共同作業 ~袖摺れ~
ガタンゴトン。
マッチ箱のような木製貨車に揺られる。
貨車の側面には雨除けのビニールカーテン。
滴る雨粒で視界はゼロ、体感湿度は100%。
厚いビニールの端を摘み、少しだけ捲り上げてみる。
隙間から吹く風が心地良い。
眼下に望むは高知の清流・四万十川。
意外に軽く、きれいに捲れたなと思ったら
向かいに座る男性も同時にカーテンを掴んでいた。
彼と目が合い、微笑み合う。
考えることは一緒だね。
「進行方向左には沈下橋が…」
観光案内に誘われ、またカーテンを捲る。
四万十は予土線の左右を行ったり来たり。
見所が出現する度、二人で捲り上げる。
狭い車内で互いの肘を突き合わせての共同作業。
30分後には息の合ったカーテン捌き。
まるで長年連れ添った夫婦のよう。
でも、50分間の乗車時間はあっという間。
なんちゃって夫婦旅も終了。
小説のように二人の間に何かが生まれることはなく
終着宇和島駅で別れの挨拶を交わした。
こんな雨の旅も悪くない。
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