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転職有給は人生の夏休み
4年弱お世話になった会社を飛び出して別の(また)ベンチャー企業へ転職するにあたり、有給休暇を取得させてもらった。
業務都合のため細切れに休みを取り、週2〜3出社すると言った具合である。
夏休みというには少し早いけれど、とてもリフレッシュできるよい時間であった。
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ふと思い立って、昨日は自宅の包丁を鎌倉の刀剣屋に研ぎに出すことにした。
実を言うとこの週末は体調を崩しており、ずっと高熱が続いていたせいで、有給を味わうというようなことが満足にできていなかったのだ。
急いでレンタサイクルを借りて、腰越から134号沿いに自転車で滑走することにした。
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なんと気分の良いことだろう。
梅雨も明けていないのに盛夏の日差しに晒されて、肌がジリジリと焦げていくのがわかる。
七里ヶ浜を少しすぎたところで、直射日光から逃げるように裏道に入った。稲村ヶ崎から極楽寺の山の中を通り過ぎれば、木陰がたくさんあって、肌にあたる風が気持ち良い。
そして、ひと足先に羽化したセミがシャワシャワと鳴いている。
それからインバウンド観光客でごった返す長谷を抜けて、いくらか人気の少ない和田塚へ向かった。
笑ってしまいそうになる程、夏を感じる。
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あまりの暑さに眩暈を覚えそうになる頃、ようやく辿り着いたのは刀剣商の菊一だ。鎌倉らしく風情のある佇まいの店構えで、私の母もここに偶に包丁を研ぎに出している。
「包丁、包で2本、研ぎをお願いします。」
久しぶりだったから、どうやってオーダーするんだったか、記憶も曖昧だったがなんとか今日の目的を果たし店を出る。仕上がりは7月末になるらしい。
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久しぶりの自転車で、人混みの鎌倉を散策する気にはなれなかったので、私はもう一度134号沿いに出た。
蝉の声は聞こえないが、照りつける太陽や潮の匂いがどうしようもなく夏を感じさせる。
遠目に見えるロングボードで波に乗る人や、風を受けて目一杯に帆を張るヨット、それから漁港に戻る漁船なんかを眺めながら、みちすがらに買ったソルティライチを一気に飲み干す。
なんて完璧な夏だろうか。
ふと思い返せば、こんな風に季節を感じて1日を過ごすのはいつぶりのことだろう。
この数年は仕事しかしていない。バカみたいに余ってしまった有給がそれを裏付ける。
家族のことも自分のことも置き去りにして、私はオフィスに閉じ籠り、ひどい時には土曜日も日曜日も会社に行った。
もちろん、それはそれで良い経験ではあったが、こうやって…。
心臓近くに去来する少しの後悔と、思い出と。
そういうものを抱えながら自転車を漕いでいる間、私は1人で歌ったり笑ったりしていた。
少し泣いたりもした。
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七里ヶ浜に到着し、パシフィックドライブインに立ち寄った。
ここへ来たのは何年ぶりのことだろう?
七里ヶ浜の岸壁にあるこの店は、開店した時からそのロケーションもありいつも繁盛している。
あまりにも久しぶりすぎて、メニューが変わっていた。
リモートワーク中の夫用に、テイクアウトのランチボックスと、それを待っている間に飲むストロベリーレモネードを注文した。
このレモネードだが、細いストローにイチゴが詰まってしまうせいで、一向に飲み進めることができず『多分これは二度と注文しないだろうな』とか、そういうくだらないことで笑いそうになっていた。
結局テイクアウトのランチボックスが仕上がるまでに飲み切ることができず、苦笑いしながら注文したそれを受け取った。
※散々な書きようだが、ロケーションは良いので、割高でもいい!というときにはここに来る
ここまで2時間半。
寄り道もたくさんして、満足したので帰路に着く。
一度、自宅に飲みきれなかったレモネードとランチボックスを届けてから、最寄りのサイクルステーションに自転車を返却しどうにか帰宅。
すでに肌はチクチクするし、ありえないほど汗をかいた。
シャワーを浴びて、着替えなくては次のことなんか何もできやしない。
午前の仕事を終えた夫と、ランチボックスを食べようとしたとき、夫は目を丸くして言う。
「顔、真っ赤になってるよ!」
すっかり日焼けした私の顔をみてびっくりしたのだろう。何せこの数年、ずっとオフィスか寝室にしかいなかった真っ白な私だったのだから。
鎌倉の海岸沿いを自転車で滑走して、真っ赤になるまで日焼けをして。
今日ほど満足した1日を味わったのはいつのことだっただろう。そんなことを考えてしまうほどに、素晴らしい盛夏の日だった。
「夏休みだよ。これが私の、夏休みなの。」