たまに会社の人と行ってた新橋の飲み屋が爆発した
2023年7月、月初も第一営業日である今日、たまに会社の人と行っていた新橋の飲み屋が爆散した。
しかし、この説明は的確ではない。
なぜなら我々が通っていたのは、爆発した店が入っているビルの階下に入居しているテナントだからである。
その名を「とりスター」といい、地鶏と牡蠣を提供していて、今日日珍しい席で喫煙ができる店だ。
我々はここを愛用していた。
仕事で行き詰まれば飲みに行き、四半期が終われば飲みに行き、何もなくても通った。
薄くもなく、濃くもない、ちょうどいいハイボールで、ドカっと盛られた地頭鶏焼きやらカキフライやら、好きに飲み、好きに食べた。
「また行こうね」
いつも飲み会の帰りには誰かがそうつぶやく、そう言う店であったのに、今日私がニュースで見たその店はみるも無惨に吹き飛んでいたのだ。
□
今日は、月初第一営業日であり、管理部が大爆発する日でもある。まとめて提出される数多の申請、怒涛の入社オリエン、血眼で対応する実査…。
数え上げればキリがないほどのタスクに押し流される日である。
「ちょっと、今日やばくない?」
アシスタントがつぶやき、私は頷く。そう、今日は本当にやばい。
ランチから戻り、修羅の対応を始めようとしたその時に、別の事業部で、同じくあの店にあしげく通っている社員がそっと内緒話をするようにおしえてくれた。
「とりスター、爆発したらしいよ」と。
そんな漫画みたいにバカみたいなことがあってたまるか、と思ったが、彼の表情を見るに、どうもガセではなさそうだ。
慌ててググればみるも無惨なトリスター周辺の動画が私のパソコン画面いっぱいに広がる。もうもうとたちのぼる煙に、散乱する瓦礫。
その一角を切り取れば、その様子はまさにディストピアそのものと言っていい。
しばらく呆然とニュースを見て、それから仕事に戻った。
しかも、不謹慎と怒られることを覚悟で言えば、まあ、月初だからね。これがリアル炎上か。とさえ思ってしまった。
第一営業日は、普段よりもずっと忙しい。
中途採用面接に入り、予算の打ち合わせをして、来週展開予定の資料を作り、申請承認をし、管理部用のシステムを構築する。それから定常業務だ。
そういう果てない仕事をこなしながら、ふとした瞬間に頭をよぎる。
『たまに行っていた新橋の飲み屋が爆発した。』という事実。
仕事の愚痴も、喜びも、あの場所で語り合っていたけれど、それさえ一緒に綺麗に吹き飛んでしまったのだろうか。そんな気がした。
そういえば、2週間ほど前に突然同僚と「とりスター」に行きたくなって、アポ無しで突撃をしたら満席の店内に我々の入る余地はなく帰宅する羽目になったことを思い出す。
まさかあれが最後になるなんて、やめてくれよ?
ふとよぎる一抹の不安を感じながら、どうか「とりスター」が閉店しないで、また営業を再開してくれることを祈ろうと思う。
だって、我々の2週間前に爆発しそうになっていた愚痴は、まだまだ胸中の奥底で静かにくすぶっているのだから。