画で面白いところとして同じ環境なのに、結果が違うところだ。貧乏役者桜井の境遇を、殺し屋コンドウが与えられる。するとあれよあれよとすべてがうまくいってしまう。

一般的に誰かの成功を目にすると、「才能があったのね。」とか「特別な環境だったのだろう。」と考えてしまう。しかしこの映画を観ると、貧富の差や、成功・失敗の原因は、ほぼ自分が原因だとわかる。もちろん、幼少期の環境や努力する才能はあるかもしれない。しかし同じ環境からこれだけ違う結果を出せることを目の当たりにすると、自分自身にも何かまだ出来ることがあるのではないかと勇気がわく。

そうはいっても、努力すればすべてが手に入るわけではない。例えば編集者香苗は、病気の父親に花嫁姿を見せようと婚活をする。相手が決まっていない状態でしっかりとスケジュールを組む。相手の選定時期やウェディングドレスの試着、結婚式の日取りなど。冒頭で部下と業務のようにやり取りするシーンがとても面白い。

また、香苗の父親がいつ亡くなるかということも努力ではどうすることもできない。今まで努力して何もかも手に入れてきた香苗に取っての試練なのだが、それが面白く描かれている。

殺し屋コンドウの記憶が戻ってからも面白い。本来勝手にお金を使われ、だましてきた貧乏役者桜井に対して怒るところだが、ここでもコンドウは冷静に対応する。そして2人の協力が始まる。

そして、すべてにおいてイマイチな貧乏役者桜井だが、だめなりに頑張ろうとするけなげさがまた面白い。結局最後までヘタレで終わるかと思いきや、桜井がうまくしめてくれる。

人生は自分次第

貧乏役者桜井の部屋は汚い。本は読み切れず途中で投げ出している。昔の恋人には未練たらたらで、色々な友達に借金までしている。

一方、殺し屋コンドウが入院先で最初にしたことは、少ない所持金の中からノートと鉛筆を買うこと。そこに現状を書きだす。自分が何をすべきか冷静に把握し対応する。

そして、郵便物をたよりに自宅に戻る。あきらかに貧乏だとわかる家だが、びっくりするほどきれいに掃除する。この映画を観ると、無性に掃除がしたくなる。

殺し屋コンドウは、自身が役者だとわかり、演劇についての本を図書館で借りてくる。そして、通っているらしい演劇学校で学んだことなどもきれいにノートにまとめていく。
コンドウが素晴らしいのは、字も美しいことだ。ノートの文字は美しく理路整然として分かりやすい。

香苗(婚活中)も手料理をふるまう前にシミュレーションをしている。どんなことにでも真面目に取り組むことの積み重ねが編集長という成功に導くのだとわかる。

自由に選べるところ、選べないところ

今まで努力することで何もかも手に入れてきた香苗だが、結婚相手を予定通りに手に入れることが難しかった。
さらに父親の健康についても努力してもどうすることもできなかった。
殺し屋コンドウが手にしていた所持金や住んでいる場所も選べなかった。このような自分で選ぶことのできない自由がある。

一方、殺し屋コンドウは、この不自由な環境の中、前述のとおり出来る限りの努力をすることで事態を好転させている。自由に選べることと、選べないことの区別を冷静に行うことが大切なのだ。

生活に生かす哲学

この映画を観るたびに、私は「コンドウ(殺し屋)や、香苗(婚活中)のように真面目に生きているだろうか」と考えさせられる。
自分で選べる自由をきちんと生かしているのだろうか。また、選べるにもかかわらず不平不満を言ってしまっていないか反省する機会にもなる。

そして、選べない自由について悩んでいないだろうか。最近私が気になるのは老化だ。特に肌のハリがなくなってきている。しかし、もうそれはどうしようもない。香苗や殺し屋コンドウなら計画的にお肌の手入れをするだろう。私もまた今日から努力すべき自由を冷静に判断し、真面目に生きていきたい。

【参考文献】


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