探しものは帰り道に
わたしさあ、今日は泣かないの?
すごい質問やな。大丈夫そうやけど。
我慢しなくていいからね。涙は、"わたし"の感情を知るための道筋だから。
おけおけ。
うわ、やな返事の感じー。
ハイハイ、どうぞ。
つまりね、植物にとっての、雨上がりに雲間から差す太陽の光。それが涙なんだよ。
始まった。
植物ってさ、雨が降らないと育たないでしょ。乾いて、しおれて、地面に倒れてしまう。
そうやな。
でもね、雨が降るとすぐ生き生きするの。雲が開けて、光が差せば、こっちこっちって思い出すように、天に向かって真っ直ぐ、背を伸ばす。
うつくしいなあ。
人の涙もね、外側に現れた感情が向かうべき、真ん中の感情への道筋なの。
一度通った道を戻れ、ってことか。
あと、"わたしたち"では行けなくてね、"わたし"の中へ、わたしだから進めるの。そこでわたしは色を通して、それぞれの時間に流れている感情に出会う。あの時の涙について、思い出せるかな?
…こんなに色があるのか。
黄、赤、緑、オレンジ、紫、水、そして青。黄と緑や、赤とオレンジが重なった色もあるね。出会ったら、ひとつつずつ両手を当ててみて。
黄緑、すごく懐かしい。濃い緑は、あの時かな、ざわざわする。赤とオレンジは…ぎゅっと力が入って…ああ、とてもごめんなさい。この…まるく伸びた感情は何色なんだろう?
それは通り過ぎていいよ。名前のない色に触れるには、まだ時間が必要なの。"あそこにあった"。今はね、それで十分。
恐かったから、触れないでいいなら良かった。うん、少し整理できたかも。
"わたしたち"のふるさとみたいにね、いつでも待ってくれて、帰ったらおかえりって、ぎこちない笑顔で迎えてくれるんだよ。
でも今のわたしじゃ、ふるさとまでは辿り着けないかも。道半ばで引き返して、両膝立てて、なんか食べてそう。
焦らなくていいんだよ。果てを知ることが目的じゃないし、そもそも果てなんてないし。
今はここまでにしておきたい…
わたしが触れた数だけ "わたしたち"は優しくなれる。大切な人の、喜びや悲しみ、怒りに共感するの。さあ、どこまで優しくなるのかなー。
うん、また歩きたい。別の道でもいいけど、この道のもう少し先へ進もうかな。
うんうん。わたしの行きたい場所でいいよ。
それと、今回の、涙は雨上がりに差す太陽の光って例え、ちょっと無理なかった?
ぎくり。
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