This is me!自分の文化をつくること
アイデンティティを浮き彫りにされた留学経験
高校3年生の夏、17歳で単身交換留学生として1年間、アメリカミズーリ州の人口1600人ほどの小さな町に行った。
言葉の理解もまだ追いつかないまま飛び込んだ世界は色とりどりの世界という感じ。
成績が良く飛び級して同じクラスにいる2個年下の子。
10代の妊娠出産を経て、それでも高校を卒業するべく自分の弟同じ学年にいるお姉さん。
親が育児放棄をしていて9歳から友達の家で暮らしている子。
チアリーダー、フットボール選手、クラス委員、マーチングバンドメンバーが入り混じった教室内はさながらアメリカのお菓子のようにカラフルだった。その中で唯一の日本人となった私ももちろん、異色であるに違いなかった。みんな、遠くアジアからやってきた小さな日本人に興味津々。
最初は何もかもが新しく、毎日新しい人が話しかけに来て、慣れるまでが精いっぱいだった。だんだん慣れて英語も少しずつ聞き取れるようになってくると、クラスメイト達の個性に憧れを持つようになった。
すべてのことに対して、「自分」の意見を持っているクラスメイト達。政治のことからファッションのこと、宗教のことまで、誰かの受け売りではなく自分の言葉で自分の考えを述べることができる。だれでも、そうだった。クラスの中の、シャイな子ですら。
なんとなく、はみ出してはダメ、という雰囲気の日本が息苦しくて飛び出した世界のはずなのに、自分ははみ出すも何も枠の内側にいて、何に対してもしっかりとした意見を持っていないことを思い知らされる日々だった。
私は何が好きなんだろう?何が苦手で、私って何が得意なんだろう?私のアイデンティティは「日本人」で「留学生」であることだけなんだろうか。アイデンティティはパーソナリティではない、でも私は自分のパーソナリティさえもよくわかっていない。
「はい、あなたはこれが好きでしょ」「これ、あなたっぽいからあげる」「きみはこれが得意だから」「あなたはこういうこと苦手でしょ」
クラスメイトと日々を過ごすうちに、私を「日本人の留学生」というアイデンティティだけでなく、しっかりと「友人」としてくれたクラスメイトたちは、私の好みや私らしいということをいつの間にか私よりも知ってくれていた。そうそう、そうだ。言われてみて気づく、自分の好みや自分の得意分野。
なぜ、このようなことが起こったのか。日本にいたときは、それなりに自分を持っているつもりでいた。でも、それは流行に流されていたり、何となくその場で同意しただけの「私」だったことがあまりに多かった。「これについてどう思うか」なんて自分の言葉で考えるより、誰かと同じ、と答えた方が楽だった。自分には関係ないし、と思うことも多かった。それでも同級生より自分は自分を持っているつもりでいたのだ。自分で考え、留学するということを選んだのだから。
「らしさ」を集める=自分の文化をつくること
結果、この10か月の留学期間は言葉の習得と自分探しの毎日だった。そして10か月たって帰る時もなお、私はすっかりアメリカナイズされた日本人という個性だけ持って帰国した。でもそこからだんだんと、自分の声に耳を傾けるようになった。聞かれなくても、見聞きしたニュースや話題について、私はどう思うかを考えるようになった。
私は、ピンクが好き。アップビートな音楽が好き。踊るのが好き。歴史映画や戦争映画が苦手。物理、数学が苦手。暗記が得意。話すのが好き。チョコミントのアイスが好き。本が好き。シャクヤクのはなとバラが好き。ハチが好き。クモが好き。ダンゴムシが嫌い。ムカデも嫌い。水の中にある人工的に作られたものが怖い。クロエの香水が好き。ミュージカルは好きだけどオペラは苦手。
好きや嫌いを見つけたら、そこには理由があることもわかる。そしてだんだん自分でこういう人間、This is me がわかってくる。
m&mは必ず青から食べる、こだわり。
裂けるタイプのグミは一列ずつ割いて食べる、こだわり。
どんな小さなことでも私たちは今までしてきた選択の上に自分を作っている。好きや嫌い、苦手や得意にいちいち立ち止まってこなかったかもしれないけれど、そのすべてが「自分」という文化をつくりあげていること。
これからの時代は、一人一人の「自分らしさ」が仕事や生き方に大きく左右してくるようになるだろう。その「自分らしさ」は学校で教えてくれるものとは違う。家族や友達と過ごす中にも自分の文化があることを知るだろう。そして何より、様々なことを経験しなければ、自分がそれに対して何を感じどう思っているのか、好きなのか嫌いなのかもわからないのだ。
それを見つけるための教育が残念ながらまだ日本にはない。得意なことを引き延ばしてくれるスカラシップ制度もまだ、ない。飛び級制度も、ない。一律にまぁまぁそこそこできるようになる、平均点取れることを求められるが、そこに個性はない。成績を上げることより経験を買ってでもする時代。もうすでにそういう時代となってきている。気づかない親や大人は大勢いるので、これを読んでいる君がまだ若いなら、今からしっかりと自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の肌で感じたことをもとに、何が好きで何が嫌い、何が得意で何が苦手、など体験を通して知れるような場所へ多く出ていってほしい。嫌いだと思い込んでいたことが好きかもしれない。苦手だと思っていたことが得意になるかもしれない。でもこれは、ほかのだれにもわからない、自分が体験していかないとわからないこと。
This is me!をしっかり持って、他人とお互いの文化を受け入れあう。それがこれからの真のグローバル社会に求められること。外国語なんておまけで身につけばいい。自分の文化をしっかりもとう。その文化を好きになってアピールしよう。世界に君と同じ人は二人といない。唯一無二の存在なのだから。
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